22 入学試験・二次試験②
「二次試験に進む方は、こちらに来てください」
試験官の声の方へとティナとスーは向かう。
十人に一人ぐらいはゲートを通り抜けているようで、ある程度の人数が集まったら、二次試験の説明をしているようだ。
ティナの周りにも十人以上の通過者がいた。
「見えますか? あそこに見えているのがザイバガイト学園になります。この入り口から道なりに進むと到着することが出来ます。道は一本道です。徒歩で十分程度の距離になります」
試験官の指さす方へと視線を向けると、高台の上に大きな白い建物が見える。
あれがザイバガイト学園なのだろう。とても大きいし、建物が何棟も見えている。
入り口から中を見ると、森のように木が生い茂り、そこに一本の緩やかな上り坂の道がある。
試験官が言う通り、道が入り組んでいなければ、そこまで時間はかからないだろう。
「二次試験の内容は、本日の午後六時に学園の門を閉めますので、それまでに学園に到着することです。注意事項として、この森は学園の敷地内となりますので、許可のない魔法や魔術の使用は禁止されています。使用した時点で試験は失格となります。なお、森の中には係員が待機していますので、何かありましたら大声を上げて係員を呼んで下さい。試験をリタイアしたい方も係員を呼んでください。何か質問はありますか? 無ければ試験を開始します」
試験官の話が終わると、受験者達はぞろぞろと入り口から森へと入っていく。
「学園へと向かえばいいの?」
ティナは試験内容がいまいち理解できなかった。
ただ学園に行けば試験は合格ということなのだろうか? 今は午後の時間とはいえ、歩いて十分の距離というのならば、午後6時までには余裕で学園に着くことができる。失格になることはないだろう。
早く試験に合格して、職場に行って紹介状を渡したい。厨房の下働き希望なのだと言えばいいだろうか。
ティナはスーと共に皆に続いて入り口から森へと入って行った。
「あれ、ここどこ?」
道は一本道で、真っ直ぐのはずだった。
道の両脇には木が生い茂り、木と木の間を入っていくような脇道は無かった。
目の前の道を進みさえすればよかったはずなのに、そんなに進んではいないのに、なぜか道が分からなくなってしまった。
入り口から入る前に見ていた道は、何の問題もなかったはずだったのに。
今は右も左も、どっちから来たのかさえも分からなくなっている。
「こっちに行ってみようかしら?」
真っ直ぐに進めば学園に着けるはずだ。だって試験官の人は一本道だと言っていたから。
ティナが進もうとすると、足元が引っ張られた。
「え、スーさん。こっちはダメなの?」
ズボンの端をスーが短い触手を出して引っ張り、どこかに連れて行こうとしている。
(なんだ、このちゃちい目くらましは)
スーはティナを引っ張りながら辺りを見回す。
森全体に目くらましの魔法が掛けられている。
まあ、弱いものだから、スーに効きはしないが。
目くらましの魔法に邪魔されることなく、午後六時までに学園へ到着することが試験なのだろう。
本来なら十分の道のりも、迷ってしまえば学園へ辿り着くことはできない。
『迷いの森』とか名前が付いていそうだな。スーは皮肉気な表情を浮かべる(スライムの顔がどこなのかは分からない)
すでに一緒に入って来た受験生たちは、皆道を外れてどこかに行ってしまった。
ティナもフラフラと、どこかに行こうとするのを触手で掴んで正しい道へと引っ張る。
「そういえば、何時の間にかにスーさんには、お手てができたのね」
ティナの言葉にスーはギョッとして身体を強張らせる。
今までティナに触手を見せたことはなかった。
だがゲートに隙間を作り、そこをくぐらせるために、ティナを呼ぶ必要があった。とっさに触手で呼び込んでしまった。
今もティナがどこかに行かないようにと触手で掴んでいる。
どうしよう? スーは焦る。
ペットは愛らしさが命だ。触手を出すスライムを気持ち悪いと思われてしまったら……。
死ねる。
ご主人様に嫌われたら、確実に死ねる。
スーはティナを掴んでいた触手を放したが、引っ込めるわけにもいかず、おずおずとティナを伺う。
「ウフフフ。大人になったから、色んなことが出来るようになったのねぇ。スーさんと握手できるなんて嬉しいわ」
ティナは屈みこむと、スーの触手を握り上下に振る。
嫌うどころか笑顔だ。
触手を出すスライムなんて世の中にはいないのだが、ティナはそのことを知らない。
パアアアアア。
周りまでもが明るくなるような笑顔をスーは浮かべる(やはりスライムの顔が、どこかは分からない)
ご主人様に嫌われなかった。
それどころか嬉しいと言われた。
俺ってば愛らしいままだった!!
嬉しくなったスーは飛び跳ねたくなるのを堪えて、ティナを近くにあった、倒れた木へと座らせる。
道からは少し外れるが、開けていて日当たりもいい。
小さな触手を両脇から両手のように出し、ここで待っていてとジェスチャーを繰り返す。
あくまで小さな触手なのは、可愛らしさのアピールだ。
ピコピコと触手を動かして、あざとさを演出する。
「ここで待っていろってこと?」
スーの動きからティナが察してくれた。
さすがはご主人様。
スーは少し伸びて、上下に揺れて頷く。
ご主人様は言葉の喋れないスーの言いたいことを良く理解してくれる。
ご主人様大好き! スーの思いは炸裂する。
「分かったわ。朝からバタバタしていたから、少し疲れていたの。ちょっと休むわね」
今日は朝一番で関所を通り、そのまま娼館へと連れて行かれた。なぜか関所に戻っていたけど、今は試験を受けている。
とっくにお昼を過ぎているだろう。
慌ただしくて疲れてしまった。
ティナは座ったまま足を投げ出す。
「あら、スーさん、何処に行くの? ちゃんと戻って来てね」
スーはピョンピョンと飛び跳ねるとティナから離れて行く。
今までもスーは、一人でどこかに行ってしまうことがあったが、ちゃんと戻って来ていた。
ティナは心配していない。
スーも短い触手を出すと、大丈夫と言いたげにピコピコと振る。あくまで可愛らしく。
ティナの周りに魔物や魔獣の気配は無い。今だったら大丈夫だろう。
少し離れてティナから見えなくなると、超スピードを出して森の中を探索する。
朝から何も食べていないティナのために、食べ物を探す。
今までティナと一緒に過ごしてきたから、ティナが食べられる果物や木の実は分かっている。
水も持って行きたいが器が無い。自分の身体を変形させて持って行ってもいいのだが、それではブサイクな姿を見せてしまうことになる。
水分の多い果物を探そう。
スーの身体の中にはワイバーンの肉がある。
たぶんこの肉は人族が食べることができる。
村にいる頃は肉なんて、そうそう食べられなかった。ご主人様は肉が食べたいと、よく言っていた。
肉には栄養があるから食べさせたいが、人族のご主人様は肉を生で食べることはできない。人族は肉を焼かないとお腹を壊すのだとスーは知っている。
森の中には多くの迷っている受験生と、その受験生に見つからないように隠れている係員がいる。
火を起こせば周りに知られてしまうだろう。森の中では魔法すら使ってはいけないと言われているから、火を起こせば試験失格にされてしまうかもしれない。
スーは肉を使うことを諦め、全力で食べ物を集めるしかないのだった。




