新たな目的地
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「では、ここらで別れだな、また会おう。テンジ、マリアロイゼ。次に会った時は、天児の作る食事とやらを楽しませてもらうぞ…さらばだ」
神殿に向かった時と同じように、リヴァイアサンの背に乗って浜辺に着いた天児達に別れを告げて、リヴァイアサンは陽光煌く海に帰っていった。あれ程の巨体が波打ち際で活動しても、大波を起こさないのはさすがである。
ずいぶんとあっさりした別れだったが、どうやら天児達が加護の証として与えられた竜玉により、リヴァイアサンとは常に繋がっている状態らしい。呼びかければ、会話ぐらいならいつでも応じてくれると、海の中で話していた。
「良い方達でしたわね」
「そうですね。僕はもっとこう、恐い存在かと思ってましたよ」
リヴァイアサンが去って行った方を見つめて、二人が呟く。陸に戻ってくる直前まで眠っていた天児は、何とか立って歩けるくらいには回復したようだ。ただ、まだふらつきは残っているようで、今はマリアロイゼの肩を借りている。フレスヴェルグも天児とはの逆の肩にとまっていた。
そのまま二人で竜車まで歩いて行くと、竜車の外ではパスカルが番をしていた。そろそろ夕暮れ時ということもあって焚き火の熱がありがたい。さっきまで海の中にいたせいか、感覚的に寒さを覚えていて、パチパチと燃える薪が心を温めてくれるようだった。
「おお、お嬢様!テンジ殿もおかえりなさいませ。四日もお戻りになられないので、心配しておりましたぞ」
「四日も!?そんなに滞在していたはずは…」
「なんだか、浦島太郎みたいですね」
神殿はまさに竜宮城のようなものだったという事かと、天児は苦笑した。思い返してみれば、あの神殿の内部は、通常の空間とは異なる場所だったのだろう。あんな海底だというのに海水も入ってこなかったし、空気もあったのだから当然と言えば当然である。そもそも魂が集う場所という触れ込みだし、時間の流れが他とは違ってもおかしくないと思える。
マリアロイゼ達にはその例えが理解できないので、頭にはてなマークが浮かんでいるようだ。天児は謝りつつ、フレスヴェルグと共に竜車に入って休ませてもらう事にした。気怠い身体をソファーに沈め、深く息を吐く。魔力切れを起こしたのはこれで二回目だが、やはりなかなかキツいものだ。深刻な状態だと命にかかわる事もあるらしいので、精霊が手助けしてくれたのは本当にありがたい。天児は独り、誰に告げるでもなく礼を口にして、静かに目を閉じた。
一方、マリアロイゼは、外で焚き火にあたりながらパスカルから留守にしていた間の説明を聞いていた。二日ほど前、領主ウィリアムが直々に兵を連れてバーズタウンにやってきたそうだ。おそらく、娘のアビーからマリアロイゼについて報告を受けていた事もあってのことだろう。本来であれば、危険な状況にある街に領主自らが訪れるなどあり得ないことだ。王子の蛮行なども耳に入っていて、マリアロイゼから直に確認をとろうとしたのかもしれない。
しかし、蓋を開けてみれば、マリアロイゼ達はおらず、バーズタウンは深刻な状況にあった。街を襲った海魔、或いは海妖とでも言うべき謎のモンスター達は、マリアロイゼ達によって駆逐されたようだが、被害は甚大だ。ウィリアムはしばらくマリアロイゼ達の帰りを待っていたが、昨日、領都へ帰って行ったらしい。街の復興の為には迅速にやらねばならない事も多いので、彼が昨日まで待った事が、マリアロイゼには信じられない話でもあった。
「そう、ウィリアム様には悪い事をしてしまいましたわね。後でお父様から執り成して頂かなくては…」
「お父上は王都でしたな?では、これから王都へ?」
パスカルの言葉に、マリアロイゼは頭を振った。まだ、彼女達にはやらねばならない事がある。お尋ね者となっている今の状況で、王都に立ち入るわけにはいかない。実家に帰るのは、女神を見つけ、天児が元の世界へ帰る目途がついた、全てが終わってからになるだろう。
「私達はこれから、ヤクト山に向かいますわ。リヴァイアサンさんにバハムート様へに会うよう提言されましたので。ふふ、楽しみですわね」
「なんと!?あのバハムート様に…!し、しかし、ヤクト山とは、そのような場所にバハムート様がおられるのですか?」
ヤクト山とは、バーズタウンから北東に位置する標高二千メートルを超える大きさの山だ。登山道らしきものはあるものの、特に観光地化もしていないので滅多に登るものはおらず、伝説の存在がいるような際立った霊峰というわけでもない。割と普通の山である。
同じ伝説の存在でも、リヴァイアサンの場合はこのオケアノスの海を守る存在として古くから伝えられており、またその姿は何度も目撃されているので理解できるが、バハムートは人目に付く場所に現れることなどまずない。いくらマリアロイゼがリヴァイアサンに聞いた話とはいえ、パスカルには信じられないものがあった。
「ええ、なんでもバハムート様はある程度の高さの山は全てテリトリーになさっているらしいのです。なので、一番近いヤクト山の頂上から、私達が呼びかければ、必ず目通りが叶うとリヴァイアサンさんは仰っていましたわ」
拳を握って力説するマリアロイゼの言葉に、パスカルは心強いものを感じたようで、「なるほど」と、深く頷いてみせた。
「そういう事であれば、納得ですな。…申し訳ございません、お嬢様。この儂めもついて行きたい所ですが、街の復興が終わるまでは、ここを離れる事ができず…お力添えできないのは歯痒うございます」
「何を仰るのパスカル。貴方には貴方の立派な役目があるのだから当然ですわ。けれど、心配はいりません、私とテンジ様、それにあの生意気なフレスヴェルグもいるのだからそうそう危ないことなどないのです。もし手を貸して下さるのでしたら、落ち着いてからお父様に事の次第を報告してくださいます?私まだしばらくは帰れませんから…叔母様に伝えて下さっても結構ですわ」
マリアロイゼはそう言って、パスカルの手を取り微笑んだ。その姿がパスカルの仕えた先々代の当主に似ていたのか、パスカルは涙ぐみながらマリアロイゼに誓うのだった。
「そういう事でしたら、喜んで務めさせていただきますわい。…お嬢様、くれぐれもどうか、ご無事で」
「もちろんですわ!」
心配するパスカルに向かい、マリアロイゼはにっこりと笑顔で返す。夕焼けのオレンジ色の光に照らされた彼女の笑顔はとても美しく輝いてみえた。
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