10 出会いは運命
(…嫌味?わたし、嫌味を言ったの?)
思ったままを口にしただけのサラは、自分の言葉の何が嫌味だったのかわからず首を傾げる。
「……」
すると、そんなサラの態度に、苛立ちを滲ませた黒い男は、更に顔を顰めた。
「美しいと言っただけなのに、何故そんなに怒るの?」
「……」
登場から不機嫌さを隠していない様子だったが、自分だけが原因だとは思えない。
その佇まいからは、明らかな拒絶が見えた。
人間に慣れていないサラでもわかる、疑い、嫌悪、怒り、そして見え隠れしている…哀愁。
(…悲しく、美しいオーラ…)
それ以上はわからない。
けれど、何故か惹きつけられる。
(この姿は、まるで…)
初めて人間を美しいと思ったサラは、その衝動のまま彼に近付く。
「怪我を負った、獣のようね。」
真っすぐとした瞳で彼を見つめたまま、怯えた獣に接するように、ゆっくりと膝を曲げるサラ。
何を言っているんだ?と言わんばかりの表情で、瞳を鋭くした彼は一歩足を退いた。
「痛いのはどこ?」
目の前で睨んでくる男がいるのに、サラは穏やかな表情で彼を見上げていた。
曲げた膝は地面につき、揺れる髪からは太陽の神聖術で陽だまりの光を放っている。
「…何を、言っている…?」
「あなたが、怪我している所は何処なのか聞いているの」
「…俺は、何処も怪我してません」
「そうは見えないから言っているの」
傍から見たら異様な光景だったかもしれない。
それでも、サラは言わないではいられなかった。
「初めて会った者に、警戒するのはわかるわ。
でも私は、あなたを陥れたくて言っている訳じゃない。」
「宗教の誘いなら断ります。」
「あら、魔法学園の人間も神を信じるのね。」
絶対に瞳を逸らさないサラに、「一体、何なんだ…」と身体を引かせる彼も、決してサラから瞳を逸らさない。
「宗教でも無いなら、何の為に俺に近付く」
(わからない…。でも…)
彼のオーラを見ていると、胸が締め付けられる思いがした。
何かしなければ…どうにかしなげれば…。
そんな焦燥感がサラの胸を痛ませる。
「自分の怪我に気付いていない人間は…本当に悲しいわね。」
「…俺が、気付いていない?」
いつの間にか困惑した表情の彼に、サラがゆっくり右手を差し出そうとしたその時、
《サラっ!》
風を切り裂く様な音と共に、頭上から輝く鋭利な刃が降り注いできた。
自分の足元に刺さった、氷の刃を見て、サラは瞬時に立ち上がる。
見上げた時には次の刃が自分へと向かってきていたが、足元から大きな獣にすくわれ、浮遊感と共に地面から離れた。
サラは、咄嗟に助けてくれたシルヴァの上に乗りながら、刃が降ってきた方向へ目を向ける。
「びっくりした…。これは…魔法?」
《氷の魔法だな。明らかに、サラ達を狙ってきていた。》




