嵐の後の静けさ
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
ジャンとマリアロイゼの勝負から一晩経った翌朝。天児達はバージニアの外で朝食を取っていた。
「ああ、久し振りのテンジ様の手料理…美味しいですわ…!」
涙をこぼしながら焼き魚や肉の串焼きを両手に持って頬張るマリアロイゼ。その横では、フレスヴェルグとバハムートも、同じ物を一心不乱に食べ進めている。天児はと言えば、その傍らで複数の焚き火を用いて、次々と要求されるおかわりを絶え間なく供給していた。
何故、彼らが朝からバーベキューをしているのかと言えば、昨夜の大立ち回りが原因である。
天児は勝負が始まる前に、ジャンの催眠スキルによって正気を失ってしまったので覚えていないが、眠っている間に起こった勝負はそれは凄まじいものだったようだ。マリアロイゼは複数のホーンギャロップを相手にしただけでなく、リヴァイアサン曰く変異種という、突然変異をしたと思われる個体と渡り合ったらしい。天児もバーベキューの前に確認したが、とんでもない大きさのホーンギャロップだった。あれと一対一で戦って勝ったというのだから、さすがはマリアロイゼである。天児は感銘を受けつつも、またも肝心な時に役に立てなかった自分を恥じていた。
話を聞いてみれば、マリアロイゼは激闘の中にあってもリヴァイアサンの加護によって特に大した怪我もせずに済んだようだが、その代わりに尋常でないカロリーを消費したようだ。天児が目を覚ました時には、やつれて消耗しきったマリアロイゼが真っ白に燃え尽きていた。
ただ運が悪かったのは、昨晩の戦闘の影響で街の人々が怯えてろくに眠れず、朝から食事を確保できる店が閉店状態にあったことだ。なにしろ宿である海猫亭の主人も起きて来なかったほどである。ゴーストタウンのようにしんと静まり返った街の中では、マリアロイゼの空腹を癒す食事など手に入らないので、こうして天児が手ずから、街の外に出てバーベキューを振る舞う事になったのであった。幸い、食材は近隣の森や海で獲れるのだから問題ない。
「スープももうすぐできますよ。…ああ、バハムートさん、落ち着いて食べて下さい。まだまだおかわりたくさんありますから!」
外見こそ少女であっても、バハムートは元々巨大なドラゴンだ。その顎の力は見た目通りの力ではない。あまりにも食べる勢いが凄いものだから、串焼きの鉄串諸共肉に食らいつき、ボリボリと噛み砕いている。ちなみに、この鉄串は料理用ではなく、武器屋で売っている新品の鉄矢を応用したものだ。串にしては若干太すぎるものの、羽と矢じりを外してみると、思ったより使いやすかった。
「いや、肉を焼いて食うのがこんなに旨いとは…!俺は肉も食うが、大抵その辺にいるのを生で踊り食いだからな。人間がどうしてあんなにせせこましく生きているのか解らなかったが、なるほど、これなら納得だ」
なんだか恐ろしい発言を聞いた気がするが、敢えてそこには触れない事にする。喜んでもらえているのだし、細かい事を言う必要はない。そもそも、バハムート本来の姿は二十メートルを超える巨体だ、生き物を捌いて調理するというのは、面倒な作業に見えるのだろう。そう言えば、リヴァイアサンも人間の食事に興味があるようだった。いつか彼や神殿のオババにも手料理を振る舞う機会があるのかなと考えて、天児の顔から柔らかな笑顔がこぼれている。
しばらくして、ある程度の食事が済んだ所で、食後の歓談の時間になった。カップに注いだお茶をゆっくり飲みながら、森の風景を眺めて落ち着く。心地よい風が吹く度に木々がかすかに騒めいて、昨晩の大騒動がまるで嘘のようだ。
「そう言えば、ジャンさんはどうなったんです?…なんか、ロゼさんが跳ね飛ばしたとかなんとか」
天児はふと思いついて、頭の片隅にあった事を聞いてみる。別に操られた事を根に持っているわけではないが、そもそもあのキャラクターはちょっとお近づきになりたいタイプの人種ではないせいだろう。…決して、操られた事を根に持っているわけではない。
「ああ、彼なら昨夜のうちに聞いた話だと、全身を強く打っていて、七十箇所近い数の骨折があったようです。まぁ、命に別状はないようですわ、残念ながら」
全身を強く打つという表現は、元の世界のニュースで聞いた事があるが、さすがの天児も七十箇所の骨折とは聞いた事がない言葉だ。というか、それでよく生きていたと感心する。普通ならば死んでいてもおかしくないような気もするが、異世界では当たり前なのだろうか?
「どうしてアレで生きていたのか不思議でならないのです。私手加減など一切致しませんでしたから…本当に、目障りな」
マリアロイゼは悔しさを滲ませながら呟いた。…やはりどうやら殺意はあったらしい、刑事事件なら故意犯としてみなされるだろう。それにしても、ジャンは本当に幸運な男だ。生きていたという事だけに限って言えば、だが。
「ま、まぁいたずらに人を殺してしまうのはよくないですからね…!」
「そうですわね。ジャンがああも頑丈となると、証拠を残さずに抹殺というのは難しいかもしれませんわ。やはりやるならきっちりとシメなくては…!」
若干ズレた返答だが、恐ろしい事にマリアロイゼの中で新たな覚悟が芽生えている。出来ればあまり物騒な方向に行って欲しくはないが、彼女の嫌いっぷりをみると制限するのは難しいかもしれない。あまり接触させない方がいいか?と考えていると街の方から誰かが走ってくるのが見えた。
「こ、こちらでしたか…ハァッハァッ!み、皆さん、我が主…ジャン様がお呼びです」
息を切らせて駆け寄ってきたのは、昨日、ジャンと共に海猫亭に乗り込んできた男達の一人である。確か、懸命に紙吹雪を撒いていた男だ。どうやら天児達の事を街中探して走り回っていたらしく、全身から滝のように汗が流れていた。その様子と昨日の振り回される様子が重なって、天児は彼に同情の気持ちが芽生え、水の精霊に頼んで冷やして貰った水をコップに注いで、男の目の前に差し出した。
「それはご苦労様です。大変だったでしょう、水ですが、どうぞ」
「あ、いや申し訳ない、ありがとうございます。…ん!?なんだこれは?!うまい…なんてうまい水だ!」
よほど喉が渇いていたのか、男は素直にコップを受け取り、ぐいと一気に水を飲み干した。本当にただの水だというのに、男は大袈裟に驚いて絶讃してみせた。しかもよく見てみると、さっきまで真っ赤になっていた男の顔は、いつの間にか綺麗な血色に戻っている。本当にただの水のつもりだったが、精霊に頼んだせいで、特殊な効果が付加されてしまったようだ。言うなれば簡易的な世界樹の雫と言った所だろう。
やたらと元気になった男…名をトマというらしい、に連れられて、一行は街の中心部に位置する大きな屋敷に入った。領主の館だけあって、建物は立派だし、庭の手入れも行き届いている。ただ、門をくぐってすぐにジャンが変なポーズをした姿を模した銅像がある事を除けば、素晴らしい屋敷だ。若干げんなりしつつも屋敷の中に入り、案内の後に続くと、豪華な装飾が施された大きなドアのついた部屋に辿りつく。ここがジャンの部屋なのだろう、ドアに取り付けられた本人の顔がデザインされたノッカーが気色悪さを演出している。
コンコンコンとリズムよく三回ノッカーを叩いてから、部屋に入ると、全身を包帯でグルグル巻きにされた何かがベッドの上に置いてあった。もしかして、アレがジャンなのか?ミイラ男のようになっているのならまだ解るが、あれでは、まるで繭玉だ。
(ジャンさん、だよな?どうやって呼吸してるんだろう…?)
あまりにも不気味な有り様を見て、天児は思わず現実逃避をするのであった。
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