6 王都への道中
ユーマが送ってくれたシルヴァとは、風の精霊の中でも上級精霊で、人間の目で見えるくらい実体化できる、貴重な精霊である。
ウルフの姿をしたシルヴァは、銀色の艶がある毛並みを揺らしながら、サラの前に現れた。
サラは、その美しい毛並みを撫でながら、嬉しそうに声を上げる。
「シルヴァ、あなたがこっちに来てくれて凄く嬉しい。数刻前にユーマに言われたばかりなのに、速いわね。さすがは、風の精霊長」
《ユーマに、サラが心配だから付いていて欲しいと言われたのだ。天界では、同胞が役割を果たしている。サラが人間界にいる間は、我がサラの風になろう。》
上級精霊ともなると、知性ある言葉が交わせる。
精神的にも、身体的にも、今のサラにとっては有難い存在だった。
「ありがとう、シルヴァ。力を借りるお礼に、私は太陽の加護をあなたに与えるわ。どうか、これからよろしくね。」
そう言ってサラがシルヴァを抱きしめると、淡い黄色い光が二人を包んだ。
暖かく、美しいその光に包まれたシルヴァは居心地良さそうに鼻を鳴らす。
《あぁ、風の精霊シルヴァ、これよりサラと誓約を交わそう》
―それから、数日後、サラは王立魔法学園に向かうべく、馬車の中に揺られていた。
シルヴァに頼めば直ぐにでも王都に行けるのだが、人間社会に慣れた方がいいと、カールからの助言だった。そして、何かあった時の為に、ベルダをサラのお世話係として付けてくれた。
貴族が集まる魔法学園だということで、世話係が必ず付けられるそうだ。
家から指名しても良いし、学園側から手配することも可能だと言う。
サラとしては、人間に慣れていない為、ベルダが付いてきくれる事に安堵したのだった。
大きなシルヴァの毛並みを撫でながら、窓の外を眺めていたサラに、ベルダが恐る恐る声をかける。
「サラ様…。その狼は…」
「あ、シルヴァよ。これから私の力になってくれる、風の精霊。」
「へ、へぇ…せ、精霊ですか…」
裏返った声を出しながら、怯えた様子でシルヴァを見つめるベルダ。
その様子にクスクス笑いながら、サラは撫でていた手を止めた。
「人間界では、精霊を見る機会が少ないでしょうね。存在は知ってる?」
「はい…精霊というものは知っていますが…架空の存在だと思っていました。」
「精霊はいるわ。生命が溢れている所になら。」
そう言ってシルヴァに目を向けると、瞼を閉じていたシルヴァが何かに気付いたように、目を開ける。
《王都で、我の姿は目立つであろう。人間の目があるところでは、サラの風になって姿が見えないようにする》
「……そんなことも、出来るんですね…」
シルヴァの言葉に、何処か達観した表情になったベルダは、頷いてお礼を言うサラに向き合う。
「サラ様、人間界の事…というか、サラ様が滞在される魔法学園でのお立場、ご理解しておりますか?」
サラは、真剣な声を出すベルダに、苦笑いを浮かべながら、昨日までカールに教わった事を述べた。
「私は、カール・ホーエンヴァルト伯爵の紹介で学園に転入してくる、サラ。同じく、既に入学しているノアの双子の姉で、実はカールの隠れ子。最近魔力が覚醒したから、急いだ伯爵が身分を隠して転入させた。…でも、実際は周囲にバレている…と。」
「その通りです。サラ様は、旦那様がお隠しになっていたご息女で、周囲にバレないよう…こっそり転入させますが、弟の容姿が目立っていた為、直ぐに学園中でバレてしまった。平民上がりの、作法慣れしていない、お嬢様です。」
(…そこまで細かく設定する必要、あるのかしら。)
自分が、天界人として学園に転入することは、当然人間界にとっても天界にとってもあってはならない事だ。人間界では、天界人の存在が何の要因に繋がらるかわからないし、天界では必要以上に人間に知られる事はご法度となっている。
サラは、ノアと同様、人間として、魔法学園に転入することとなるのだ。
「…よくわからないけど、ここでは隠し子ってあまり良くないことではないの?カールにとって迷惑になるんじゃ…」
「旦那様への迷惑…というより、サラ様には風当たりが強くなるかもしれません。旦那様は、国王陛下の信頼も厚いからそこまで迷惑にはならないと思います。」
「国王陛下…ね。まるで、興味が出ないわ。」
人間界は、国ごとに住処を分けて暮らしている。そこでは、必ず王がいて、国を反映させ住んでいる人間を豊かにする為に、王という役割を果たしているそうだ。
導いているのは立派だと思うが、サラにとって価値のない生命はいないのだから、国王陛下の役割に対して興味が湧かなかった。
「サラ様、恐れ入りますが、これからここで過ごされるのあれば、御身の為にも受け入れる事をした方がいいと思います。…たとえ、天使様であろうと、郷に入っては郷に従えです。」
「…だから、天使じゃないと言ってるのに…。」
何度言っても理解してくれないベルダに辟易しながら、サラは言われた言葉を理解しようと頭を動かしたのだった。




