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竜はまだ山にいる  作者: るるる


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2

レインは昼近くまで眠った。

目を覚ました頃には、窓の外はすっかり明るくなっている。

山から吹き下ろす風は冷たいが、昼の日差しはまだわずかに暖かい。

朝、アイナが作ってくれた食事を腹に入れた途端、眠気に負けるように寝台へ倒れ込んだ記憶がある。

単独巡回の緊張は抜けていたが、足にはまだ少し疲れが残っていた。

「……昼からでいいなら、だったな」

小さく呟き、レインは顔を洗う。

朝に勤務を交代した父は、まだ詰所にいる時間だ。

家の中は静かで、時折山風が窓を鳴らす音だけが聞こえていた。

出かける前に、棚に置かれたランプを手に取った。

油はまだ半分ほど残っている。

山からの風が強くなる季節は、夜の灯りは欠かせない。

冬前にもう一度買い足した方が良さそうだ、と頭の片隅で考える。


外套を羽織って家を出ると、昼の町には木を削る音が響いていた。

竜の山の麓に広がるこの辺境では、木材が町の主な産業だ。

運搬前の丸太が道の脇に積まれ、風に混じって新しい木の匂いが流れてくる。

父の話では、この辺りで採れる“竜鱗木”は質が良く、町の外でも高く売れるらしい。

山風に晒されて育つせいか、冬でも狂いにくい木だと聞いたことがある。

レインは木の匂いが染みついた通りを抜け、 二本煙突の宿へ向かった。


——


二本煙突の宿へ近づくと、入口脇でダンカンが薪を割っていた。

太い腕を振り下ろすたび、乾いた音が昼の空気へ響く。

ダンカンはレインに気づくと、手を止めて軽く顎を上げた。

「おう。起きてきたか」

「さっき起きました」

「アイナなら中だ」

「朝からずっとそわそわしてるぞ」

レインは小さく苦笑した。

「……そんな気はしてました」

ダンカンは愉快そうに笑い、割った薪を抱え直した。

レインは軽く会釈して宿の扉を開けた。


——


宿の扉を開けると、昼時を過ぎた食堂には穏やかな空気が流れていた。

受付では、アイナが帳簿を開きながら何やら作業をしている。

レインに気づいた途端、隠しきれない笑みを浮かべた。

一方、窓際の席ではエルフ――セレスがちょうど食事を終えたところだった。

卓上には、綺麗に食べ終えられた皿が並んでいた。

静かに食器を置き、湯気の残る茶を一口飲む。

昨夜は冷たい印象ばかりが目についたが、今は少し違った。

窓から差し込む昼の光のせいか、肩の力が抜けて見える。

わずかに目を細める横顔は、思ったより穏やかだった。

他の客は見当たらない。

その様子を見て、アイナがさらに嬉しそうにしているあたり、食事でも気に入ったのだろう。

「レイン、来た来た」

声を潜める気もなく、アイナは手招きした。

レインは小さく息を吐きながら受付へ向かう。

「……あんまり騒ぐなよ」

「だってエルフだよ?」

「聞こえるって」

セレスはちらりとこちらを見たが、特に気を悪くした様子はない。

アイナは少し身を乗り出した。

「それで? 話聞くんでしょ?」

「いや、まず聞いていいか確認する」

レインはそう言ってから、窓際のセレスへ視線を向けた。

昨夜は巡回中だった。

だが今は、ただ話しかけに来ただけだ。

何を聞くかも決めないまま、レインは口を開いた。

「あー昨日ぶりです」

「少し話を聞いてもいいですか?」


「ええ、いいですよ」

それだけ言うと、セレスは再び茶に口をつけた。



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