実は乙女…?
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「うう…頭痛が、め、眩暈がする…」
「魔力を急激に消費したせいですわ。少しお休みにならないと…」
どうにか小瓶を手放した天児ではあったが、少し手放すのが遅かった。魔力切れによる体調不良に陥って倒れ込んでしまった為に、今はマリアロイゼに膝枕をされて横になっている。魔力切れは王都を脱出する際にも経験した症状だが、今回消費した魔力はあの時の比ではないというのに、あの時よりも少しだけ症状が重い程度で済んでいるのは不思議である。
「ふむ。どうやら精霊たちがテンジに手を貸したようだな。しかし、あんな膨大な魔力を注ぎこめば当分聖水は止まらんだろう…その程度の症状で済んでよかったというべきか」
精霊達と対話をし、事情を知ったリヴァイアサンは半ば呆れた顔をしている。つまり、力のコントロールができなかった天児を、精霊達がサポートしてくれたのだ。だからこそ、その程度の症状で済んでいるということらしい。しっかり聞いていた天児は、朦朧とする意識の中でそれでも精霊達に詫びていた。
「ま、しばらく寝かせておけば回復するだろうよ。精霊達もテンジを気に入っておるようだし、魔力の補充に協力を…何をしとる?」
「はっ!?…か、身体が勝手に!」
天児の唇まであと数㎝という所で、マリアロイゼは我に返ったようだ。ちなみにフレスヴェルグは天児の腹の上に乗り、マリアロイゼをジト目で睨みつけている。ブレスで彼女を昏倒させないのは、距離が近すぎて天児に影響が出かねないからだろう。天児の事となると、公爵令嬢であるマリアロイゼよりも、怪鳥であるフレスヴェルグの方が若干理性的なのはどういうことなのだろう。初対面では天児をからかっていたリヴァイアサンも、マリアロイゼの行動にはわずかに引いているようだ。
そこへ、オババがまた静かに戻ってきた。その手に小瓶はなく、慌てた様子もないので聖水はどうにかしたらしい。
「失礼しました。まさかあんなことになるとは。あれはひとまず処置はしてきたので心配はいりません。…どうされました?」
「いや、ただの魔力切れだ。どうも力の制御が上手くできていないらしい。考えてみれば我の加護を与えたばかりだったし、精霊との同調が強いようなのでな。とはいえ、直に慣れるわ。オババからみて、実力も問題なかろう?」
「…そうですね。浄化スキル一つであれほどの力が出せるのであれば、修練次第ではとてつもない事になるかもしれません。末恐ろしい人間ですね。いいでしょう、覇龍への接触は反対しません。ただ…」
ちらりとオババがリヴァイアサンの顔を覗く。一見すると相変わらず無表情に見えるが、何か言い出しにくい事があるような、そんな顔だ。
「貴方も彼らと共に行ってしまうのは困ります。聖水のおかげで護られるとはいえ、物理的な護りは難しいので」
「何を言っている。我の役目はこの海と神殿…そなたを護る事だ。こやつらと共に旅に出るわけがなかろう」
リヴァイアサンの返事を聞き、オババの纏っている空気が明らかに変わった。表情にこそ変化は見られないが、隠しきれない喜びが感じられる。マリアロイゼは自分と天児の見立てが間違っていないのだと確信すると、オババの様子が微笑ましく思えてきた。
そして、オババはまたも懐を探ると、今度は拳大の何かを取り出した。それは淡く、赤い光を湛えている。
「それは…宝石、ですか?」
マリアロイゼはそう聞いたが、実際には見た事もないものだった。彼女が公爵令嬢として学んできたものの中には、各地の名産品となる宝石や貴金属の類いの知識もあるが、オババの持つそれは、そのどれにも該当しないものだ。興味はあるが、それ以上に目を引く何かがある。
「これはこの辺りの海底地層からしか取れない、真紅水晶という結晶です。覇龍の大好物ですから、持っていけばきっと喜ぶでしょう。ただし、注意なさい。覇龍は本当に気性が荒く、気難しいのです。リヴァイアサンのように、初めから人間に親しみを抱いている存在と同じだと思ってはなりません。リヴァイアサンの加護があれば、話は聞いてくれるでしょうが…もし不穏な空気を察したらすぐにお逃げなさい。いいですね?」
オババはマリアロイゼに真紅水晶を手渡しながら、その瞳をしっかりと見つめて言った。彼女は、バハムートが本当に危険な存在なのだと警告してくれているのだ。無表情でとっつきにくい雰囲気を醸し出しているが、彼女もまた、リヴァイアサンと同様に人に親しみを抱いている存在なのかもしれない。マリアロイゼはにこやかに微笑んで、頭を下げた。
「ご忠告、ありがとうございます。オババ様の言う通り、決して油断しないよう努めますわ。うふふ、オババ様はとても素敵ですわね。…どうかリヴァイアサンさんとお幸せに」
マリアロイゼが最後に囁いた言葉に、オババは一瞬、驚きの余り硬直してみせた。ほんのわずかな一瞬だったので、誰も気づきはしなかっただろう。彼女の目の前にいたマリアロイゼを除いては。
「…何を言っているのか解りませんが。貴方達の未来に祝福がある事を祈っています」
「はい、ありがとうございます」
「…?何をボソボソ話しておる。決まったのならそろそろ行くぞ。浜まで送ってやろう。テンジはその内回復するだろうしな」
スタスタと先を行くリヴァイアサンを追って、天児を抱えたマリアロイゼとフレスヴェルグが続いていく。その後ろ姿が見えなくなるまで、オババはじっとマリアロイゼ達を見つめていた。
お読みいただきありがとうございました。
もし「面白い」「気に入った」「続きが読みたい」などありましたら
下記の★マークから、評価並びに感想など頂けますと幸いです。
宜しくお願いします。




