番外編 ペット達からのプレゼント
お久しぶりです。
書籍化情報です。
オーバーラップ様のホームページに書影が掲載されました。
ライトノベル → オーバーラップ文庫 → 来月の新刊 です。
https://over-lap.co.jp/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=9784824016027&vid=&cat=NVL&swrd=
イラストをとくまろ様より描いていただいています。
とても素敵ですので、見てやって下さい。
「これはどうかな?」
ガリガリと紙にペンを走らせ、文字の練習をしているティナに、クライブが1冊の本を差し出した。
思わず受け取ってしまった本は、厚みは余りないが、表紙や作りは凝っている。とても高価そうに見える。ティナの顔はほころんだ。
「まあっ、絵本だわ」
田舎の百姓の娘であるティナが絵本を目にすることなはない。その存在すら知らない筈だが、ティナはすんなりと受け入れる。
「お借りしてもいいんですか?」
「いや、弟が読んでいた物だが、もう必要なくなったから、貰ってくれると嬉しい」
「え、こんな高価なものを……」
「私の手元にあっても、ホコリを被るしかないからな」
そう言うと、ハロルドは戸惑うティナをそのままに、手を振りながら去っていった。
ティナは絵本を胸に、ハロルドを見送る。
そしてその日の夜。後は寝るだけになった時、ティナはスーとちょうちょに絵本を読んで聞かせる。
文字の読み書きが苦手なティナだから、スラスラとはいかない。何度も読み間違えるし、止まってしまう時もある。
だけど、スーとちょうちょはティナが読んでくれることが嬉しくて、ティナの声にうっとりとしながら絵本に見入る。
絵本の中身はよくあるもので、お姫様にプレゼントを渡したくて、勇者が冒険に出るというもので、勇者は困難を乗り越えてお姫様にプレゼントを渡してめでたしめでたしだ。
ということで、二匹はティナにプレゼントを渡すことにした。絵本を読んでくれたお礼だ。
絵本の最後、お姫様が勇者に感謝のキスを贈るのだが、スーは、それをしてほしいなんて思ってはいない。チューが羨ましいなんて、これっぽっちも思っていないのだ。
ご主人様へのプレゼントを探したいのだが、ご主人様と離れたくはない。それはスーの切なる願いだ。だが、ご主人様と、どうしても離れなければならない時間が発生する。それがテーブルマナーの授業だ。衛生管理上、食堂は従魔禁止だ。
スーは身を捩って悲しむが、その間にプレゼントを探すことにした。スーからすれば、その時間は永遠と思えるほどに長いのだが、実際には一時間程度だ。そのため一番近い『迷いの森』に二匹は来ている。
さて、何をプレゼントすればご主人様は喜んでくれるのか。
「よし、俺に任せろ!」
ちょうちょが自分の胸をポンと叩く。
毎年、入学試験のために受験生達が『迷いの森』に入って来るが、その受験生達が見つけたら必死になって捕まえようとする物がある。きっと価値のある物なのだろう。
ティナも喜ぶはずだ。ちょうちょはそう考えたのだ。
素早いために、人族では捕まえることはできない。スーとちょうちょも悪戦苦闘してなんとか捕まえることができた。
学園に戻って来た二匹は、ご主人様の前にプレゼントを差し出した。
二匹はドヤ顔だ。いくら少し鈍……ゲホンゲホン。認識が少し遅いティナでも、ペット達が何を言いたいのか気が付いた。
「ま、まあ、私にプレゼントをくれるの」
二匹はパアッと顔を輝かせる。ティナに気づいてもらって嬉しいようだ。
「あ、ありがとう、嬉しいわ。でも、このきのこさん、嫌がっているみたい……」
二匹が捕まえてきたのは通称 “走り茸”、霊薬の素となる超希少種だ。
とても貴重な物で、ティナは気づいていないが、売れば白金貨が何枚どころか何十枚も手に入るだろう。
パッと見た目は大きめな松茸だが、細い両手両足があり、とても走るのが早い。見ようによっては可愛いとも言えなくもないが、なにより気性が荒い。
“キシャー!”
スー達により蔦でグルグル巻きにされて身動きできなくなっているが、威嚇しまくっている。
「ど、どうしようかしら、苦しそうだから、蔦を取ってあげたほうが、あっ」
困惑しながらも、ティナが走り茸に手を伸ばそうとした時、身を捩っていた走り茸が蔦を引き千切ってしまった。
(ご主人様、危ないっ! いでっ!!)
とっさにご主人様の前へと出たスーに走り茸が襲い掛かる。
(テメェ、どこに口があるんだよっ)
スーは走り茸に噛みつかれてしまった。ツルリとしたムチムチボディに走り茸の歯形が付く。
“ケッ”
走り茸はスーに向かって捨て台詞を吐くと走り出す。そのまま『迷いの森』に通じる扉を開けると、森へと戻ってしまった。
(あの細い手で、あの扉を開けるのか……)
「森には魔獣はいないはずなんだが、走り茸はただのキノコなのか? あの扉、鍵はついてなかったが封印の魔法がかかっていたはずだよな」
スーにとっては『迷いの森』へ通じる扉にかかっている魔法は、どうということはないために出入り自由だ。だが、ただのキノコが魔法のかかった扉を開けられるものなのか。
閉じてしまった扉を、スーとちょうちょは、ただ見つめる。
結局プレゼントは逃げてしまい、スーは、ご主人様からチューされることはないのだった。




