9 反省会に…?
「それでは、サラさんには『テイラー』クラスで、学んで頂きます。」
サラが手に触れた水晶を見つめて何かを書き留めながら、先ほどの試験官が抑揚のない声で言い放つ。
「テイラークラス…ですか?」
合格とも不合格とも言われた訳では無いが、「自分がこれから学ぶ」ということは、前者で間違いないだろう。
それでも、クラスに関してまるで知識が無いなサラは、言われた意味がわからず、思わずそのまま聞き返してしまう。
すると、試験官は、掛けていた眼鏡をピシッと直し、鋭い視線でサラを一瞥した。
「そうです。この学園では、3つのクラスに分かれて学んで貰います。そのクラスは、今回の魔力試験の結果で決められ、サラさんはテイラークラスになったと言ったのです。」
(…なるほど。クラスというもので分けることによって、その程度の学力に合わせられるのね。)
納得した表情のサラを、やはり冷たい視線で見てきた試験官は、最後に忠告の様な言葉を発する。
「良いですか。ここは、誰かが助けてくれる場所では無く、自分で学びにくる場所です。何でもかんでも人に聞くのではなく、自分で調べて努力をしなければ、何も得ることは出来ません。血筋とは、人間の知を表す言葉。知識が無ければ魔法なんて使えない事、よく覚えておくように。」
それは、今のサラの甘さを否定するような言葉だった。
ユーマが与えてくれた魔法具と自分の神聖術があれば、何とかなると楽観視していたことが、サラの態度でこの試験官に勘付かれたのかもしれない。
(この学園の事、もっと知る必要がありそうね)
弟と母親のこと以外は、関わらないと決めていたサラだったが、そもそも人間に混じってこの学園で生きていく為には、自分も理解をしなければならいことが沢山ありそうだ。
ベルダとユーマが言ってくれたように、自分は何とかなると言い聞かせてただけで、本当に何も準備が出来ていないことに気付く。
(でも、知ることは楽しい。)
自分が知らなかったことを、少しずつ知れるのは、楽しいこと。
それは、赤ん坊でもわかる事だ。
決して悲観せず、サラは自分の思う通りに過ごせればいい。
「ご忠告、ありがとうございます。これから精進致しますので、よろしくおねがいします。」
挑むような眼で、試験官を真っすぐ見たサラは、自分の中から恐怖とは違う高揚感を感じたのだった。
試験会場を後にしたサラは、試験官に教えてもらった通りに、ベルダが待つ女子寮へと向かっていた。
この学園は全寮制なので、基本的に校舎と寮の往復となる。
当然案内係はおらず、自分一人で寮まで辿り着けないといけないのだ。
この人間界の貴族なら、憤怒する者もいるだろうが、サラは特に気にした様子もなく、教えてもらった道筋を頼りに校舎の廊下を歩いていた。
(それにしても…危なかったわ。)
試験のことを思い返しながら、今は姿を現している腕輪を外す。
(まさか、学園内に入って早々…あんなことが起こるとは。…これから魔力を使って生活しなければいけないのだから、対策もちゃんとしないといけないわね。)
これからのことに思考を巡らせると、やんわりとした風がサラの金色の髪を揺らした。
「さっきは、ありがとう、シルヴァ。お陰で助かったわ。」
誰もいないことを確認すると、白い光に包まれてウルフの姿をしたシルヴァが現れる。
《あれしきのこと…。竜巻を起こすよりずっと簡単だ。》
「確かにそうね。でも、傍にいてくれてありがとう。」
頭を撫でながら笑顔浮かべるサラに、シルヴァも嬉しそうに鼻を鳴らす。
しかし、ピクッと耳を立てたシルヴァは、「誰か来る」と言って、瞬時に姿を消してしまった。
その早い行動に驚く間もなく、サラの耳に衣擦れが聞こえてくる。
不思議に思いながら周りに目を向けると、ここは中庭に面した廊下だったようだ。
目の前には整えられた庭園が広がり、ふわりと花と木の香りが風と共に流れている。
(生命が溢れているところね…)
すると、先ほどの衣擦れが近づいていて、傍の茂みが動いたのがわかった。
立ち止まってその姿を見つめていたサラは、首を傾げながらその正体が出てくるのを待つ。
「…っ!?」
ガサガサっという音と一緒に出てきたのは、…-―漆黒。
一瞬、黒い獣が飛び出してきたのかと思ったが、漆黒の髪をした短髪の男が、腕についた葉っぱを落としながら歩いて来るのが目に入った。
男は、不機嫌な空気を漂わせながら、意思の強そうな眉を寄せている。
(…茂みから現れた…?)
昼寝でもしていたのだろうか、と思ったサラは彼の容姿にハッと息を呑んだ。
よく見たら天界人のように整った顔立ちをしていて、身体は服の上からでも筋肉質で引き締まっているのがわかる。
美しい黒騎士…、そんな言葉が似合う彼をジッと見つめたままでいたサラは、視線に気付いた彼がこちらに近付いてきても動けずにいた。
彼も、サラの事を射抜くように見ていたからである。
(…なんて…)
「…美しい、黒…。」
思ったままを、呆然とした顔で口にしたサラ。
(瞳も髪も黒い。こんな美しい黒色の生命体を見たことが無いわ…。)
真っ黒な髪が、光の加減でキラキラと光っていて。
闇に満ちた深い海のような瞳が、日向に出ると色合いが薄くなり、水晶の様に透明感が出る。
天界人でも黒い髪を見たことがあるが、彼のように輝いた黒は見た事が無かった。
「…そちらに言われると、嫌味にしか聞こえないのですが」
「…え?」
無遠慮に顔と頭をジーっと見つめてしまっていたサラを、一度眩しそうに目を細めて見た男は、少し刺々しい口調でサラを睨んでいた。




