21 入学試験・二次試験①
王立ザイバガイト学園は唯一の王立の学園だ。
魔力や能力のある者を教育し、ザイバガイト王国を担う人材を育成するのが目的だ。
能力のある者が埋もれてしまわないよう入学試験は来る者を拒まない。性別や年齢、家柄など、何一つ関係無い。門戸を開けてある。
毎年多くの入学希望者が押しかけてくる。その八割以上は自分に能力が有るかどうか分からない者達なので、能力の有無を知るために一次試験と二次試験を設けている。
試験と名は付いているが、ただ振り分けるためだ。
一次試験では少しでも魔力や能力があればゲートを通ることができるように結界が張られている。
魔力があれば、気づかないうちに通り抜けてしまえる、とても弱いものだ。
二次試験も同じようなものだ。一次よりも少し難易度は上がるが、魔力や能力があれば簡単にクリアできるものだ。
三次試験からが本試験といえる。そして本試験はとてもレベルが高い。
入学できる者の数は少ない。毎年数千人の入学希望者が押しかける中、合格できるのは百名いるかいないか。狭き門といえる。
そして、せっかく入学できたとしても、途中でリタイアする者も多い。
魔力や能力があっても、それを伸ばすことができないと、すぐに落ちこぼれるし、学期ごとに行われる試験で容赦なく振り落とされてしまう。
ただ途中で退学したとしても学園のステータスは高く、入学したというだけで仕事に困ることは無い。
ハロルド=ヴェルダートは王立ザイバガイト学園の生徒で、今学期から3年生になる。
この年齢に関係無く入学できる学園では、生徒の年齢はバラバラだ。もっと幼くして上級生の者もいる。
だが、能力が高ければ早く入学するのかというと、そういうわけではない。
現にハロルドは魔力がずば抜けて高く、学園で一、二を争う能力の持ち主と言える。
生まれた時から、その素質は分かっていた。それならばなぜ幼いうちに学園に入学しなかったのか。
それは、貴族の間では15歳になってから学園に入学するという決まりではないが、暗黙の了解のようなものがあるからだ。
それまでは自宅で貴族としての教養やマナーを家庭教師から学び、15歳になると一度の入学試験で合格する。それが貴族の子息子女の在り方とされている。
だから同じ年の貴族は同級生になるわけだが、同じ年で下の学年にいる者や学園に通っていない者は、落ちこぼれや能力無しと陰口を叩かれる。貴族社会では生きづらくなってしまう。
王家や貴族は血を重んじる。
魔力の有無に非常にこだわり、魔力が多くなければ格下に見られる。
だから政治的な思惑もあるのだが、能力も重視して政略結婚を繰り返してきた。それに市井に能力の高い者がいれば養子として迎え入れてきた。
その結果、位が高ければ高い程、能力が高いのは当たり前となっている。
ハロルドも最高位の公爵の息子として、高い能力を誇っている。
「ハロルド、お前が試験の結果に口を出すのは珍しいな」
ティナの試験結果に物申したのを見たのだろう、ニックが声をかけてきた。
ニックはマクエダー侯爵家の次男で、ハロルドとは幼馴染だ。気安い仲だといえる。
能力も高い。
ハロルドとは同じ年で、もちろん同学年だ。
「お前は、あのティナという少女の試験を見ていたか?」
「いや、他の試験監督を手伝っていた」
この入学試験には、多くの生徒達も手伝いに駆り出されている。
そのほとんどが能力の高い者達なので、必然的に身分の高い者となる。そのため手伝いとはいえ職員達よりも家格が上の者がほとんどで、職員よりも上位の仕事をしている。
ハロルドは試験監督、ニックは試験監督の補佐をしている。
「ティナという少女はテイマーで従魔はスライムだ」
「え!? テイマー自体が希少だが、従魔がスライムとは、これまた珍しいな。そんなテイマーがいるんだな」
テイマーは従魔の能力を使うことを目的としている。
戦闘をさせることは元より、森の探索や移動手段として使うこともあるし、珍しいものでは治療や回復ができる従魔もいる。
スライムを従魔とする意味が分からない。スライムに役に立つ能力は無いのだから。
魔獣をテイムするのは大変なことだ。命がけともいえる。成功しなければ魔獣に反撃され、こちらが魔獣の餌になってしまうこともある。
そんな危険を冒したくないから、攻撃しないスライムを選んだというのか?
「従魔とは少し違うのかもしれない」
「そりゃあそうだろう。スライムはご主人様の命令に従うどころか、理解できないだろう」
「いや、信じられないだろうが、あのスライムは知能が高い。それに結界が見えているようだった」
「は? あり得ないだろう」
ハロルドの話をニックは信じない。
スライムの知能もそうだが、結界は目視できないからだ。
ゲートに張られた結界は最低のものだ。そうなると見えない。余りにも弱い膜は、目に入らないのだ。
結界は能力が高い者だと、その存在にすら気づかずに通り過ぎてしまう。逆に能力が低いとか無い者だと阻まれて進むことができない。見えない何かが有るというやつだ。
目で見るものではない。それが結界なのだ。
「あのスライムは、結界を見て、その隙間に気づいた。そこを広げて主を通り抜けさせた」
「結界を広げる? いやいや無理だ。壊さずに結界を広げるなんて、俺にだって出来ないぞ」
結界を壊すのは能力のある者にすれば、いとも簡単だ。
ましてやゲートに張られた結界は最低のものだから、気づかないうちに壊してしまう。壊さずに広げるなど、どうやればいいのか考えつかない。
「そのうえ突起のようなものを出していた」
「突起? スライムは丸い形をしているが、何か飛び出していたのか?」
「細長い突起が手のように見えた。手招きして主を自分の方へと呼んでいたみたいだった」
「はぁ? そんなスライムがいるなんて信じられない。自分の目で見てみたいな」
「ああ、俺もこの目で見なければ信じられなかっただろうな。ティナとスライムは二次試験に進んだ。二次試験にも立ち会うつもりだ。アール先生に二次試験に立ち会えるよう許可を貰うつもりだ」
「いいねぇ。俺もアール先生に頼んでみるか」
二人は頷き合う。
ハロルドは、一次試験が終われば、他の生徒に仕事を任せて帰ろうと思っていた。だが、もう帰ろうなんて思わない。
ティナと規格外れのスライムが、二次試験に落ちることはないだろう。どんな方法で試験に合格するのか、どうしても見てみたい。
アール教頭は試験監督総括をしている。頼めば許可してくれるだろう。
ハロルドとニックは、アール教頭の元へと向かったのだった。




