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異世界に聖女召喚(失敗)されたおじさん 婚約破棄された悪役令嬢と一緒に世界を救う旅に出ます  作者: 世界


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追う者と追われる者

ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。

「女神様の魂が、瘴気に…?そんな、そんなこと!許されるわけがありませんわ!」


 マリアロイゼが激昂して叫んでいる。無理もない、この世界の住人は皆、女神を心から信じて崇拝しているのだ。バーソロミューの街で見た巨大な女神の神殿と、そこに祈りを捧げに詣でる人々を思い出せば、それは容易に想像できた。そして、その想いはマリアロイゼとて例外ではないのである。

 そんな彼女からすれば、女神の魂が瘴気に変えられてしまったなど、何よりも信じ難く許されざることなのだろう。


 それはバハムートも同じのようで、女神から直接生み出され、直の付き合いもあったバハムートからすれば、あまりにも納得のいかない結果であると思っているのは明らかだった。マリアロイゼの叫びに苛立ちを見せながらも黙って聞いているのは、バハムートも同じ気持ちだからだろう。


 この世界の出身ではない天児からすると、女神そのものに対する崇拝や畏敬の念はあまり無いが、ここで問題なのは瘴気に変わってしまった女神の魂が、どれほどの力を持つのかという点である。基本的には人間の魂が天寿を全うしなかった時に変異するのが瘴気であるが、その力の強さはこれまでの旅の中でまざまざと見せつけられ、体感してきた。だが、それらはあくまで人間の魂である。女神という、ある意味この世界では究極の存在が持つ魂の力が、並の人間のものと同じだと考えていいのかと、天児は、何より恐ろしく思えた。

 

「…お前らは、芳魂の神殿から来たんだったな?もう一度、行ってみるか」


「芳魂の神殿に…?何故です?」


「あそこなら、女神の魂の行方について、ある程度の目星がつくだろう。もしかすると、女神の魂は特別かもしれん。少なくとも、瘴気になっているかどうかだけでも解るはずだ」


 バハムートの提案は、まさに一縷の望みと言うべきものであった。少なくとも、一度は転生している事からみて、女神の魂は転生のシステムに組み込まれているのは間違いない。確かに強い力を持つ魂であれば、瘴気にならないという可能性も考えられるが、そんなに都合のいい話があるのかという気持ちにもなる。万が一、という点で言えば、エリーゼは火災によって命を落としたのではなく、その前に寿命で死んでいた…という方がまだ有り得る気がする。

 どちらにせよ、希望的観測であることに変わりはない。それでも可能性がゼロではなく、また他に手掛かりもない事から、採れる選択肢は他にない様に思えた。

 だが、天児達は失念していた。この状況でエリーゼが殺されたとなると、一番怪しいのは誰なのかということを。


 その時、天児達のいる部屋のドアをノックする音が響いた。誰もが客に心当たりはない、宿の主人だろうか?


「はい、どなたですか?」

 

「あー…主人のグラハムですが、お客様、お代について少々…」


「宿代?変ですわね、もう支払いは済んでいるはずですが」


 最初に海猫亭に泊まる際、長期の利用になる可能性があるからと、マリアロイゼは一週間分の宿代を前払いで支払っていた。今更、代金について何の話があるのだろう。疑問に思いつつ、天児がドアに近寄ろうとした時、バハムートが険しい顔をして、それを制止した。


「待て…!妙だぞ、外にいるのは一人じゃない、大勢いる。武器を持った奴がたくさんだ」


 バハムートはクンクンと鼻を鳴らし、警戒態勢を取った。と同時に、ドアの鍵が解除され、複数の兵士達が室内に飛び込んできた。


「クカミテンジィとその一味だな?貴様にはこの街の住人複数に対する放火殺人の容疑が掛かっている!加えて、貴様らは一昨日、王都に向かう飛龍船を襲った容疑もかけられているではないか。大人しく縛につけ!」


「な!?」


 思わぬ展開に、絶句する天児達。確かにエリーゼを探していた天児の姿は、街の住民達に目撃されていた。理由を知らぬ者達からすれば、天児が彼女を探し、見つけた為に殺害したと捉えられてもおかしくはない。だが、飛龍船を襲ったと言うのはどういう事なのか。乗組員には事情を説明したし、実際に、瘴気によって変異した男の死体と、魔物使いの男の身柄は引き渡しておいたはずだ。何より、その始末はマリアロイゼの実家であるドラグ家が付けてくれる手筈であった。

 

「おやめなさい!その方は無実です、大体、飛龍船の襲撃などするわけがないでしょう!?」


「黙っていろ、マリアロイゼ・ドラグ。貴女にも聖女召喚を妨害した罪で出頭、または逮捕命令が出ている!一緒に来てもらうぞ!」


「くっ…!?」


 嵌められた。考えてみれば王家の中にも敵はいるのだから、手を回してくるのは当然だっただろう。しかし、飛龍船の襲撃までこちらの責任にされるとは思ってもみなかった。このままでは、王都に送られて処刑されるのは火を見るよりも明らかだ、ここで捕まるわけにはいかない。

 天児の両手に手錠がかけられようとしたその時、バハムートが合図をして、フレスヴェルグは超高音の鳴き声を発した。


「ーーーーーーーーーッ!!」


「うっ、なんだ!?」


「ぐわ、耳が!」


 およそ人の耳には聞き取れないその鳴き声は、超音波のように室内にいた人間達に影響を及ぼす。三半規管を麻痺させられた兵士達は耳を抑えて蹲り、ある者は身体を痙攣させ、ある者は嘔吐して身動きを封じられていった。世界樹の雫の影響下にある天児とマリアロイゼだけが、それを無効化できているようだ。


「今だ!二人共、こっちだ!」


 バハムートはそう叫ぶと同時に、窓を開け放って一足先に外へ飛び出す。続けて天児達が外に出ると、バハムートは空中で元のサイズに戻り、二人と一羽を乗せて一気に空高く舞い上がると、加速して飛び去ったのだった。


「バハムートさん、ありがとうございます。フレスヴェルグも、ありがとう、助けてくれて」


「構わん。しかし、どういうことだ?何故急に手配が…」


「解りません、が、王子ならば強権を発動するのは難しくないのでは…ロゼさん、どうしたんです?大丈夫ですか?」


 天児が横を見ると、俯き青い顔をしたマリアロイゼが身体を震わせていた。寒さ、というわけではなく、恐ろしい事態を想像してしまったかのような顔だ。


「あれが王子の手によるものであれば、お父様やお兄様、それにお母様は失脚させられてしまったかもしれません。或いは反逆者の身内として、捕らえられてしまったのやも…私は、どうしたら…」


 こんなにもマリアロイゼが弱気になるのは珍しい。これまでは王子を相手にしても、怒りを見せ、愚弄するほどの態度だったにもかかわらず、今はまるで気弱な貴族令嬢そのものだ。家族を愛するマリアロイゼには、それほど大きなショックを受けることだったのか。彼女の震える身体を優しく抱きしめて、天児は静かに寄り添った。自分にもマリアロイゼが脱獄する事になった責任の一端はある、そう考えると、言葉が出ない。


「おい、お前達、どうした?様子がおかしいぞ」


 そんな二人のただならぬ様子にバハムートが気付いた瞬間、遥か前方に、滞空する複数のワイバーン達が見えた。それぞれのワイバーン達の上には、騎士風の恰好をした人間達が乗っている。さらに先頭には、ワイバーンよりも一回り大きな竜種、キングヘルカイトが陣取っていた。

 

「抜かったな…人間共め、待ち伏せとはやってくれるではないか…!」


 バハムートは、昼間の強い太陽光を避ける為、夜間よりもずっと低い高度を飛んでいた。そこを突かれた形だ。大量の武装した兵士を乗せるワイバーン達は網を張るように陣を取り、あれを突破するにはもっと速度を上げる必要がある。しかし、バハムートの上に乗る天児とマリアロイゼは、先程から戦意を喪失したように座り込んだままだ。この状態では、あまり速度を上げると振り落としてしまう恐れがあった。迂闊な事も出来ず、バハムートは逆に速度を落として、接敵を遅らせる事を選んだ。


 これが、更なる危機を招くことになるとは、まだ誰も気付いてはいなかった。

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