8 ピンチから始まる試験
王都の更に奥、大きな湖を越えると、グレース王立魔法学園はあった。
サラが乗っている馬車が4台は通れるであろう、広くて大きな橋を渡っていると、要塞のような作りの建物が視界いっぱいに入ってくる。
(…大きくて、…美しいわね)
青空の下に建つ、石造の学園は、学び舎というより城に近い作りをしていて、所々にガラスの彫刻や深い赤色の旗が、学園の威厳を表しているように飾られていた。
魔力が溢れる学園だと聞いていたから、少し身構えていたサラだったが、相変わらず身体に異変は表れず、清々しい気持ちで学園を見つめられた。
学園の門まで辿り着くと、カールの紹介があった為特に待たせれることもなく、順調に学園内へと案内される。
「まず、この学園では、家名を出すことをマナー違反としております。ですので、生徒や教師含め、全て名前で呼ぶことが許されているのです。」
(それは、とても嬉しい決まりね。)
侍女のベルダと別れ、学園内の試験会場に案内されたサラは、試験官の話を聞きながら、ホッと胸を撫でおろす。
ベルダは、これから主君が泊まるであろう、寮の方へと案内されていた為、サラは文字通り一人で学園内にいるのである。
「『サラ』とこの学園内では、名乗ってください。お家柄の力が働かない分、ここでは魔力と血筋が全ての基準となっております。」
(…ん?血筋?)
魔力は理解していたが、血筋というのは、どういう事だろう。
知らない言葉に混乱してたサラは、試験官が大きな紫色の水晶の横へ立った事に気付かなかった。
「それではこれより、サラさんの魔力試験を行います。サラさん、全ての魔法具を外して、その水晶に手を当ててください。」
(…え…!?)
「魔法具を外せ」と、サラには聞こえたような気がした。
いや、事実言ったのであろう。
予想外の出来事に、サラは立ち竦んでしまう。
「…魔法具を、外すのですか?」
否定してほしい気持ちのまま、笑顔をつくりながら聞き返すと、
「はい。実力試験ですから。魔法具を取らないとその人の魔力がわかりません。」
と、無慈悲な言葉が返ってきた。
(…ど、ど、どうしよう…。魔法具を取ったら、わたし…魔力出せないわ…!)
思わず、右手に嵌められている腕輪をギュッと握りしめる。
(ノアがこれで入学できたと聞いていたけれど、これを外したらノアだって魔力を扱えないはず。)
一体、どうやってこの場を乗り越えたのか…。
右腕を握りしめているサラを不審に思ったのか、眉を寄せた試験官は、サラの右腕を覗き込もうとする。
「どうしたのです?外せない魔法具でもありましたか?」
このままでは、どんどん怪しまれてしまう。
でも…と思い立ったサラは、早速のピンチにパニックを起こしながらも、ぐるぐると思考を巡らせた。
腕輪を外したら魔法が使えなくなるから、この学園に入学出来なくなる。
きっと、この水晶は魔力を図る魔法具なのであろう。
神聖術を使っても何も反応しないに違いない。
絶対に、魔力を出さないといけない。
どうにかして、腕輪を外さず、試験が受けられたら…。
そこで、あることを閃いたサラは、握っている左腕をそのままに、スッと瞳を閉じた。
(太陽の加護よ…。この腕輪を熱で隠して…!)
心の中で念じた瞬間、右腕が微かに熱くなり、視界から腕輪が消えていった。
「…すみません、外せました。…手で触れれば良いのですね?」
神聖術で、何とか人の目から隠すことは出来たが、魔力を扱える人間からも見えないとは限らない。
緊張で心臓がバクバクと脈打ってるのを感じながら、サラは平常を装ってゆっくりと右手を水晶へ近づけた。
(お願い…これで、何とか…)
けれど、右手が水晶に触れる直前…
「待ってください。」
突然、試験官が固い声を出した。
ギクッと体を硬直させたサラは、恐る恐る試験官の方へ目を向ける。
(…バレた!?)
すると、試験官はこちらを見ていた訳では無く、見えない何かを探して宙を見つめていた。
「…今、何か。不思議なエネルギーを感じませんでしたか?」
いつの間にか杖の様な棒を持ちながら、試験官が真剣な声でサラに問いかけてくる。
サラは、更に緊張感が高まるのを感じた。
(…もしかして、私が熱で腕輪を隠したから、この空間の気温が一気に上がった…?)
サラの得意な神聖術は、太陽の熱や光を操作すること。
蜃気楼のように無いものを見えるようにすることも出来るし、大量の熱で炎を作り出すことも出来る。
先ほど使ったのは、蜃気楼を作る応用だったが、緊張していた為か、いつもより力みすぎていた節はあった。
(お願い…!シルヴァ!)
心の中で叫んだサラは、今目には見えないシルヴァを呼んだ。
すると、冷たい風がサラの頬にあたり、部屋の中の気温が一気に下がってくのを感じる。
「…あら?不思議ね…。エネルギーが消えていく…。」
試験官が、本当に不思議そうに呟いた。
その声を聞いたサラは、どっと疲れが出てくるのを感じる。
(早く…終わらせたい。)
試験官がまだ辺りを見渡している中、腕輪に神聖術を集中させたサラは、そのままスッと水晶に手を当てた。
すると、水晶は僅かに光を出し、不思議な音を奏でる。
その音に反応した試験官は、サラの姿を目に入れると、落ち着き払った声で「結構です。」と手を外すように促してきた。




