24 入学試験・学園サイド
「大変です『迷いの森』に魔獣が侵入したようですっ」
「なんだってっ!?」
ハロルドとニックが、そろそろ二次試験会場である迷いの森へ向かうことを、試験監督の総括をしているアール教頭へ報告していると、慌てた様子で職員がやってきた。
「あの森には従魔を連れたテイマーが何人か入っている。その者達のことではないのか?」
アール教頭が職員へと確認する。
ティナとスーが迷いの森へと入ったのは朝から始まった一次試験が中盤を過ぎた頃だった。その頃には、すでに何十人もの受験者が一次試験を突破し、二次試験である迷いの森の中に入っていた。その中には従魔を連れたテイマーも数人いた。
「テイマーは4名、従魔も4匹迷いの森へ入ったと係員から報告が来ています。ですが魔獣の気配は5匹確認されました」
「なんだって!」
「入り口が開放されているからなのか」
「よりによって……。まさか今日、入り口が開くのを知っていて狙ったのか? 偶然と言うにはありえない」
職員の返答に皆が驚く。
迷いの森はザイバガイト学園の裏に位置する場所にある。
侵入者対策のために森全体に目くらましの魔法が掛けられている。
広範囲への常時発動魔法は、魔石を使用したとしても魔力の消費が大きい。継続することは難しいのだが、迷いの森には妖精達が住み着いている。
妖精は森を清浄にし、活性化させる特性を持つが、能力を上昇させる加護も持っている。
妖精は自分達が安全に迷いの森に住み続けるために、目くらましの魔法を発動している魔石に加護を与えており、魔力の消費が低く抑えられているのだ。
妖精は貴重な特性や加護を持っているが、種族としては非力であり攻撃力は、ほぼ無い。
魔獣や魔物に襲われることがあるし、人族からは利用しようと乱獲され、今では希少種となっている。
迷いの森は妖精達の保護区の役割を担っているといえるのだ。
いくら目くらましの魔法を掛けているとはいえ、その威力は弱い。そのため、侵入者を防ぐために、出入り口は常時閉められている。
出入り口は二カ所だけ。ティナ達が入った裏門と学園側の表門。二カ所は一本道で繋がっている。
迷いの森へ入ることは難しい。
だが年に一度だけ門が開かれ、多くの者達が出入りする日がある。それが入学試験の二次試験会場となる時だ。
その時だけ門は開かれる。
そのため門には係員と警備員が配置され、万全の対策が取られているはずだった。それなのに……。
だが、なぜ魔獣は森へと侵入したのか。
迷いの森には目くらましの魔法がかかっているとはいえ、それ以外に特徴があるわけではない、他の森と違わないただの森だ。そして妖精以外の魔物や魔獣はいない。
今まで妖精を狙って人族が入って来たことはあったが、魔獣が入って来たことは無かった。
やはり妖精が目的なのか。
門が年に一度開かれることを知って、今日を狙ったのだとしたら……。
魔獣にそこまでの考えがあるだろうか? もしそうならば、その魔獣は非常に知能が高いということになる。
もともと知能が高い種族もいるが、知能が高い魔獣はレベルも高い。危険な魔獣だということだ。
「探索者を呼べ! 魔獣を探し出すのだ。それと森の中に入っている係員に連絡を取り、受験生の安全を確保せよ」
「はいっ」
アール教頭の指示に職員は魔道具のスイッチを入れながら走り出す。
森に入っている受験生は、一次試験を通過しているのだから魔力や能力持ちだ。だが訓練も教育も受けていない素人だ。魔獣と出くわしたならば、対処などできないだろう。
それがレベルの高い魔獣なら尚更だ。命の危険すらある。受験生達を早急に保護しなければならない。
そして特に心配なのはテイマーの受験生だ。
テイマーは数が少なく貴重だ。
もともとテイマーの資質を持つ者が少ないということもあるが、テイマーでいられる期間が短い者が多いためだ。
従魔を使役したものの、テイマーとしてのレベルが低いままだったり、従魔との関係を築くことが出来なかったりすると、従魔を押さえておくことが出来なくなってしまう。結果、自分の従魔に襲われてしまうことになる。
テイマーの受験生達がレベルの高い魔獣と遭遇してしまったらどうなるか。
きっとテイマーは自分の身を守るために魔獣を盾にするだろう。だが、従魔はそれに従うだろうか。
受験生は教育を受けてはいない、自己流でテイムした従魔を連れている。
テイマーのレベルも低いし、従魔に掛けている従属の魔法も弱いだろう。
強い魔獣を相手にしなければならなくなり、従魔が嫌がって暴走してしまうかもしれない。
テイマーの制御が効かなくなった従魔は魔獣に戻る。テイマー自身もだが、他の受験生達にも危険が及ぶことになる。
「私達も森へと向かいます」
「だが……。そうだな、頼む。くれぐれも注意してくれ」
「「はい」」
ハロルドとニックの申し出に、アール教頭は一瞬考え込んだが許可を出した。
本当ならば危険と分かっている場所に生徒を送り出すべきではない。それに森の中には受験生達の監督として数十名の係員を配置している。学園の職員達なので、全員が魔法や能力持ちだ。
その者達だけで入り込んだ魔獣を駆除することはできると思っているが、何が起こるか分からない。百パーセント安心だと楽観することはできない。
この二人は学生とはいえ学園の中では特出した強い能力を持っている。教師達すら敵わないことがあるぐらいだ。
受験生の安全のために二人に協力してもらおうと考えたのだ。
妖精の住む森に魔獣が入り込んだということに、アールに古い記憶が蘇って来た。
若い頃に読んだ妖精と魔獣に関する文献のことだ。そこに記載されていたことを思い出した。
「もしかして『妖精喰い』なのか?」
妖精を喰らう魔獣がいるということが文献に記されていた。
魔獣とは言っても元は妖精だった。なぜか同族である妖精を好んで喰うようになり、独自の進化を遂げて魔獣になったのだ。
だが妖精喰いは幻の魔獣だ。
文献に記されていたのも、ほんの数ページだけ。妖精を喰らうということ以外、姿形や特徴、能力すら書かれてはいなかった。
実在するのかどうか分からない。
「まさかな……」
頭を振ると、アールは自分も非常事態に対処するために、場所を移動しようと歩き出したのだった。




