1 逸る気持ち 天界
―ここは、人間界より遥か遠く、天界人が住む天界。
人間界では、神と崇められた者達が、生命の調整管理をする為に存在する世界。
人間界のように、人が住みやすい環境を整えているとは言い難いが、所帯を持ち、緑あふれる村のようにひっそりと暮らしているのが天界人だ。
ここでは、存在している全てが、お互いを認め合い、生命の力を借りて各々の役割を果たしている。
その天界でも、蔦が伸び茂る石造りの建造物が並ぶ場所がある。
強すぎる太陽の光が、その建物、宙に近い礼拝堂の廊下を照らしていた。
厳かな礼拝堂の中と違い、暖かな風が通り過ぎる廊下からは、美しい天界の風景が見下ろせる。
石畳の廊下を突き進むサラは、いつもならその風景を立ち止まって眺めるのだが、今は前しか見えていない足取りで、真っすぐ目的地まで歩み進めていた。
(ノアからの連絡が途絶えた…。何かあったに違いない。)
陽の光を集めた色の緩くウェーブのかかった長い髪が、焦っている彼女の後を追うように輝いている。
弟より少し大きな瞳をしたサラは、天界人より少し低い鼻をしながらも、彫刻のように整った顔立ちをしていた。
幼少期、亡き母親の面影を探しに、人間界へと降りた双子の弟…ノア。
自分より後に産まれたはずなのに、いつも一歩先へ進んでいて、追いつこうと頑張るサラを優しく振り返る弟。
サラは、いつまで経っても、弟の背中を追っている気がした。
(助けを求めているかもわからない状況が怖い…)
ここでは、時間の流れが人間界とは異なる。
自分の感覚では、ノアと離れて十年も経っている気がしていたが、人間界のノアにとっては数年単位のことなのかもしれない。
それまでの間、定期的に手紙のやり取りはしていた。
お互いの近況報告や、人間界でノアが何を感じたか。他愛もない話もあったが、サラにとっては大事な弟と唯一繋がれる連絡手段だったのだ。
それなのに…突然手紙が途絶えた。
最初は、遅れているのかと思った手紙も、一カ月以上音沙汰が無いとなれば、心配にもなる。
別れてからずっと姿も見ていなかったため、余計な不安が胸を駆け巡っていた。
途絶えた意味がわからないからこそ、恐怖も湧いてきた。
逸る気持ちを抑えながら、サラは、礼拝堂の奥にある、人間界へのゲートを目指した。




