23 入学試験・二次試験③
スーは短時間で大量の果物をゲットすると、ティナの元へと戻った。
この森は恵みが多い。
学園の敷地内ということで外部の人間が入れないことと、入っても目くらましの魔法がかかっているので、果物を採るなんて悠長なことは出来ないのだろう。
まあ、それともう一つ理由はあるが、関係無いから無視をする。
「まあスーさん、果物を持ってきてくれたの?」
目の前に置かれた果物を見て、ティナが驚いている。
今までスーはフラフラとどこかに行くことはあったが、何かを持ってきたことなどなかった。
「まさか私にくれるの?」
ティナの問いに少し伸びたスーは、大きく頷く。
「ありがとう、実はお腹がペコペコだったの。でもこんなに沢山は食べきれないわ。一緒に食べましょう」
ティナが感謝の言葉と共にスーを撫でてくれる。
スーはデレデレだ。丸い形が少し平べったくなっている。
まだまだ午後6時迄には時間がある。優しいご主人様と一緒に楽しい食事タイムを摂ることにする。
「おい、おまえ」
誰かがスーへと声をかける。
食事中に話しかけるな。無視する。
「おいってば!」
スーの周りをキラキラとした何か飛び回りながらまとわりつく。
無視無視。
スーには見えないし聞こえない。と、いうことにする。
「もうっ、デブスライムのくせにっ、無視するなっ!」
身体の中に果物を摂り込んでいたスーは、ピタリと止まる。
(今何て言った? 羽虫のくせに俺に暴言を吐いて生きていられると思っているのか?)
スーは喋ることはできないが、魔獣同士では念話ができる。
まあ、相手は魔獣ではないが。
スーの頭上を飛び回っているのは、生意気なことにご主人様と同じ人族の形をしているが、背中には羽が生えている妖精という種族だ。
レベルアップする前のスーぐらいの大きさしかない。
こいつらがいると森は茂るし、泉や川の水は清浄になる。果物が多く実っていたのも、こいつらの効果といえる。
人族からは望まれているらしいが、スーには関係無い。
失礼な羽虫を触手で捕まえて、そのまま喰ってやろうかとも考えたが、今はご主人様がいる。
愛らしいペットのスーは、残酷なことをご主人様の前ではやらない。
ご主人様に妖精は見えてはいないだろうが、もしもの場合がある。
ご主人様に気づかれないように叩き落とそう。そう心に決めた。
「なあなあ、おまえスライムなんだろう? なんでそんなにデブなんだよ。それに人族と一緒にいるなんて珍しいな。どうしてだ? 喰うためか?」
(デブデブと煩いっ。俺はデカイだけでデブじゃないっ。それにご主人様を喰うだなんて、何て失礼なことを言うんだ。決めた、お前をぶち殺す。いますぐ殺すっ)
スーの額に怒りマークが浮かび上がる(スライムに額は無いが)
「おいおい、マジで怒るなよ。それにご主人様ってなんだよ、もしかしてお前は従魔なのか? スライムの従魔なんて初めて見た」
(許さん)
とうとうスーの怒りは爆発する。
(だーれが従魔だ。馬鹿にするなっ! 俺をそこいらの野良と一緒にすんじゃねぇっ。俺はご主人様に愛されている愛玩ペットだっ!!)
「ペ、ペット? なんだそりゃ」
スーは得意げに胸を張る(胸がどこなのか分からないが)
妖精はスーに面食らっている。スーの主張の意味が分からない。
野生の魔獣を野良ってなんだ。それに愛玩ペットって、胸を張って言うべきことなのか?
呆れている妖精を仕留めてしまおうとスーは考える。
現在スーは身体の三カ所から触手を出すことができる。両脇と頭のてっぺんだ。
ご主人様から気づかれないように触手で叩き落とすには、どの触手を使うべきか?
「まあ、綺麗なちょうちょさんね」
果物を食べていたティナがスーの頭上を飛び回る妖精に気づいたようだ。
「え、嘘だろ……」
(まさか、ご主人様は妖精が見えているのか?)
妖精もだがスーも驚く。
普通なら妖精は人の目には見えない。
妖精は魔獣や魔物と同類に思われがちだが、肉体の作りが違う。魔素の塊のような存在なのだ。魔力や魔法が目視できないのと一緒で、ある程度の魔力がなければ妖精を見ることは出来ない。
それなのにティナには見えているようだ。スーの頭上を飛び回る妖精の動きを目で追っている。
ご主人様には魔力があるのか?
いや、ご主人様はゲートを通れなかった。あれほど威力の弱い結界ならば、少しでも魔力があれば通り抜けることができるはずだ。
それにこの森に掛けられている目くらましの魔法も、結界よりは強いが、妖精が見えるほどの魔力があれば迷うことはないはずだ。
だがご主人様は、入り口から入ってすぐから迷っていた。
「人族のくせに俺が見えるのか?」
妖精はティナの周りを飛び回る。まるでティナを調べるように。
(こらっ、ご主人様に近づくなっ)
「俺らは、相手のステータスを見ることができるんだ。とは言っても、俺はまだまだ詳しい所まで見ることはできないけど。でもこの人族に魔力は無いぞ」
スーは妖精をティナから引き離そうと、触手で持っていた果物を慌てて放り投げ、妖精へと触手を伸ばそうとする。
「まあ、ちょうちょさんはお喋りもできるのね。声が小さいから何を話しているのか分からないのが残念だわ」
「誰がちょうちょだ。失礼なヤツだな。虫と一緒にするなっ!」
自分の周りを飛び回る妖精をニコニコと見ているティナ。
妖精の方は、虫呼ばわりされて激怒している。
虫とはいっても、この世界のちょうちょは片羽だけで一メートルを超える巨大なものだが。
(声が聞こえている? じゃあご主人様はあの羽虫と会話ができるのか? 俺とは話せないのに……)
ティナに妖精の声が聞こえる不思議よりも、ティナと妖精は話ができるかもしれない可能性があることに絶句する。
自分はどんなに望んでもご主人様と話をすることはできないのに。
ご主人様への溢れる愛を、いつも伝えたいと思っているのに、それが叶わなくて歯痒い思いをしているというのに!
ハンカチを持っていたら、たぶんキーっと噛んで引っ張っていることだろう。
だが実際にはティナに妖精の言葉は聞き取れていない。
スーと妖精の会話は念話だから声の大きさは関係無いが、妖精が発している声は、身体が小さいだけあって、ものすごく小さい。ティナの耳では聞き取れないのだ。
「その人族には僕達が見えているの?」
「スライム怖くない?」
「その人族は僕達を捕まえたりしない?」
木々の後ろに隠れていた妖精たちがワラワラとスー達の所へと集まって来た。
妖精が近くにいることにスーは気づいていた。というか、この森には多くの妖精がいる。
人族が道に迷っているのを楽しそうに見ていたり、魔力がある係員が近づくと逃げて行ったりしている。
果物を集めているスーを見て、珍しいスライムだと注目していた。
もともと好奇心が強いのだろう。
「まあ、他にも沢山いるのね」
近寄って来た妖精達を見て、ティナは喜んでいる。
「あら、でも違う種類なのかしら? 大きさは一緒だけど、ちょうちょさんとはちょっと違うわね。他はキラキラさんね」
妖精達はティナの目にはどう映っているのか。
最初に話しかけてきたちょうちょと後から来たキラキラ達の違いはスーには分からない。よく注意して見ると違うのかもしれないが、興味のないスーはよく見ない。
ティナは違いが分かるようだ。
「ウフフフ、可愛いわね。聞き取れないけど何か喋っているみたいね……。え、あれは何?」
笑っていたティナが何かに気づいたのか顔が一気に強張る。
スーはティナの視線の先を見るが何も見えない。
「やだ、怖い」
ティナは足元にいたスーを抱え上げる。
いつでも逃げられるように。
レベルアップするまえのスーは、ティナの言っていることを理解することが出来ないことが多かった。
ティナから、あっちに行こうと言われても、付いておいでと言われても、スーには分からなかった。
だからティナは逃げようと思った時は必ずスーを抱っこする。
離れ離れにならないように。スーと一緒に逃げるために。
スーを抱える腕に力を入れる。
(ご主人様には何が見えているんだ?)
ご主人様の緊張が抱えられたスーにも伝わって来る。
ティナの見えているものがスーには見えない。気配すら分からない。
困惑するスーなのだった。




