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異世界に聖女召喚(失敗)されたおじさん 婚約破棄された悪役令嬢と一緒に世界を救う旅に出ます  作者: 世界


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二人の過去

ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。

「テンジ様!テンジ様、お気を確かに!くっ…ジャン、貴方という人は!」


「ハハハハハハッ!どんな手を使っても勝つと言ったはずだ!それに俺の力は君が一番よく知っていたはず、対策を講じなかった君の落ち度だよ!ではな!」


 走り去りながら、ジャンは捨て台詞を吐いていった。マリアロイゼを羽交い絞めにする天児の力は、そう強いものではないが、彼は今完全に正気を失っている状態だ。無理に引き剥がそうとすれば、大怪我をさせかねない。マリアロイゼには天児を傷つける事など出来ないと、ジャンは計算しての行動だった。


(ああ、テンジ様がこんなにも強く私を抱き締めて下さるなんて…なんて幸せ…!いや、そうじゃないでしょうマリアロイゼ!私が目的を見失ってどうするの!ああ、でも、テンジ様の吐息が背中と翼に…うう、どうしたら!?)


 マリアロイゼは完全にパニックに陥っていた。正気でないとはいえ、天児の方から強く抱きしめられて、嬉しくないわけがない。天児は普段から、マリアロイゼとの間に一定の距離を保とうとしている。それは彼の誠実さであり、一般的には美点であるのだが、やはり惚れた相手に距離を置かれるのは辛い事だ。特にマリアロイゼは、自分の美貌にもそれなりの自信とプライドを持っていたので、ここに至るまで天児が折れて来ない事には、多少の不満があったのも事実である。ジャンがそこまで見抜いていたとは思えないが、彼の作戦は想像以上に効果があったのだ。


「ふっ…このアドバンテージを活かさねばな。マリアロイゼ、俺は絶対に君を手に入れてみせる…!俺が勝てば、もうあんな強がりなど言うまい!」


 ジャンはマリアロイゼが負けた時に、自分を亡き者にすると言った言葉が聞こえていなかったわけではなかった。ただ、彼の脳内では、それは本当にマリアロイゼが強がりを言っているだけだと、そう思い込んでいるのであった。



 バルテル家は、代々、強烈な催眠と洗脳スキルを得意とする家系である。公爵家を興した初代バルテル候は、そのスキルを持って敵を操り、味方を増やして王家や他の公爵家の祖先を助け、財と権力を成した人物だったという。ジャンは、そんなバルテル家の歴史を紐解いても、他に類を見ない程に強力なスキルを持って産まれた男だった。

 『凶眼』と呼ばれる邪視によって催眠を施し、その言葉によって洗脳する能力に長けた彼は、幼い頃から忌み嫌われていた。それは、幼少期から発現していたスキルにより、彼は自らの兄を死に追いやってしまったからである。


 きっかけは、本当に些細な兄弟喧嘩であった。玩具の取り合いであったか、おやつの取り合いだったかも定かではないほどの昔。ジャン自身を含めた家族の誰もが、まだ彼のその力の強大さに気付いてはおらず、他愛もない喧嘩のように見ている前での出来事だった。何かの拍子に、ジャンの兄アダンはジャンを突き飛ばし「あっちへ行け!」と言い放った。それだけならば、どこにでもある出来事だっただろう。それに対し、カッとなったジャンは「兄ちゃんなんか嫌いだ、死んじゃえ!」と言い返してしまったのである。

 

 すると突然、アダンはフラフラと歩きだし、ティータイム用に置かれていた小さなフォークで、自らの舌を突き刺した。だが、恐ろしいのはそれだけではない。ジャンの催眠と洗脳のスキルはアダンだけでなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それにより誰もが、アダンの凶行を止めることなく、ただじっと傍観してしまったのである。


 また、ジャンは無意識にスキルを使った為に魔力を使い果たし、その場で昏倒してしまっていた。彼が目覚めて全てを知った時、アダンは帰らぬ人となっていた。それ以来、家族でさえも彼を恐れ、そして疎んだ。また他の誰でもなく、ジャン自らも己の力に恐怖した。マリアロイゼに打ち明けた通り、その後の彼はずっと、忌み嫌われて過ごしていたのである。


 ただ、それほど強力なスキルであっても、制限がある。それは、そのスキルの事を知っている人間には効果がないということだ。勝負が始まる前に、マリアロイゼには効果がないと言っていたのはそれが理由であった。


(私がジャンを嫌うあまり、口にも出したくなくてテンジ様に彼の事を伝えなかったのが誤り…確かに私のミスでしたわね。よもや、テンジ様を狙ってこようとは…私を操ろうとしたあの時から、貴方は何も変わっていないのね…!)


 そう、マリアロイゼはかつて、そこまでジャンを毛嫌いしていたわけではなかった。幼い頃、公爵家が集まるパーティで、会場の片隅で小さくなっている彼の手を引いたのも事実だ。その頃のジャンは自らの力を恐れる余り、内向的で自信のない、大人しい少年であった。当初は彼のスキルの事など何も知らず、見目だけは麗しいジャンがいじけているのを黙って見ていられなかったマリアロイゼだったが、成長して学園でジャンと再会した時、彼は別人のように酷い人物になっていた。

 マリアロイゼに救われたジャンは、彼女に見合う人物になろうと懸命に努力を重ねた。それにより元々高かった能力が見事開花し、次第に自信を取り戻した…まではよかったのだが、そのスキル故か変な方向に万能感を見出し、今の偏った性格へと変貌を遂げていたのである。


 マリアロイゼは王子との婚約が決まっていた為に、ジャンに出会った直後から妃としての英才教育を施されていた。その教育の一環として、各公爵家の持つスキルなど、公になっていない秘密も知ることになる。マリアロイゼがジャンを毛嫌いするようになったのは、学園時代のことだ。


 

 ―四年前、ジャンとマリアロイゼが通う、王都にある王立バースディル学園。


 ここバースディル学園には、古くから学生達が育てるロズィという花の苑があった。ロズィとはこの世界における薔薇を差し、見た目も香りも薔薇そのものだが、棘は無く、非常に頑丈で生育が容易い上にその花や根は食用や薬にもなるという素晴らしい植物だ。

 ここにはかつて、身分の違いから愛を引き裂かれた学生が命を絶ち、その血を吸ったという曰く付きのロズィが存在する。そのロズィの前で婚約に失敗すると、引き裂かれた生徒の無念が働いて愛が成就するという、前向きだか後ろ向きだかよく解らない伝説があった。


 美しいロズィが咲き誇る広く大きな苑に、マリアロイゼは足を踏み入れた。むせ返るようなロズィの香気が全身を包み、少し呼吸をするだけで、胸いっぱいにほのかな甘い香りが広がっていく。マリアロイゼは、ロズィという花の見た目は好きだが、この匂いだけはあまり好きになれなかった。当時、母がこのロズィという花の香りをいたく気に入っていて、家中の至る所で、この匂いの香水が撒かれていたせいである。特にトイレが顕著で、この匂いを嗅ぐとトイレを連想してしまうのが嫌だった。

 

「何の用かしら?ジャン。私、これから経済とマナーとダンスの個人レッスンと、週末の夜会に向けて警備の会議とドレスの採寸が控えているんですけれど…」


 それだけ予定が詰まっていても、呼び出しに応じる優しさをみせるのが、マリアロイゼという女性であった。この頃はまだ王子の無茶が酷くはなかった為、そこまでしわ寄せを受けていなかった事から、苛烈さを発揮することもなく、悪役令嬢などと揶揄されることもなかったのだ。


「すまない。どうしても伝えたい事があったんだ。…さぁ、マリアロイゼ、こっちへ」


 先に待っていたジャンは、東屋に用意された優美な席に、マリアロイゼをエスコートしてみせた。テーブルの上には、貴族御用達のティーセットと、王都で有名な菓子店の茶菓子が並べられている。一般的な女性なら、頬を崩して喜ぶことだろう。だが、先述の通りマリアロイゼにとって、このロズィの香りはトイレを連想させるものであって、とてもここで飲食をしようという気にはなれなかった。


(こんな所に東屋なんてあったかしら…?私、この匂いが嫌でここにはあまり来ないから知らなかったわ)


 内心で疑問を抱きつつも、決してそれを表情に出さないのが淑女の嗜みであると、マリアロイゼは教わっている。その為、多少の違和感はありつつも、ジャンのエスコートに乗って席に着き、話を聞く姿勢になる。


「で、伝えたい事とは?」

 

「ああ、それなんだが…マリアロイゼ、君は俺の事を、どう思っている?」


「良き友人だと思っていますわよ。貴方は実力もあるし、見た目だっていいのだから、何も卑下する事はありませんわ。…最近の貴方はちょっと、空回っている気がしなくもないですが」


 マリアロイゼは、これでも精一杯オブラートに包んだ言い方をしている。実際にはちょっとどころではない空回り方をしていて、一部の生徒たちからは苦情が出ているのだ。特に一番多いのはアビーからの申し出だったが。


「友人、か…そうだろうな。君には王子がいるしな。だが、単刀直入に言おう。マリアロイゼ、俺は君が好きだ!ずっと君を愛している、今までも、これからもずっとだ!…頼む、王子を捨てて俺と付き合ってくれないか?」


「は?」


 何を言いだすのかと、思わず手が出そうになった瞬間、ジャンの瞳が怪しく光った。その眼を見たマリアロイゼは、自身に強烈な魔力が浴びせられた事も理解した。


(どうしてこんな事を急に…?いえ、この場所は…ああ、そういう事)


 その時、マリアロイゼは全てを理解し、激怒した。今の今まで信頼していたというのに、この不埒な男はその信頼を裏切ったのだ。胸の内に沸き起こる怒りは滾る魔力となり、マリアロイゼはそれを使って、東屋の裏手に見える、一際怪しく紅い色をしたロズィを撃ち粉々に消し飛ばしてみせた。


「ああっ!?伝説のロズィが!?」


「ふふふ…私も舐められたものですわね、ジャン。私が貴方のスキルの事を知らないとでも?いいえ、知っていて効果がなかったとしても、あのロズィの伝説に縋ろうという魂胆ですか。実に愚かだわ、私、そういう小狡い人間が大嫌いなのです…覚悟は、よろしいですわね?」


「い、いや、待ってくれ、そんなツモリでは…うわあああああっ!?」


 結局、マリアロイゼの逆鱗に触れたジャンは、回復魔法を以てしても回復しきらない程の重傷を負い、休学した。彼が半年ほどかけてようやく復学した時、マリアロイゼは悪役令嬢としての名を欲しいままにする、恐ろしい女帝として学園に君臨していたのであった。

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