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竜はまだ山にいる  作者: るるる


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5

セレスは驚かなかった。

「そう」

ただそれだけだった。

「明日の朝に術を使うわ」

「出発はそのあと」

「山へ向かうために必要なものを準備しておいて」

レインはこくりと頷いた。

医者への挨拶もそこそこに、治療室を飛び出す。

廊下を駆け抜け、そのまま備品管理室へ向かった。

父を助ける方法があるかもしれない。

その可能性だけで、足は自然と速くなる。

------

備品管理室は詰所の奥にあった。

武器や防具、見回り用の道具が保管されている部屋だ。

壁には槍や剣が整然と掛けられ、棚には水袋や縄、携行食の箱が並んでいる。

普段なら見慣れた光景だった。

だが今のレインには、必要な物を探す場所にしか見えなかった。

扉を開けると、中では先輩兵士が帳簿をつけていた。

羽根ペンを走らせていた男が顔を上げる。

「レイン?」

いつもなら軽口の一つでも飛んでくる。

だが、レインの顔を見るなり表情が変わった。

「どうした」

レインは息を整えながら言った。

「装備を借りたいんです」

男が眉をひそめた。

「見回りか?」

レインは首を振る。

「親父の件です」

その一言で男の表情が変わった。

「トーマスさんのか」

「原因を調べに山へ行きます」

男はしばらく黙った。

「お前が?」

「はい」

短く答える。

自分でも無茶を言っている自覚はあった。

だが、それでも行かなければならない。

少し迷ってから続ける。

「エルフの旅人がいます」

「親父を診てくれた人です」

「その人と一緒に」

男は目を瞬かせた。

「……報告にあったエルフか」

レインは頷いた。

男は椅子にもたれ、短く息を吐く。

「トーマスには悪いが、俺たちにはこの町を守る仕事がある」

男はそう言って短く息を吐いた。

「本当なら人を付けたいところだが、今は手が足りん」

椅子から立ち上がり、棚の方へ向かう。

「準備をしよう」

「俺はここを離れられん」

「その代わり、お前に託す」

レインは力強く頷いた。

父はまだ助かるかもしれない。

セレスの言葉に確証はなかった。

それでも、治す方法があるかもしれないと言われたのだ。

原因を突き止めれば間に合うかもしれない。

今のレインには、それだけで十分だった。

「ありがとうございます」

そう言う声は、自分でも驚くほど前を向いていた。

------

夕方になるころには、一通りの準備が終わっていた。

背負い袋には携行食と水袋。

腰には借り受けた剣。

見回りとは比べものにならない荷物の重さが肩にかかっている。

それでも不思議と嫌な重さではなかった。

レインは詰所を出ると、そのままダンカンの宿へ向かった。

西へ傾いた日が、山と町を赤く染めている。

普段と変わらない夕方の景色だった。

宿へ入ると、ちょうど客足の落ち着いた時間だった。

アイナは帳場の奥で何やら細かい作業をしていた。

色の付いた紐や小さな布切れが机の上に広がっている。

レインが入ってきたことに気付くと、慌てたようにそれらを手元へ引き寄せた。

「レイン!」

姿を見つけるなり声を上げた。

レインは背負い袋を軽く持ち上げる。

「明日の朝、山へ行く」

アイナの表情が固まった。

「セレスさんから聞いたけど……。本当に?」

「ああ」

短く答える。

「しばらく帰れないと思う」

その言葉に、アイナは何か言いかけて飲み込んだ。

代わりに視線を逸らし、小さく頷く。

その時、奥の厨房からダンカンが姿を見せた。

「準備は終わったか」

「はい」

ダンカンはレインの荷物を一通り眺める。

そして一度だけ頷いた。

「なら後は飯食ってけ」

ダンカンはそう言って厨房へ戻っていった。


レインは窓の外へ視線を向ける。

夕日に染まった山が、町の向こうに静かにそびえていた。


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