番外編 クライブ殿下の愛すべき存在
皆様、お久しぶりです。
なかなか更新ができずに申し訳ありません。
今まで何をしていたんだと言われそうですが、この度『最強スライム~』が書籍化されることになりました。
オーバーラップ様よりオーバーラップノベルスにて4月20日に発売予定です。(オーバーラップ様のホームページ『オーバーラップ広報室』を見て下さい!)
誇れることではありませんが、お気に入り登録がそれほど多いわけでもない拙作を、書籍化してくださるとのことで、余りの嬉しさに舞い上がっている状態です。
書籍では新キャラが何人も登場します。2万字以上の番外編も追加しています。(本編も追加モリモリです)
書籍購入特典SSも書店さんごとに違っております。全部で7種類あります。頑張って作成しました。
Webと書籍のストーリーは徐々に離れていきます。“焼きスライム” の出番はないと思います。
どう違うのか、見比べてみて下さい。
祝書籍化ということで、番外編を投稿します。カーバンクルちゃんがお家(森)に帰る前のお話です。
よろしくお願いします。
クライブは物心ついた時には神獣グリファスから加護を授けられていた。
そのためクライブには獣も魔獣も近づくことはなかった。クライブが近づいて行けば、全てが脱兎のごとく逃げてしまう。グリファスの気配がクライブに染み付いているのだろう。
動物好き、可愛いもの好きのクライブにすれば、とても寂しかった。
一度でいいから撫でてみたい、抱っこしたい、頬ずりしたい。真顔だが心の中は熱く切望していた。
そんな中カーバンクルが現れた!
クライブが近づいても逃げないし触らせてくれる。なんなら抱っこもできるのだ!
なんという僥倖。
クライブは浮かれぽんち(死語)になってしまった。
幼少期から感情を表に出すことがないようにと教育されてきたし、自身も律していた。そのため表情を変えないというか、いつも真顔だった。美しい人形のように感情の起伏が見当たらない表情筋が仕事をしない人物だった。
それなのにカーバンクルを前にすると、笑顔が溢れている。周り中にキラッキラの笑顔を晒してしまっているのだ。
そんなクライブの変化に周りはドン引きしているが、感動している者達も一握り存在する。
それがクライブの親衛隊だ。
親衛隊は正式な騎士隊で、クライブに忠誠を誓い、クライブの身の安全の確保はもちろん、公務の補佐はもとより、身の回り全ての事に手助けする者達のことだ。身分は国家公務員となる。
クライブは神獣の加護があるために次代の国王が約束されている。そのため親衛隊員は厳選された者達で構成されている。スーパーキャリアだ。
隊長はクライブが神獣の加護を授けられた時より寄り添っており、クライブは隊長のことを “じいや” と呼んでいる。
「グリファス様、見てください。魔獣を触ることができているのです。私が撫でても逃げないのです。ああ、何と柔らかくて可愛らしいのでしょう!」
グリファスに嬉々として笑顔を向けているクライブを見て、じいやや親衛隊隊員達は、物陰から嬉し涙をにじませていた。
親衛隊はクライブの傍仕えだが、目立たない場所に控えている。
「殿下が、あんなに喜ばれているなんて」
「隊長、我々にも何か出来ることはないでしょうか?」
「そうだな、殿下のために出来ることを我々も精一杯やらせて頂こう」
親衛隊隊員達の言葉に、じいやは頷く。
“クライブ殿下のために” 親衛隊の心は一つだ。
クライブが可愛がっているカーバンクルは魔獣とはいえ、とても愛らしい外見をしている。ならば、もっともっと愛らしくしよう。
親衛隊の暴走が始まったのだった。
「王都一のデザイナーを呼べ。カーバンクルの服を早急に作らせるのだ。それに革細工職人もだ。首輪を作らせろ。宝石商も必要だな。服や首輪に付ける宝石を持ってこさせろ」
じいやから指示が飛ぶ。
隊員達は風のように目的地へと散って行く。
流石はエリートの集団。すぐさま職人達を学園へと連れてきた。ほぼ拉致と言っていい。
王都でも有名で腕も一流と言われている者達が集められたのだが、そもそもデザイナーはドレスや紳士服などを作っているのであって、魔獣の服など作ったことはない。皮職人も日ごろは王侯貴族が愛用する煙草入れや財布などを作っているのだ、魔獣の首輪など作ろうと考えたことすらない。
それなのに、問答無用で作れと言われる。断ろうにも国家権力には逆らえない。
そして恐ろしいことに、今この場で作業して作品を作れと言われているのだ。タイムリミットはクライブが昼食を食べ終わるまで。ほんの一時間ほどしかない。助手や弟子たちも全員拉致られて来ているが、不可能だ。だが断るという選択肢が見当たらない。握りつぶされている。
第一の問題が、魔獣のカーバンクルを職人達が触るどころか近づくことすら出来ないことだ。これでは寸法を測りようがない。
遠くから目測で寸法を決めるしかない。
それでもやるしかない。デザイナーは何とか持ってきた子ども服を作り変え、皮職人も貴婦人用のチョーカーを作り変えることにした。なんせ時間がない。
それから職人達は死に物狂いで頑張った。
さすが王都一と言われる職人達だ。魔獣の服と首輪を作り上げた。
出来上がった品には、大量の宝石があしらわれ、ゴージャス極まりない。宝石商の持ってきた商品ほぼ全てが使用されている。
「殿下、こちらをお使い下さい」
じいやがカーバンクルを胸に入れ、豊満な胸をしているクライブへと恭しく品を差し出す。
「ん、何だ? こっ、これは、カーバンクル用の服と首輪ではないか。なんと愛らしい」
クライブは大喜びをした。
しかし……。
「カーバンクルは従属の首輪を外したばかりだ。いくら美しい装飾が施されたとはいえ、首輪は嫌がるだろう」
皮職人が血の滲む思いで作った首輪は、この時点で却下されてしまった。
少し離れた所で、皮職人が涙をそっと拭っている。
「カーバンクル、可愛らしい服がある。もっと愛らしくなるだろう」
クライブはカーバンクルを胸から出すと、嬉々として装着させようとした。
キシャー!
「俺を拘束する気かっ。そんな物より肉を寄越せ、肉をっ!」
カーバンクルは服を着せられそうになり怒りマックスだ。
クライブに襲い掛かるが、神獣の加護を持つクライブに効果はない。だが、クライブの手に持つ服は、あっという間にボロボロになってしまった。
「ああ~」
涙を拭う皮職人の隣に立っていたデザイナーと宝石商が嘆きの声を上げる。
「なんて元気で可愛らしいのだ」
カーバンクルの暴挙に怒るどころか、ニコニコと微笑ましいと笑顔を向けるクライブ。
ガックリと肩を落とす親衛隊隊員達。
結局、カーバンクルは何も身に付けることはないのだった。




