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異世界に聖女召喚(失敗)されたおじさん 婚約破棄された悪役令嬢と一緒に世界を救う旅に出ます  作者: 世界


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神殿のオババ様

ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。

「さっきはなんだか無性に嬉しくなっちゃったけど…よく考えたら、このままだと僕はヤバいのでは?」


 やや時間が経って冷静になったのか、天児はじっとその手を見つめて呟いた。ふと、働けど働けど…といった作家の歌を思い出したが、天児の場合は確実に楽にはなっている。問題は、この調子でいくと元の世界へ戻った時に奇人変人レベルにまでなってしまうのではないか?という不安があるだけだ。

 そんな天児の呟きを聞き、ゆっくりと先を行くリヴァイアサンは何が面白かったのか、声を上げて笑っている。


「ハハハッ!何も問題などあるものか、他人より優れている事に何の問題がある。それに精霊の祝福は歓喜の歌だ、それほどまでに精霊と同調出来ると言うのは本当に稀有な例だぞ?テンジよ、お主は元の世界とやらでも一角の人物だったのではないのか?」


「僕が…?まさか、どこにでもいる冴えない中年で、普通の父親でしたよ」


 そう自嘲しつつ、娘の笑顔を思い浮かべると笑みがこぼれる。すると、周囲から同じように、いくつもの微笑むような声が聞こえた。精霊と同調しているというのは、そういうことなのだろう。笑いかければ笑い返してくれる。悲しめば同じように悲しんでくれる。精霊の存在に気付いただけで、自分が独りで生きているのではないと気付かされて、天児は面映ゆくなった。


 現在、天児達は本来の姿に戻ったリヴァイアサンの背に乗って、海底にあるという芳魂の神殿へ向かっている最中だ。


 リヴァイアサンの背には、彼の魔力によってドーム状の透明な空間が作られ、そこにたっぷりの空気を入れて二人と一羽は快適に過ごしている。当然、海中なので周囲は水だらけなので、精霊の存在を感じやすいのかもしれない。天児の傍にいると、同じようにリヴァイアサンの加護を得たマリアロイゼも精霊の姿が見えるようで、彼女は興奮冷めやらぬ様子で精霊をお喋りをしているようだ。


「テンジ様、私、精霊さんとお話出来るなんて夢のようです…!お母様の蔵書でも、精霊と心を通わす少女のお話がありましたが…子供の頃の夢が叶うと言うのはこんなに気分が良いものなのですね!」


「そうですね。特にロゼさんは綺麗ですから、そういうお話はお似合いですよ」


「いやですわもう!テンジ様ったら!」


「いったぁ!?」


 照れ隠しに天児の背中を叩くマリアロイゼの力は、以前よりかなり強くなっている。リヴァイアサンが心配していたように、彼の加護を得て、マリアロイゼは大幅に能力が上がっているようだ。しばらくは、力加減に気を付けて貰わなければ身が持たないかもしれない。

 天児は平謝りするマリアロイゼを宥めながら、彼女の母親もドロドロした話でないものを読むんだなぁと、若干ズレた感想を抱いていた。


 そんな他愛もない会話をしながらも、リヴァイアサンはどんどん海底へ進んでいく。その中で、擦れ違う色とりどりの魚達の群れはとても美しく、まるで映画のように見た目にも楽しい海の旅だ。それにしてもこの世界の魚は皆どれも色合いが派手である。少し前に泳いでいった、ニジマスによく似た魚は本当に虹色に輝いていた。元の世界にも自前で発光する魚というのはいるらしいが、深海の生き物ばかりだった記憶があるので、目の前で見られるのは貴重な経験だった。


「あらまぁ、ご覧になって下さいましテンジ様!綺麗なお魚がたくさん…ああ、どんなお味がするのでしょう」


「うぅん…?食べられるんですかね?」


 以前、天児の手で川魚を焼いて食べてから、マリアロイゼは魚を食べるのがお気に入りになったようだ。元々焼き魚という調理法が存在しないこの世界では、実はそこまで魚はポピュラーな食材ではなかったらしい。食べるものに事欠く身の上の人達や、新鮮な状態で食べられる海の近い土地に住む人達しか食べないものだったという。天児からしても、煮魚をするなら醤油が必要だし、和風の出汁を用意するのが難しいこの世界では、焼き魚でもない限り、率先して食べようとは思わない。


 今なら分けて貰ったセーユがあるのでいけるかもしれないが、他にも足りない調味料や食材が多いので作るのは難しいかもしれない。そんな事を考えていると、リヴァイアサンが口を開けたり閉じたりしている。何をしているのだろう?


「ふーむ…人間が魚を食べるというのは知っているが、そんなに旨いものでもないぞ。大体小さすぎて食いでがない。まぁ、人の身ならばそれなりに食える量なのかもしれんが…」


 どうやら、大きな口を開けて魚を試し食いしていたらしい。そういえば、天児が目覚めた時もパラをいくつか食べていた。もしかすると、こうみえてリヴァイアサンは意外にも食道楽なのかもしれない。


「そのまま食べても、リヴァイアサンさんは身体が大きいのですから食べ応えがなくて当然ではなくて?先程のように人間の姿になって、テンジ様の手料理を食べれば私の気持ちがよくお解りになると思いますわ」


「ふむ、なるほど。そういうものか。…よし、今度我もテンジに何か作ってもらうとしよう」


「いや、構いませんけど…大丈夫かな。ところで、あのリヴァイアサンさんって言い辛くないですか?」


「む、話はそこまでだ。見えてきたぞ、あれが芳魂の神殿だ」


 全員の視線の先に、巨大な石造りの建物が見えた。海底だというのに建物自体がぼんやりと光っており、周囲を泳ぐ様々な魚の姿と相まって、とても幻想的な光景だった。建物の作りは、バーソロミューの街にあった女神を祀った神殿によく似ている。様式が同じなのだろう。


 やがてゆっくりと神殿の傍に着くと、リヴァイアサンはすんなりとその頭を神殿の中に入れた。本来の姿である今の彼は、頭だけでも相当な大きさだが、それが易々と入るのだから、神殿の大きさは相当なものだ。頭の後ろにいた天児達が恐る恐る神殿の中に降りると、中には空気があって普通に歩くことができた。結界のようなもので、海水が入ってくるのを防いでいるらしい。凄い技術だなと思っていると、いつの間にか人の姿になったリヴァイアサンが、隣に立っていた。


「ふむ、ここに来るのは久方振りだな。おーいオババ!いるだろう。我だ、リヴァイアサンだ!出て来てくれ!」


 低くよく通る声を響かせ、リヴァイアサンが叫ぶ。すると、神殿の奥からしずしずと歩く小柄な老婆が現れた。決して早くない足取りだが、老婆は無表情で近づいてきて、リヴァイアサンの前に立つと深く頭を下げてみせる。


「ようこそ、リヴァイアサン。見知らぬ人間まで連れて…何か用ですか?」


 その言葉には、どこか非難染みたニュアンスが込められているようだった。

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