新しい仲間
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「テンジ様、テンジ様っ!しっかりなさって下さいまし!」
「あ、ロゼさん…?すみません、もう大丈夫です」
マリアロイゼの声が聞こえて、天児は意識を取り戻した。どうやら、逆流してきた瘴気に飲まれていたらしいが、見た所、身体のどこにも異常はない。一安心して胸を撫で下ろしつつ、先程まで見ていた闇の中の出来事を思い出す。
(あれが、魔女か…)
姿は見えなかったが、その形はなんとなく読み取れた。口振りと声の感じからして、魔女は酷く幼稚な、若い女性のようだったと思う。あれが幻影の類いであるとしたら本当の姿は正反対の老婆や、ともすると男性である可能性も捨てきれないが、あの手のタイプは自分の若さ美貌を鼻にかけるタイプだろうから、そこまで本来の姿からかけ離れた形を取るとは思えない。おそらく、あれが魔女本来の形と考えていいはずだ。
また、短い間に交わした会話だけでも、魔女は強い悪意を持った存在であると、天児は確信した。魔女はバハムートを殺して身体を乗っ取ろうとしていただけでなく、邪魔となる天児を殺す事にも躊躇いなど微塵も感じられなかった。瘴気を操る力を持っているからなのか、命を奪う事が当たり前になっているのだろう。野放しにしておくには危険すぎる相手だ。
「…あれ?そう言えば、バハムートさんは?」
「バハムート様なら、あそこに」
そう言ってマリアロイゼが指差した先の空では、バハムートが勢いよく雲間を飛んでいた。いくら憑りついていた瘴気を払ったとはいえ、あれだけ身体が傷んでいたというのに、もうあれだけ飛び回れるのはさすがとしか言いようがなく、不死身を名乗るだけの事はある。天児は少し呆れながらも、バハムートが元気を取り戻したことに心から安堵していた。
しばらくすると、天児が目覚めた事に気付いたようで、バハムートは再び二人の前に降り立った。よく見れば身体の傷はすっかり消えて、翼から爪の一本に至るまで、全身に力が漲っているようだ。
「おう!目覚めたか?よくやってくれたな、お前のおかげで身体はすっかり元通りになった。むしろ気分がよくて前より調子がいいくらいだぞ、ハハハハハ!」
本来の調子に戻った為か、バハムートの声はとても大きい。特に笑い声は目の前に立つ二人にはかなりのボリュームだ。天児とマリアロイゼは咄嗟に耳を塞いだが、無意味なほどの音量だった。目の前で打ち上げ花火が爆発したかのような、腹の奥に響く感じがする。
「それは本当に良かった。あなたを蝕んでいたのは呪いではなく、やはり瘴気だったんです。だから、僕の浄化でなんとかできました。…あとすみません、もう少し小さい声で喋って貰ってもいいですか?」
「おお、煩かったか?スマンスマン!しかし、瘴気か、まさか人間の魂如きにあれほどの力があるとはな…ん?ちょっと待て。そうすると、あの魔女は瘴気を操って俺に植え付けたというのか?」
「はい。そういうことになります、ね…」
「そんな!?」
「むぅ…」
瘴気を操る…ということは、闇に飲まれ堕ちた人間の魂そのものを操るということである。そんな事が可能だなどと、一体この世界の誰が想像できるというのだろう。思いもよらぬ魔女の力に、マリアロイゼは両手で顔を押さえ、バハムートは小さく唸り声をあげた。瘴気は他者に憑りつき、変異させたり命を奪う事もある。しかも、憑りつく相手は人間だけにとどまらないのだ。その性質上、それはこの世界に生きる全ての存在に対する危機になると言える。
魔女がそれを操り、他者に憑りつかせる…さらにはその死体までもを奪い取ることが出来るというのは、邪悪だがこの世界では神にも等しい力である。もはや、事は人間の手に余る事態に発展するだろう。早急に女神の力を使ってでも対策を講じる必要がある。女神の行方を探し出すのは、天児が元の世界に戻る為だけでは済まない話になりそうだ。
「一刻も早く、女神エリクシア様を見つけなくてはなりませんわね」
「ん?なんだ、最近姿を見かけないと思っていたが、女神のやつどうかしたのか?」
「ああ、そうだ。僕らはそのことでバハムートさんにお願いがあってきたんです。実は…」
天児がかいつまんで事情を説明すると、バハムートは腕を組んで頭を悩ませているようだった。突拍子もない話なので、信じてもらうのは難しいかもしれないが、信じてもらわなければ話が進まない。天児もマリアロイゼも、唸るバハムートの答えをひたすらに待った。
「そういう事か。まぁ、あの女神だからな、抜けた所があってもおかしくはないが…それでお前達は、俺を乗り物にしようと、そう言いたいわけだな?」
「乗り物だなんて、そんな…!」
マリアロイゼは反論しようとしたが、二の句が継げなかった。どう言い繕っても、移動手段として力を借りることに変わりはないのだ。マリアロイゼにしてみれば、バハムートは守護神として崇める存在なだけに、返って説明するのが難しいようだ。天児はどうにか言葉を繋げようとするマリアロイゼを制して口を開いた。
「決して移動の目的の為だけに力を借りたいというわけではないんです。あんな魔女もいることですし、本当ならば、戦う力も貸して頂きたいと言うのが本音です…ただ、そこまでお願いをするのは厚かましすぎるかと…」
「ああ、無理をするな。別に構わん、乗り物だろうと用心棒だろうと、俺の力が必要ならば貸してやる。お前は恩人だし、何よりもあの魔女には一泡吹かせてやらんと気が済まんからな。お前達と一緒に行けば魔女と出くわす可能性も高そうだ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「良かったですわね!さすがテンジ様ですわ」
天児とマリアロイゼが手を取り合って喜んでいると、バハムートはすんすんと鼻を鳴らして、何やらもじもじと巨体を揺るがせた。
「それでその…お前らもしかして、アレ、持ってないか?ずっと匂いがしてて…気になるんだ」
「アレ?」
「焦らすなよ、アレだよアレ…!お前らリヴァイアサンの所から来たんだろ?俺の好物だって渡されなかったか?」
既にもじもじではなくなり、巨大なドラゴンがくねくねと身体をよじらせる様は割とショッキングな姿だ。どうやら何かリヴァイアサンから預かったものがあると言いたいらしい。だがしかし、天児には思い当たる事がなかった。それもそのはず、神殿のオババから真紅水晶を渡された時、天児は昏倒していて話を聞いていなかったのだ。バハムートが何を言っているのか解らずに天児が戸惑っていると、マリアロイゼが何かを思い出し、あっと大きな声を上げた。
「…もしかして、真紅水晶のこと、かしら?」
「おお!そうだ、それだよ!なんだやっぱ持ってるんじゃないか、全く人が悪いなぁお前らは…早く出してくれ、頼むよ」
「すみません、テンジ様に渡すのをすっかり忘れておりました…私の荷物の中なので、竜車の中に置いてきちゃいましたわ…」
「あぁっ!?」
バハムートの特大の叫びがヤクト山全体に響き渡り、鳥や獣たちが一斉に逃げ出していく…後日、麓の村ではスタンピードが発生したと言って、大騒ぎになったのだった。
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