転生した女神
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「む?ずいぶん不満そうな物言いではないか。せっかくこの我が客人を連れてきたのだぞ。もう少し愛想よくしても罰は当たらんだろう」
いかにも人間臭い言い方で、リヴァイアサンは腕を組み老婆を睨みつけた。対する老婆は一切怯む事無く。逆にその目を見つめ返している。この二人、仲があまりよくないのだろうか?そう思った時、ふっとリヴァイアサンの肩から力が抜けていた。
「別に仲が悪いわけではないのだがな。そもそも人間のように見えるが、オババはれっきとした精霊の一つだ。この神殿と転生のシステムを管理し運営している。我はこの神殿を守護する役目を持った者…いわば同士と言った所だな」
胸を張って主張するリヴァイアサンの後ろで、オババは無表情に彼を見つめている。いや、どことなく冷たい瞳だ。もしかすると、あれは…それに気づきかけた時、マリアロイゼが優しく天児の手を握って、頭を振った。そして、一歩前に出るとにこやかに老婆に微笑みかけた。
「オババ様、永のお勤めご苦労様でございますわ。私達は、女神様の行方を捜してこちらに伺ったのです。不躾ですが、ご協力願えませんでしょうか?」
「女神様の…?どういうことでしょう」
マリアロイゼの言葉に反応して、オババは小さく首を傾げた。オババは老婆と言っても、天児から見てそこまで年齢を感じる容姿ではない。白髪で精々60代くらいの、小さくてかわいいお婆さんだ。よく見ると、天児が子供の頃によく通った駄菓子屋の老主人に似ている気がする。あの人は子供が好きだったのか、もっと優しい顔をしていて、いつでも笑顔を見せていた。目の前の老婆も、せめて少しは笑ってくれれば印象が違うのだろうが、それは強要することではない。
「実は、かねてより女神エリクシア様の行方が解らなくなってしまったのです。それでもしや、人間に転生してしまったのではないかと…そうであれば、人としての生を終えた後、こちらに辿り着いているのではないかと世界樹アクシス様から聞き及びまして。如何でしょう?何かご存じありませんか?」
「そういうことでしたか。残念ながら、私は存じ上げておりません。私は転生のシステム全体を運用しているだけで、各々の魂をチェックしているわけではないので。ただ、一度でもここへ来て転生した魂であれば、その先を調べる事は可能です」
そう言うと、オババは懐から一冊の本を取り出した。それは国語辞典のようにとても分厚く、深緑色で重厚な装丁が印象的な本だ。あれに、魂達の情報が記されているのだろう。何が書かれているのか気になる所だが、それよりもどうやってあの大きさの本が懐に入っていたのかの方が気になるサイズだった。
「その者の名前は?エリクシア様の名ではないのでしょう」
「はい、バーモント村のエリシャという方ですわ」
「バーモント村のエリシャ、ですね」
オババはその本を開き、目の前の何もない空中にそれを置くと、どういう原理なのか本は落ちる事なくそこで止まった。ふわふわと浮遊するのではなく、完全にそこへ固定されたように見える。オババが精霊だから出来る芸当なのか、或いは、この神殿やあの本自体に秘密があるのかは解らないが、ちょっとした手品を見ているような感覚である。
数十秒後、かなりのスピードで開き、流れていたページが止まると、オババは目を凝らしてそれを読み上げた。
「ありました、バーモント村のエリシャ…確かに八十年程前にここへ来ています。そして、一年後に転生していますね」
「八十年…」
かなり昔ではあるが、アクシスの見立ては間違っていなかったようで、ここへ来てようやく女神の魂の行方、その一端を掴む事ができた。問題は、この世界の人間の寿命がどの位なのか解らないが、八十年ともなるとさらにその先を考える必要がある点だろう。天児はそれが気になって、オババに聞いてみた。
「その、転生した後はどうなったか解りますか?どこの誰になったとか、またここへ来ているかとか」
「もちろん、解ります。彼女はバージニアという街に住む、エリーゼという女性に転生しました。その後は、まだここへは来ておりません」
ここへは来ていないということは、まだ存命であると言う事だろうか。バージニアという街がどこにあるのか天児には解らないが、急いだ方がいいかもしれない。こちらが向かっている最中に寿命を終えて、再びここへ戻って来なければならないとなれば、かなりの時間が無駄になってしまうからだ。
天児がマリアロイゼの方を見ると、マリアロイゼは何が聞きたいのかすぐに解ったようで、少し難しい表情になっている。
「バージニアというと、ちょうどここから王都を挟んで正反対の場所にある街ですわ。大陸の東端にあたる場所です。困りましたわね、陸路を行くとなると、山越えの必要があるのでグラウンド・ドレイク達を使っても三ヵ月はかかりますわ…飛龍船ならば三日とかからない距離ですけれど」
「三カ月ですか…高齢の方には大きい時間ですね」
やはり天児の危惧した通り、かなり長期の旅程が必要になるようだ。とはいえ、表向きお尋ね者である天児達が飛龍船に乗るのは難しいと、マリアロイゼも言っていたのでやはり陸路を選ぶしかなさそうだが…二人が頭を悩ませていると、不意にリヴァイアサンがオババに向かって口を開いた。
「そう言えば、あやつが元気でおるか、解るか?」
「あやつとは、覇龍のことですか?問題ないと思いますが…」
「ふむ、そうか」
天児達にはリヴァイアサン達の言っている覇龍というのが何か解らないが、リヴァイアサンはいい事を思いついたという顔でニヤニヤしている。どうも彼のそういう表情は悪戯をしでかす前の少年のようで、嫌な予感しかしない。天児が訝しんでいると、リヴァイアサンは大きく胸を張った。
「お主達、空を行くつもりならば紅龍を使うとよい。我と世界樹の口利きがあれば嫌とは言わんはずだ。覇龍…バハムートもな」
「バハムート…っ!?」
その名を聞いた天児とマリアロイゼの驚きの声がシンクロする。静かな神殿は不思議な緊張感に包まれていった。
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