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異世界に聖女召喚(失敗)されたおじさん 婚約破棄された悪役令嬢と一緒に世界を救う旅に出ます  作者: 世界


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ジャン、倒れる。

ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。

 ―そして、現在。


「て、テンジ様…私、私はもう…っ」


 未だ天児の拘束が外せないマリアロイゼ。彼女の精神は限界寸前であった。あれほど欲してやまなかった、愛する天児からの抱擁。それに包まれて十数分、さすがに自重していた彼女の我慢も最早風前の灯火である。このまま二人で宿に戻ってしまえば…という甘い誘惑が彼女の脳を支配していく。いつもならば、誘惑に耐えるのは天児の方なのだが、今回ばかりは役割が逆転しているようだ。


「なーにやっとるんだ、お前ら…」


 そこへ現れたのは、肩にフレスヴェルグを乗せた、少女の姿をしたバハムートであった。どこかで買った棒付き飴を舐めながら、呆れた顔で天児達を見つめている。


「ば、バハムート様…!すみません、テンジ様がどうしても離して下さらなくて…」


「全部見てたから知っとる。さっさと引っぺがしてしまえばよかろうに」


 今のバハムートがペロペロと飴を舐める姿は、本当に子どものようだ。しかし、正論ではあるが、今のマリアロイゼにはそれが難しい。


「そ、それではテンジ様を傷つけてしまうかもしれません。そんな事、私絶対にできませんわ!」


「ふむ、まぁお前の馬鹿力じゃそうだろうな…おい、フレスヴェルグ、やってやれ」


 バハムートの言葉を合図に、フレスヴェルグはケェ!と鳴いて、衝撃波のブレスを天児に向かって放った。これまで何度もマリアロイゼに向けて放たれたそれも、今回は天児が受ける羽目になっている。つくづく、いつもとは逆の役回りだ。

 ブレスを受けて脳を揺らされた天児は、一瞬にして意識を失い、昏倒した。マリアロイゼは「私、こうやって無力化されていたんですのね…」とボソッと呟き、何かを考えているようだった。対抗策を思いつかれると困るのは天児なのだが、状況が状況なので仕方がないことだろう。

 

「ほれ、さっさと行け。テンジは俺が看ておいてやる。…お前、負けたくないんだろう?」


 目を回して倒れた天児を心配しながらも、マリアロイゼはバハムートの言葉で、その眼に再び炎を宿していった。沸々と湧き上がる闘志と、ジャンへの怒りは、瞬く間にマリアロイゼの心にも熱い火を点けた。ジャンは天児を愚弄しただけでなく、自身の勝利の為の道具にしたのだ。これが許せるはずがない。強く握った彼女の拳から立ち昇る魔力は、碧く透き通っている。激しい怒りに支配された時のように赤黒い炎のようではなく、澄み切った青空のような、清澄とした闘気であった。


「バハムート様、ありがとうございます。私、行ってまいりますわね」


 そう言い残し、マリアロイゼは翼を開いて、低く飛んだ。まるで音を置き去りにするかのようなスピードで飛び去るマリアロイゼを、バハムートは満足そうに眺めていた。


「行ったか。よし精霊ども、テンジを元に戻すぞ、手伝え。っと、俺に言われるまでもなく、か。…コイツ、どれだけ精霊に好かれてるんだ?末恐ろしいな」


 ポリポリと頬を掻くバハムートには目もくれず、天児の周りにはたくさんの精霊達が集まり、その力を分け与えて治療しているようだ。バージニアの街の外は深い森になっている為か、生息している精霊の数が他の土地よりも多い。加えて、近くには海もある。この街は、精霊と同調しやすい天児にとって、この上ない味方がたくさんいる場所と言えた。


「はぁっ!!」


 一方、ジャンは順調にホーンギャロップ達を狩っていた。彼のスキルは催眠と洗脳だが、それだけに頼ることなく、技と身体を鍛えぬいている男でもある。両手に持った双剣で、踊るように戦う姿は、誰もが見惚れる美しさを持っていると評されるほどだ。事実、その性格を知らぬ者達の間では、ジャンのファンは多い。


「これで七体、あと四体も倒せば勝負あったな!」


 この所、周辺で暴れていると報告があったホーンギャロップの数は二十体ほどだが、彼らは複数の群れに別れて森に潜んでいる。いかに迅速に、出来るだけ数の多い群れを探し出せるかも、この勝負の重要な点であった。そして、ジャンは周到に、それぞれの群れが発見された場所と数を把握している。勝負を持ち掛けられたその時から、ジャンは自分が圧倒的有利な立場にいる事を解った上で、その内容を決めたのである。


「卑怯者と後ろ指を指されようとも構わない…マリアロイゼを手に入れる為なら、俺はなんだってやるさ!」


 そう独り言ちながら、油断する事なく最短のルートで次の群れに向かう。予定では、この林を抜けた場所に、四体ほどの群れが居るはずだ。それを倒しきれば、マリアロイゼに逆転はない。ジャンの勝利は、もう目前と言えた。


「ん?何か、近づいてくる…?凄まじい速さだ。これは、マリアロイゼか?!俺に向かって真っすぐに…そうか!遂に負けを認めて、俺の胸に飛び込んでくる気になったんだな!いいだろう、君を受け止めよう。あんな中年に騙されて可哀想に…安心しろ、例え傷物でも愛する女に変わりはないのだから!」


 高速で近づくマリアロイゼの魔力に気付いたのはさすがだが、ジャンは彼女が自分を選んでくれたと信じて疑っていなかった。彼の中では、王子に捨てられたマリアロイゼが、捨て鉢になって中年男の毒牙に引っ掛かってしまったというストーリーが出来上がっている。そして、貴族令嬢としては大きな損失と言える処女性を失ったことも気にしないと、度量を見せているつもりのようだ。実際には天児とマリアロイゼはまだ清い関係であり、ジャンの思考は失礼極まりないゲスの勘繰りであるのだが、それを正す者は誰もいない。


「さぁ!おいで、マリアロイゼ!俺がこの腕で君を抱き…しおぐぁばっ!?」


「邪魔ですッ!!」

 

 全身に纏った魔力によって、木々を打ち倒しながら突撃してきたマリアロイゼは、剣を下ろして両手を広げ、正面に立つジャンを一顧だにせず雑草を払いのけるような感覚で跳ね飛ばした。弾き飛ばされたジャンの身体は勢いよく数十回転し、錐もみ状態で近くの大木に激突した後、その動きを止めた。ピクピクと痙攣している辺り、生きてはいるはずだが、骨折は数か所では済まないだろう。


 そのままの勢いで、マリアロイゼはその先にいる四体のホーンギャロップに飛び掛かった。ジャンが弾き飛ばされた音を聞き、警戒していたはずのホーンギャロップ達も、マリアロイゼの余りのスピードに対処しきれず、あっという間に制圧されてしまった。


「まずは四体…あら?どうやらお仲間がやられてこちらに気付いたのかしら。あちらから近寄ってくれるなんて、わざわざ探す手間が省けました…一体残らず狩り尽くして差し上げますわ」


 離れた場所から、大きく重い蹄の音がいくつも近づいてくる。ホーンギャロップ達にしてみれば、すでにこの森に棲む同種達の半数以上が倒されたことになる。彼らにどれだけの仲間意識があるのかは不明だが、自分達を排除しようと言う存在が現れたことは認識しているのだろう。敵対者に一丸となって対抗しようと考えるのは、当然なのかもしれない。


 近付くホーンギャロップ達を前に、マリアロイゼは息吹を吐いて、全身に漲る魔力と闘気をさらに高めた。常人であれば、彼女の姿は遥かに大きく、頼もしく見えただろう。見る者が見れば、その身体から放たれる力の威力だけで肝を潰してしまうかもしれないほどに。


 マリアロイゼは愛用のハルバードを持たずに素手で立ち回っていたが、それは素早く移動する為と、森での戦いを考慮しての事である。以前、カイネ山でスタンディングベアーと戦った際、マリアロイゼはハルバードの長さが、森での戦闘にそぐわない事を実感していた。平野での対多数を想定した戦闘では頼りになる長柄の武器も、森のような遮蔽物の多い場所では、逆に取り回しの悪さが欠点になり得るものだ。

 そもそも、マリアロイゼは武器格闘よりも、ステゴロでの格闘を好むタイプでもあった。天児と初めて出会った時、群がる兵士達から武器を奪わずに素手で倒していたのも、そちらの方が得意だったからである。悪役令嬢と呼ばれた学園時代、彼女は規則に従わぬ者や王子に反逆する者を殺さないように徒手空拳で次々に制圧してきた、その名残と言える。

 

「これで十三、計二十体ですわね。…これで終わり、というわけではなさそうですけれど」


 森の中、ちょうど開けた平野にホーンギャロップ達の骸が山積みになっている。思うさま拳と蹴りで暴れ回ったマリアロイゼの額には、月明かりを受けて輝く汗が流れていた。そこへ、地響きを轟かせながら、山間に大きな影が覗く。


 戦いは、まだ終わらない。


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