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異世界に聖女召喚(失敗)されたおじさん 婚約破棄された悪役令嬢と一緒に世界を救う旅に出ます  作者: 世界


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お嬢様と過去の亡霊

ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。

「ば、バハムート、様…?」


 信じ難いその姿に、マリアロイゼは思わず目を伏せ、顔を背けたくなった。


 リヴァイアサンほどではないが、高さにして二十メートル以上はあろうかという巨体は、所々に傷痕があり、そこから肉が腐り落ちているのが解る。血と膿が混じった腐汁も傷口から滴っていて、吹き飛んだ霧の代わりに悪臭が立ち込め始めていた。

 以前、リヴァイアサン達に語っていたように、竜人種であるマリアロイゼのドラグ家は、バハムートを守護神として崇め奉る家柄である。幼い頃から、絵巻物や絵本、それに絵画などで親しんできたバハムートの変わり果てた姿は、マリアロイゼの心に大きなダメージを与えているようだった。


 ゆっくりと目前に舞い降りるバハムート、その息は荒く、かなり辛そうだ。右目は美しい空色に輝いているのに対し、左目は赤黒く変色し、血の涙が流れている。マリアロイゼは警戒しながら、注意深くその様子を伺っていた。


「人間…なんの、用…だ?」


「お喋りに…!?あ、いえ、私達はバハムート様にお力添えを願いたくて、参ったのでございます」


 先程のゾンビ共と同じく、すでに動く死体となっているものと考えていたマリアロイゼは、バハムートが理性と意識を保っているとは思ってもみなかった。慌てて返事をしたが、正しく趣旨が伝わっていないのは明らかだ。胸の内で失敗を恥じながら、改めて伝え直すチャンスがあるかを考える。


「力を貸せ、だと?…なるほど、リヴァイアサンの差し金か。悪いが、俺にそんな力はもう無い。…この身は呪われ、撒き散らす呪いの残滓が、哀れな骸共を寄せ集めてしまう、謂わば(けが)れの源よ。そんなものに、一体何を願うというのだ」


「呪われて…?バハムート様を呪う輩がいると言うのですか!?」


「ふん、白々しい事を…ゲホッ!…俺を手に入れる為に、高位の魔女を差し向けてきたのは、貴様ら人間だろうが」


「人間が、そんな!?まさか…」


 血反吐を吐き、唾棄するように人間を敵視するバハムートの言葉に、マリアロイゼは動揺しつつも、それを行いそうな存在には真っ先に思い当たるものがいた。


(あの粗大ゴミ…いいえ、クズ生ゴミのバカ王子ならやりかねませんわね)


 酷い言われようだが、バカ王子こと、ミッシェル王子ならそれぐらいはやろうとしてもおかしくはない、とマリアロイゼは直感した。バハムートが魔女と呼ぶ存在に覚えはないが、王家の命令とあれば、国内の有力な魔法使いが手を貸す事は容易に想像がつく。だが、いくら考えてみてもバハムートにこれほどの影響を与えるような腕の持ち主には思い当たるフシがない。マリアロイゼはかつて、バカ王子の右腕として、その尻拭いの為に辣腕を揮ってきた過去がある。その際、国内の実力者はほぼ網羅しておいたはずだ。可能性がありそうなのは、他の公爵令嬢の一人だが、例え他の誰が手を貸しても、()()が王子に手を貸すとは思えなかった。


 それにしても、バカ王子の目的はなんなのだろう?マリアロイゼが気になったのはそこだった。彼女を処刑にまで追い込もうとしたのは、王家と各公爵家との約定を反故にし、浮気相手と添い遂げる為だというのは解る。加えて、人気取りの為に聖女召喚を行い、愚かにも失敗した帳尻を合わせたいのであろうことも、納得は出来ないが理解はできる。だが、()()()()だ。バハムートのような伝説の存在を手中に収めた所で、人気取りにはならないし、かえって民の反発を生み出しかねない行為だ。


 王子は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()タイプの人間ではあるのだが、彼は正真正銘、根っからの小者である。マリアロイゼの知る限り、自らの力を上回るようなものに手を出そうとは考えない男だった。出来るだけ自らの手は汚さず、かつ、人に大きく見栄を張れる事にこだわりはしても、自分の身が危うくなるような真似はしない人間だったのだ。そういう意味では、ドラグ家を敵に回すような裏切りの浮気行為をするとは、思ってもみなかったのだが…実際にやっているのだから疑う余地もない。


 ずいぶんと久し振りに、バカ王子の邪悪な笑顔がマリアロイゼの脳裏に浮かぶ。彼との思い出はマリアロイゼにとって、何一つ良い物がない。例えば二人きりで話をしていても、口を開けば自身の失策を世紀の大政策のようにうそぶくか、自分を認めない存在への愚痴や不満ばかりで、愛の言葉はおろかマリアロイゼの召し物一つ褒めた事もなかった。


 また気が向いた時、極稀に贈られてくるプレゼントなどは嫌がらせのような品物ばかりだった。いつかの誕生日によこした人の頭ほどもある宝石のネックレスなど、どこでどう使えと言うのだろう。しかも、宝石自体は大きいばかりの粗悪品である。カッティングもいい加減で、どこの職人がこんな酷い仕事をしたのか調べてみれば、王子が手ずからデザインを起こしたのだという、それも何故か寝起きに五分でだ。


 それを聞いた時はショックの余り酷い頭痛がして、しばらく立ち上がれなくなった。あんなものを作れと言われた職人の悲哀は、如何ばかりのものだっただろうかと涙すら流したほどだ。後でこっそりと職人に会いに行き頭を下げて謝罪をしたが、センスの欠片もないものを作れと強要され、しかもそれが人生の大半を使ってようやく稼ぐであろう金額の報酬を与えられたものだから、その職人はすっかり腐ってしまっていた。風の噂では、その後、有望な職人として期待されていた彼は嫌気が差して職人を辞めてしまったそうだ。


(…本っ当に、ろくでもない人間でしたわね!あんなのを妻として支えねばならなかったなんて…私、テンジ様が居なかったらどうなっていたのかしら)


 マリアロイゼは王子の事を考えると、イライラとムカつく心が溢れ出す。一方で、天児の事を考えると、そのささくれ立った心は一気に落ち着きを取り戻し、穏やかな平静に至るのだから、彼女にとっては天児こそ究極の癒しであると言えるだろう。その癒しは、現在大量のゾンビに襲われる夢を見てうなされているのだが。


「何を考えているのか知らんが…とっとと失せろ。また時間が経てば、どこからか骸共が集まってくる。次は助けてやらんぞ」


「お待ちください!私達はバハムート様に力添えを願うだけではありません。窮地にあると言うのなら、尚更、貴方様をお救いしたいのです!」


「俺を、救う?人間の貴様らが?…信用出来んな」


「いいえ、できます!私と私のフィアンセ…テンジ様の力があれば!」


 そう言って、マリアロイゼは天児を抱き締める腕に更なる力を込めた。しかし、天児が小さく呻き声を上げていることには気付いていないようだった。

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