5 魔力とは
《…やはり、人間界の学び舎へ行かれるのですね。》
カールと今後の話をした後、暫くお世話になる部屋に案内されたサラは、約束通り礼拝堂の管理者ユーマに連絡を取った。
風に呼びかけると、すぐに目の前に現れた精霊達。
サラたちと似たような人型の姿をした彼らは、小さな体でふわふわとサラの周りを飛び回っている。
その中の一人に、ユーマと繋いでほしいと頼むと、笑顔で頷いた精霊は、白い光を纏わせ目を瞑った後、口を開いた瞬間にユーマの声となっていた。
可愛らしい見目の精霊から、ユーマの低く落ち着いた声がでるところが、少し違和感であったが、サラは事の経緯をユーマに話した。
すると、頭が痛いと言うように深いため息をついたユーマは、ここでもサラを心配してくれた。
「だって、ノアは学び舎に通っていて行方が分からなくなったのよ。カールが言うには、その学び舎は外部からの接触を一切受付けない厳しい決まりがあるらしくて、ここからでは調べるにも調べられないそうなの。」
《…僕が言いたいのはですね、サラはその学び舎で自分がどういうことになるか、わかっているかって事です。》
てっきり、ノア探しについて詰めが甘いと苦言が来ると思っていたサラは、思ってもいなかった質問に目を丸くした。
「え?私のこと?分かる訳無いわ。行った事無いんだもの。」
それに、心配して風の加護を分け与えてくれたのはユーマだ。
人間界にきたものの、こうして風の精霊と話を出来ている限り、問題があるように思えない。
《だから、心配だと言っているんです。…ミネバは心配しなかったんですか?》
まるで自分が父親かのようにサラを責めるノアは、顔を見なくてもしかめっ面であることがわかる。
「もちろん、お父様も心配してくれたわ。でも、私の意思が確かなことが、繋がってわかったみたい。」
《僕だって、サラと意思を繋げましたから、理解しています。ただ、サラはまだ天界人の中でも子供です。それに、魔力のこともその学び舎の事も何もわかっていないでは無いですか。》
「…う…。」
そう、言われてしまうと、サラは何も言えなくなってしまう。
何しろ、人間界のことは必要最低限理解しているが、それ以上のことはまるでわかっていないのだから。
魔力についての理も理解はしている。魔界の話を父から聞いているからだ。
ただ、人間界で魔力がどういった形になっているかは、まるで知らない。
《これからサラが通う学び舎は、魔法が中心となっていると聞きました。何度も言いますが、我々に魔力は効きません。そもそもが別物ですから。その辺りは理解していますよね?》
「う、うん。私たちの力は、生命の加護を受けて力を借りる神聖術。生命の管理や調整が役割。…魔力は、魔族の血を媒体に力を得てる、という事しかわからないわ」
天界が天界人の住む場所なら、魔界は当然魔族が住まう場所だ。
生命の力を借りている天界人と違って、魔界は負の力から出来た生命体。
その生命体は、特殊な血を持っていて、自分たちの体から魔力を放出出来るのだ。
一度だけ、魔族を見たことがあるサラだったが、思い出すだけで気分が悪くなる。
ユーマの言う通り、そもそもが別の生命体なのだ。相性の問題かもしれないが、人間と違って魔族と天界人の相性はかなり悪い。
魔力が効かない分、魔族の負のオーラを天界人は好まないのだ。
《そこまでは合っています。魔族の負のオーラも、生命に例えられるかもしれないですが、あれには呪いが多く含まれています。生命を脅かす呪いは、天界人にとって不要なものですからね。》
「その魔族の血が、人間に混じっている…ということね。」
《はい。人間と魔族は、僕たちと違って昔から繋がりが深いですから。サラの言う通り、それを媒体として魔力を操っているのでしょう。》
話を聞いているうちに、少しだけ恐怖が込み上げてきた。
天界人と相性が悪い魔族の血を引いた人間の集まりに、これからサラは飛び込もうというのだから。
カールに聞いたところによると、魔力は全人類が持っているものでは無いらしい。
だが、魔力が強ければ強いほど、高い地位に行ける傾向にあるそうだ。
きっと、サラにとって得体のしれない人間の巣窟なのだ。
「…私には、魔族の血が流れていない。そこで、ユーマに聞きたいのだけれど、魔力は私でも扱えるかしら?」
《恐怖が出てきているでしょうに…。でも、流石はサラですね。答えは、今のサラでは出来ません。といった所です。》
「え!?出来る可能性があるの!?」
魔法については絶望していたサラだったが、ユーマの言葉に思わず精霊を鷲掴みしてしまった。
《ちょっと、不用意に触れると精霊が喜んじゃいますから…。はい、だってサラは半分人間の血を引いるでしょう。魔族の血は一切ありませんが、人間の血を引いているなら可能性はあります。》
「…良かったぁぁ…。さっき、カールと話していて、その学び舎は魔力が使えないと通えないって聞いたから。」
《だって、ノアが通えているのですよ?不可能ではありません。》
「ノアと私は、違うって言ったのユーマだけどね…」
《そういう違いではありません。その部分なら、ノアとサラは同じです。》
違う部分がとてつもなく気になるが…一抹の希望が見えてきたサラは、ユーマの言葉に集中することで考えるのをやめた。
「それで、どうすれば良いの?」
《特殊な魔法具を使います。加護の力を魔力に変換してくれる魔法具があるのですよ。》
「そんなものがあるの!?」
変換…そんな便利なものがあるなら、何も問題は無いでは無いだろうか。
《天界人も馬鹿ではありません。魔族といざとなった時の為に、ちゃんと魔力を研究している天界人もいます。ただ、使えるのは肉体を持つ者になるので、私たち天界人は使えません。つまり、使えるのは人間の血を引いている、ノアとサラだけです。》
「天界人が扱えないのに、私たちだけ扱えるものを、研究していたの?」
《魔力を研究中、と言った所です。だって、僕たちには魔力が効きませんから。逆に魔族に神聖術は効きますけどね。ちなみに、この魔法具を提案したのはノアです。》
「…そんなの、知らなかった。」
弟の話を聞けば聞くほど、遠い存在に思えてくるサラ。
天界にいたころ、間違いなく自分たちは二人で一人だったのに、人間界で暮していくうちに、ノアに何か変化があったのだろうか。
《そんなに暗くならないで下さい。ノアは、その学び舎に入るのに必死だっただけですよ。》
「…うん。」
それでも、気持ちが落ちてしまうのはしょうがない。
こんなところでも、ノアは自分より先を行っているのだろうか。
《元気がなくなったサラに朗報です。今話をしながら、シルヴァをそちらに送りました。彼に例の魔法具を渡してあるので、受け取ってください。》
「…仕事が早いわね、礼拝堂の管理者様」
《誰にものを言っているのですか。サラみたいな子供より、長命な僕の方が何倍も有能ですよ》
(…一言余計なのよね。)
それでも、生まれた時から自分を見守ってくれる、兄のようなユーマに感謝の言葉を述べずにはいられなかった。




