少女竜、爆誕。
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「いやぁ、これだこれだ!たまらんなー!」
漆黒に白いラインの入ったドレスを身に纏ったツインテールの少女が、ガリガリと音を立てて真紅水晶を噛み砕いている。人の頭ほどもある大きさの硬そうな水晶を、平然と噛み砕く様はかなり異様な光景だが、元が元だと思えば理解できない話ではない。
そう、この少女は何を隠そう、あのバハムートである。
あの後、怒りに震えるバハムートを宥めすかして、慌てて竜車へ戻った天児達が真紅水晶を差し出すと、バハムートは見る間に小さくなって、今のような少女の姿になっていた。歳の頃は八つくらいだろうか?美琴よりも少し年上の少女と言った姿である。何故そんな姿になったのかと問えば「は?このくらいのサイズの方が食べ応えがあるだろうが」と、一蹴された。
確かに、バハムート本来の姿からすると、人の頭程度の大きさなど無きに等しいだろうが、まさか少女になるとは思いもよらなかった。これには女神もビックリすることだろう。リヴァイアサン同様、角が生え、わずかに赤い肌に赤と黒の瞳は人間のものとは思えないが、マリアロイゼのような竜人種がいるこの世界では、さほど目立つ格好でもない。
「しかし、子どもの姿になるなら、少年でもよかったのでは?」
「俺は雌だ!少女の姿になって何が悪い!」
「ええ!?」
まさか現代日本を離れてもジェンダーの問題に触れることになろうとは、天児は頭を掻きながら己の不明を恥じるしかなかった。そもそもドラゴンの雌雄など傍目に見て解るはずもないのだが。
それにしてもバハムートが食べている真紅水晶とは、文字通り水晶なのだが、匂いや味などあるのだろうか?天児には匂いなどちっとも解らないし、触った感触からみて、その硬さはおよそ人の歯では敵わない硬さのようだと感じる。似たようなものといえば、ピンク岩塩が一番近い見た目だ。そういうものだと思えば理解できなくもない。
「これはなー、もっと普段から食べたいんだが、採れるのが海底だろう?さすがに自分じゃ取りに行けなくてな。リヴァイアサンに頼むんだが、アイツも中々取ってきてくれないんだよな…」
マリアロイゼが神殿のオババから聞いた所によると、この水晶は神殿近くの海底の地層から採れる鉱物らしいが、希少なものなのかもしれない。普段あまり食べられない事が不満なのか、バハムートはムキになって食べ続けている。そんなに一気に食べきってしまったら、次はいつ食べられるか解らないだろうに…いや、だからこそ今の内に思い切り食べておこうということなのか。天児とマリアロイゼは、感心しながらその様子を見つめている。
「だいぶ昔は、人間から貢物として貰ってたこともあったんだけどな。今じゃ人間と接することなんてほとんどなくなったし…考えてみりゃ、昔はよかったなぁ」
少女の見た目で中年のオヤジのような台詞を吐きながら、バハムートは食べる手を止めない。考えてみれば、バハムートはマリアロイゼの家では守護神という扱いなのだから、伝説のドラゴンと言えど、人に知られた存在ではあったのだろう。それが何故人前から姿を消してしまったのか、気になる所であった。
「あの、一体何があったのか聞いてもよろしいでしょうか?実はドラグ家にも、バハムート様の詳しい情報は残っていないのです。解っている事と言えばバハムート様はただただ、とにかくお強いということだけ…だからこそ守護神として崇めさせて頂いているのですが。私気になって仕方がありませんわ」
マリアロイゼの言葉を聞いて、バハムートはさすがに食べる手を止めた。何かを思い出して渋い顔、或いは面白くない顔をしている。人間との間に余程の確執があったのだろうか。
「うーん、まぁ全然大したことじゃないんだけどな。あの頃は、よく人間が俺の所へ参ってきてたのさ。今のお前みたいに、俺の事を神だなんだというヤツもいた。煩わしい事もあったが、おかげで貢物なんかもあったし決して悪くなかったよ。ただある時、俺の爪や鱗を欲しがるやつが現れてなぁ。あんなもの自然に生え変わるし、くれてやるのは構わないんだが…そいつ、俺と戦って奪ってきたって吹かし始めたのさ」
はぁ、と溜息を吐いてバハムートは一息ついた。バハムートの爪や鱗となれば、何か凄い力がありそうなアイテムだ。
「そういう噂が流れ始めると、そこからはわんさか来るんだ。腕自慢だのなんだのが、力試しにな…さすがに女神の手前、人間を殺すわけにもいかんし、適当に手加減して追い返してたんだが、もうキリがなくなってな。面倒臭くなって寝床を変えたんだ。それからは何か所かの山を縄張りにして、あちこちで寝る生活よ。もう慣れたとはいえ、面倒ではあるな」
バハムートは最後の欠片を口に放り込み、ゴリゴリと歯で磨り潰してから飲み込んだ。ごくんと飲み込む音がハッキリと聞こえる、まだ結構な大きさがあったと思うが、大したものである。そのまま客車のソファーに寝転んで、バハムートはあっという間に寝息を立て始めてしまった。なんというか、自由奔放な生き方が染みついているようだ。
「寝ちゃいましたね…どうしましょうか」
「とりあえず、竜車を出発させますわ。麓の街で竜車を返却しなくてはいけませんし…元々二週間の予定で借りていましたから、期限に余裕はありますけどね」
そう言って、マリアロイゼはグラウンド・ドレイク達に指示を出した。バハムートを連れて戻った時は、皆震えて動かなくなってしまっていたが、だいぶ落ち着いたらしい。考えてみれば、バハムートはドラゴン種の頂点のようなものだろうから、突然そんなものを連れてきたら、グラウンド・ドレイク達が恐れるのも無理はない。
「そういえば、竜車の返却はバーツまで戻らなくていいんですか?」
「ええ、竜車はそれぞれの街の支社同士で連絡を取り合っていますから、同じ領内であれば、どこで借りてどこで返しても問題ないのですわ」
「なるほど、進んでますねぇ」
竜車のレンタルシステムはレンタカーというより、カーシェアリングのようなものなのだろう。天児の暮していた現代日本で、そのシステムが出来たのはほんの数年前だ。それを考えるとかなり先進的な感じがする。中世ヨーロッパのような街並みに誤解してしまいそうだが、この世界は洗練された社会が出来上がっているのである。
天児とマリアロイゼは並んでソファーに座っている。片方のソファーはバハムートが占拠しているので仕方ないのだが、距離が近い。今までは食事の時など向かい合って座っていたので、こんなに密着して座るのは滅多にないことだった。会話が止まって、マリアロイゼの視線が天児に定まると、天児は急に落ち着かない気分になってきた。
「あ、あー…そろそろ荷物を整理しておかないとですね。竜車を返すんですし、食材も使っちゃった方がいいかなー…」
天児が立ち上がろうとすると、マリアロイゼがその手を掴んで動きを止めた。なんだか嫌な予感がする。車内には窓から、いつの間にか夕暮れの赤い日差しが差し込んでいて、マリアロイゼの白い肌を美しく染めていた。
「テンジ様、その、今夜のベッドなのですが…」
「え?」
「バハムート様にベッドを一つ使ってもらうとなると、私達は一緒のベッドで眠る、ということでよろしいでしょうか?」
「えええええ…!?」
考えてみれば、今までは二人(と一羽)の旅だったので、ベッドは二つで良かったが、これからは違うのだ。いつもなし崩し的にマリアロイゼが天児のベッドに潜り込んできていたが、今夜は最初から同衾せねばならないらしい。子供の姿とはいえ、神と崇めるバハムートと一緒に寝るのは、マリアロイゼも落ち着かないのだろう。結果一緒に寝るのと、初めから一緒に寝るのでは意味合いというか何かが違う。天児はいよいよ進退窮まる状況に追い込まれた気がした。
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