モンスターハント
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「いやいや!ロゼさん何考えてるんですか!?自分を賭けの景品にするなんて…そんな事、僕は許しませんよ!」
天児は珍しく怒りを露わにして、マリアロイゼに食って掛かった。自分はマリアロイゼの為に平気で死にそうな事にも身を投げ出す癖に、マリアロイゼが自身を賭けにしたのは許せないらしい。もっとも、マリアロイゼが口を出したのは方便で、実際は天児を勝負に引き出させない為に言ったことだと解っているからだろう。自分なんかの為に、マリアロイゼに危ない橋を渡らせたくないと天児は本気で思っているのだ。
一方、マリアロイゼは天児の弱さをよく理解している。これまでの旅の中で、天児は大きく成長してきた。肉体的にもそうだが、主に内面的な部分での成長は著しい。天児自身が持っていた特殊能力『メートル・ゼロ』に加えて聖女のスキルを獲得し、リヴァイアサンの加護を得て精霊との同調を果たしただけでなく、バハムートの体内を透視した千里眼というスキルまで手に入れている。
短期間にこれだけの力を手にしただけでも大したものだが、それでも、天児がまともに戦うとなれば、ジャンには手も足も出ないだろう。
マリアロイゼは大嫌いだと放言しているが、ああみえてジャンという男は六大公爵の嫡男だけあって、実力そのものは相当なものだ。ナルシスト気味で、妙な美学とヘンテコなセンスを持ち、人の話を聞かないどころか、聞いても全て自分の都合のいいように変換する頭脳。部下やマリアロイゼ達の呆れた視線に気づかない鈍感力。そんなどうしようもない人間であっても、その力は本物だ。特に戦闘の技術は、学園時代の実技成績では、マリアロイゼと同等という、あのアビー以上の力を持っている。とてもではないが、天児が勝てる相手ではない。
それでも、天児は恐らく、マリアロイゼが危険な目に遭うくらいなら自分が戦う道を選ぶだろう。本当は戦いなど好まず、争い事に向かない性格で生きてきたはずで、身を危険に晒すような経験など皆無だろうに…天児がそういう人間だと、マリアロイゼはよく解っていた。
「ご安心下さい、テンジ様。私の力ならば、ジャンなど敵ではございません。…まぁもし、百歩譲って?または、万が一?私が負けるような事があっても、その時は証拠が残らないように抹殺致しますから…テンジ様の元に嫁ぐまで、綺麗な身体は死守しますわ」
「そういう事言ってるんじゃないです!…っていうか、何するツモリですか?!」
マリアロイゼの瞳は本気だった。冗談抜きで、彼女が負けた時はジャンを殺して自由を奪い取るだろう。恐ろしいのは、仮に彼女が勝っても、結局、ジャンは死ぬような気がする所だがさすがにそこまで悪意があるとは思えない。
そんな二人の横で、ふるふると震えながら、ジャンは怒りのボルテージを高めていた。証拠が残らないように殺すという言葉が聞こえていたのかと思えば、そうではない。
「おい、中年!貴様、さっきからマリアロイゼを馴れ馴れしくロゼロゼと…!なんと羨ましい!いや、誰の許しを得て我が姫を愛称で呼んでいるのだ!この俺だって許されていないのだぞ!」
「え、そこ!?」
そういえば、ジャンは一度もロゼと呼んでいない。今までにマリアロイゼをロゼと呼んでいたのは、アビーとフィナ、そして天児だけである。叔母であるジョゼフィーヌでさえ、マリアロイゼと呼んでいたほどだ。余程の親しさでなければ、愛称で呼ぶことは許さないらしい。天児はマリアロイゼの方からロゼと呼べと頼まれたので、特に気にしていなかったのだ。
「誰の許しを得て…?そんな事は決まっています、他の誰でもない私自らが許可しているのです!だって、私のフィアンセですもの…親しみを込めて呼ぶのは当然でしょう」
「なっ…!?そんなバカな!お前は王子にすら愛称で呼ぶことを許さなかったではないか?!それが、何故こんな男に…」
「口を慎みなさい、ジャン!さっきから何度もこんな男だなどと…!本気でその首叩き落としますわよ?」
マリアロイゼの身体から、ゆらゆらと赤黒い炎のような光が立ち昇る。彼女から発せられるその圧力は、ジャンだけでなく、その部下達も、天児でさえも圧倒される勢いであった。怒りに飲まれ、マリアロイゼはジャンを殺すつもりかもしれない。一歩ずつ、ゆっくりとジャンに近づくマリアロイゼに気圧されながらも、天児は意を決して、マリアロイゼを後ろから抱き締めた。
「落ち着いて、ロゼさん…大丈夫ですから」
口でそう言いながらも、天児の手や身体は震えていた。マリアロイゼがここまでの怒りを見せたのは、フレスヴェルグに天児が飲み込まれた時以来であるが、天児はその時の事を知らない。初めて見る彼女の本気の怒りに恐怖しながらも、こんな事で彼女に人殺しなどして欲しくないからと、天児はとにかく必死で繋ぎ止めようとしている。
「テンジ様…」
ふっ…と、マリアロイゼの怒りが和らぐ。しかし、完全に火が消えたわけではないようで、ジャンを睨む瞳は、変わらぬ殺意に満ちていた。
「くっ…!ええい!ともかく勝負をするというなら乗ってやろうではないか!このジャン・バルテル、逃げも隠れもせん!」
相変わらず変なポーズを決めているが、肝心の部下達は、さっきのマリアロイゼの圧力にあてられて、全員倒れ伏している。ジャンを賑やかしてくれるものは誰もいなかった。正確にはトランペット役の二人だけは、その前に酸欠で倒れていたのだが。
「いいでしょう。では、勝負と参りましょうか?とりあえず先に死んだ方が負けということでー…」
「ロゼさんストーップ!殺しは無しで!っていうか、どんだけこの人の事嫌いなんですか!?」
「だって、ちょうどいい機会ですから…昔っから私をジロジロ見る目が本当に不快だったのです。視線がどこを向いているかなんて、女にはお見通しなんですのよ?」
どうやらセクハラ紛いの言動もあったらしい。とはいえ、天児も同じ男としては、マリアロイゼの身体に魅了される気持ちは解らなくもない。視線に関しては身に覚えがないとは言えないくらいだ。ゾッとする気持ちを殺して、今は胸の内で土下座をしておく。
「あっ!テンジ様はいいんですのよ、たまにちらっと見て顔を赤くするところなんてとてもかわいいので、むしろもっと見て下さい、嬉しいですから、さぁ!さぁ!」
「ええい!俺を差し置いてイチャイチャするな!せっかく王子がいなくなったというのに…許さん、許さんぞ!」
ダンダンと地団駄を踏みつつ、ジャンは子供のように癇癪を起している。貴族だけあって、何不自由のない暮らしをしてきたのだろう。何しろ彼は見た目もいい。確かにセンスは悪いが、普通の女性にならモテるだろう。マリアロイゼへの想いだけが、彼の思い通りにならないものだったのかもしれない。そう考えると少し可哀想な人なのかもしれないなと天児は少し同情する気持ちになった。どうにも甘い所があるのは天児の弱点である。
「それで、勝負はどうするんですの?直接殺すのは勘弁して差し上げますが、出来ればこう…不慮の事故で貴方がくたばるような内容だと嬉しいんですけど」
本当にとことんジャンを嫌っているようだ。ここまで言われても、マリアロイゼを諦めようとしないジャンの鋼のメンタルが羨ましい。ジャンはマリアロイゼの言葉を聞き、明らかに何かを企んでいるような、不敵な笑みを浮かべて叫んだ。
「勝負の内容は、ズバリ…とあるモンスターの狩りだ!最近、この街を悩ませているモンスターを倒しつつ勝負にもなるのならば一石二鳥だからな!」
お読みいただきありがとうございました。
もし「面白い」「気に入った」「続きが読みたい」などありましたら
下記の★マークから、評価並びに感想など頂けますと幸いです。
宜しくお願いします。




