暑い街
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
大海原を臨む絶景が素晴らしい街、バージニア。バーカスター王国の東部沿岸に位置するこの街は、山間から海辺まで広がる大きな街だ。山間部には温泉が湧き、大洋を楽しみながら温泉が楽しめるとあって、王国屈指のリゾート地としても栄えている。
この街は六大公爵の一人、バルテル候が治める領地の中心で、俗に言う領都であり、様々な人や物が集まる大都市だ。今までにいくつかの街や村に立ち寄ってきた天児の目から見ても、この街の規模は凄まじい。街の端から端まででも、徒歩で移動するのは厳しそうな大きさである。王都バースディルにも引けを取らないのではないか、そう思わせるほどであった。
「ほ~!人間達はやる事がデカイなぁ!身体はあんなにちっこいのに、こんなに大きな街を作るとはなぁ」
街に入るや否や、少女の姿になったバハムートが感嘆の声をあげ、小さい身体をぴょこぴょこと跳ねさせながら、楽しそうにあちこちを眺めている。昨夜遅く、そろそろ明け方になろうかという時間帯に、天児達はバージニア近くの山に到着した。さすがに子供連れでそんな時間にうろついては怪しまれるかと、そのまま朝まで待って、ようやく街に入った所である。
朝もまだ早いというのに、バージニアは活気に満ちていた。特に食材などを売る店は開くのが早いようで、飲食店を営む店主や、旅支度をする者たちで賑わっている。山も海もあるというこの街は、売っている食材も多種多様で、眺めているだけでも面白い。気を抜くと行方不明になりかけるバハムートを抑えつつ、天児達は街を散策して回ることにした。
「この街のどこかに、女神様の生まれ変わりがいらっしゃるんですのね。エリシャさん、と仰っていたかしら」
「ええと…エリーゼさん、ですね。エリシャさんが生まれ変わって、エリーゼさんになったと言ってました」
天児はメモを見ながら、マリアロイゼの話を整理しているが、何ともややこしい名前だ。そもそも、女神の名はエリクシアで、どういうわけか転生先も似たような名前になっているらしい。転生は全く新しい人間に生まれ変わると言う話だが、以前の人生を一部引き継ぐ仕様でもあるのかもしれない。
あれこれと興味を持つバハムートに、適度に物を買い与えながら、天児達は一先ず行動の拠点となる宿を探すことにした。いくつかの宿を回り、最終的に海に近い海猫亭という宿に決めた。ただ、どうもこの街に着いてからというもの、マリアロイゼに元気がない。いつもならば貴族として蓄えた豊富な知識で、おすすめの宿などすぐに出てくるのだが、今日は全くそんな様子が見られない。正確に言うと、何かを気にしているという雰囲気である。天児の目には、ここは中々いい街に思えるが、彼女にとっては居心地が悪いのだろうか。
宿に荷物を置いて、一息つく。ちなみに、竜車を返却した際、持ち出せなかった大きな荷物はマリアロイゼの叔母、ジョゼフィーヌの屋敷へ送られた。全部終わったら取りに行くとの手紙付きである。特に冷却機能付きの水瓶はかなり貴重で、新しく手に入れるのは困難な代物な為、マリアロイゼは手放したくなかったようだ。
「さて、これからエリーゼさんを探すわけですが…どうやって探しましょうか?」
天児の疑問に答えられるものはいなかった。今の所、エリーゼという人物についてわかっているのは、名前と、高齢の女性であるということだけである。今までに立ち寄った村や街のように小さい街なら、聞き込みも有効だが、なにしろバージニアはかなり広い。無策に聞き込みをするのも、時間がかかりそうである。とはいえ、人探しとなると、友好な手立ても特にない。やはり、人に聞いて回るしかないのだろうか。しばらく考えたあと、マリアロイゼはおずおずと手を挙げた。
「あのう…大変申し上げにくいのですが、私この街では、あまり目立ちたくないのです。どうしても会いたくない人物がいまして…」
「え?」
珍しい。マリアロイゼがそこまで嫌悪…というか、接触を拒む相手はあのバカ王子くらいだと思っていた天児は驚いてマリアロイゼの顔をみた。非常にばつの悪そうな顔をするマリアロイゼは、新鮮というか、かなりレアである。しかし、そうなるとますます困ってしまう。ただでさえこれだけ広い街で人を探すとなると、どうしても人手が居る。一応バハムートもいるが、いくら少女の姿でいると言っても、彼女はドラゴンだ。人探しなど出来るとは思えない。
「えっと、ロゼさん。それは…どうしても、ですか?」
「ええ、出来れば…」
ここまで頑ななマリアロイゼも珍しい。いや、天児に迫ってくる時はもっと頑なではあるが、今回のこれはいつもとは違うようだ。天児としては、これまで散々マリアロイゼの世話になっているので、無理や無茶をさせたくないのだが、それにしてもこれは想定外の事態である。とはいえ、嫌だと言っているのに無理矢理引きずり出しても仕方がない。一旦、マリアロイゼには休んでもらって、天児が単独でエリーゼを探すことになった。
「エリーゼ…?知らないなぁ」
「すみませんね、ちょっと解らないわ」
「エリーゼちゃん?ああ、知ってるぜ、そこの店の子だよ。…歳?知らねーなぁ」
「…アタシがエリーゼだけど、なんか用?ってーか、誰だよ?アンタ」
方々探して見つけたエリーゼは、どう見ても十代の少女であった。派手な見た目と蓮っ葉な口調は、天児の世界にもいたガラの悪いヤンキー(死語)少女そのものである。とはいえ、女性を見た目で判断するのは良くないと思い、念の為に質問してみる。
「あの…大変、失礼ですけど、ご年齢は…八十歳くらいだったりしません?」
「ハァ!?アタシがそんなババアに見えんのかよ!舐めやがってこの野郎!ぶっ殺してやる!」
「げっ!?怒らせた…す、すいませーーーんっ!!」
「待てコラァーーーー!」
結局、そのまま三十分ほど追いかけっこは続き、天児は這う這うの体で逃げ切った。足の傷がとても痛んで、しばらく動けそうにない。
「クソ!どこ行きやがった!?どこだ、オッサン!」
「ま、まだ探してる…!?はぁ、こりゃ参ったな」
路地裏に潜んで様子を伺いつつ、天児は盛大に溜息を吐いた。若いエリーゼは酷くお冠のようである。そりゃあまだ恐らく十代の少女に八十歳か?なんて言えば誰だって怒るだろう。普段の天児なら、その位の気遣いはできるはずだが、やはり疲れと焦りから、上手く頭が回っていないようであった。
「それにしても、何か…暑いな」
天児は軍服の襟を少し開いて、手で身体に風を送っている。というのも、この街は海から風が入っては来るものの、元々温暖な土地の気候から気温が高く、山からも温かい風が吹き下ろしてくるという少々厄介な土地なのである。慣れぬ者には少々、厳しい環境ということだろう。だからこそ、マリンレジャーも人気で、夜は温泉と、観光地としては至れり尽くせりな面もあるのだが。
そのまましばらく休んでいると、突然タブレット(木板)が光り出した。
―…旅人よ、久しぶりですね。無事、目的地には到着しましたか?
「ああ、アクシスさんお久し振りです。ええ、ようやくバージニアに着きましたよ。今は女神様の生まれ変わりというエリーゼさんを探している所です…正直、かなり困ってますけど」
―そうなのですか?…まぁ、どうしても見つからないのであれば、無理に探す必要もないでしょう。
どうせ、役立たずの女神なのですから。
「え?」
あれだけ天児達に女神を探して欲しいと言っていたアクシスからは、考えられない発言であった。一体、どういう意味で言っているのだろう。天児が驚いて固まっていると、ふっと天児の背後から影が差す。強いプレッシャーを感じて振り返ると、若いエリーゼがすぐ傍に立っていた。
「見ーつーけーたーぞー!テメェ、走り回らせやがって!」
「ぎゃー!まだ探してたっ!?」
こうして、天児は再び追いかけっこに勤しむこととなり、その日は全くエリーゼ探しが進む事はなかったのだった。
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