お嬢様の覚悟
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
天児がしばらくの間、ぐずるマリアロイゼの頭を撫でていると、ようやくマリアロイゼの涙も落ち着いてきたようだ。そんな二人を傍にいた青肌の男はニヤニヤと笑みを浮かべて眺めていた。
「…なんですか?」
「いや、そのままむつみ合ってまぐわうのかと思っていたんだが、そうでもないのだな」
「ぶふぉっ!?」
何ということを言うのか、この男、とんでもないセクハラ野郎である。天児は唐突な下ネタに驚き、噴き出してしまった。突如耳元で大声を出されたマリアロイゼはビックリして目を白黒させつつ、また涙目になっていた。最悪の展開だ。
「ああっ…!ごめんなさいロゼさん!大丈夫?大丈夫ですか?!」
「ハッハッハ!やはり人の子は面白いなぁ!」
恨みがましい天児の視線を受けつつ、青肌の男は愉快そうに高笑いを見せている。マリアロイゼが落ち着くまでは無視しよう、そう天児は心に誓った。
それからどのくらい時間が経ったのだろうか。マリアロイゼが泣き止み、外で顔を洗って戻ってくると、その表情はいつにもまして爽やかでどこか決意に満ちた顔つきに見えた。そして天児の隣に座り、ぎっちりと天児の手を掴んでいる。手をつなぐというより、掴んでいるといった格好だ。手加減はしてくれているのだろうが、少し痛い。天児は顔に出さないように微笑んでみせた。
「さて、揃ったようだし、話を始めるとするか。まずは改めて名乗る所からだな」
青肌の男は天児達の様子を見た後、二人に向き合って姿勢を正し、口を開いた。それまでの人のいい気配とは打って変わって、威風堂々とした、王者の風格を漂わせている。
「我の名はリヴァイアサン。女神エリクシアより芳魂の神殿を守護する命を受けた海龍である」
やはりというべきか、ある意味予想通りの存在であった事に天児は安心していた。むしろ、これで何も知らぬ全くの別人だったらどうしようと思っていた所だ。隣のマリアロイゼは驚いた素振りもないが、改めてと言っていたので、天児が気を失っている間に挨拶は済ませていたのかもしれない。するとリヴァイアサンはその場で立ち上がり、天児に向かって深々と頭を下げた。
「異世界からの旅人よ、礼を言わせてくれ。貴様のおかげで、我はラハブに取り込まれずに済んだ…正直な所、もう限界が近かったのだ。あのままであれば、我は早晩この身を奪われ、瘴気に堕とされていただろう。そうなれば、どれだけの人間が巻き込まれ、命を落としていたか解らぬ」
「ああいや、とんでもない。僕にも事情があったからそうしたまでで…あの、ところでラハブとは?」
初めて聞く言葉に天児が首を傾げていると、リヴァイアサンは頭を上げて座り直し、再び話を始めた。
「ラハブは、貴様が浄化した黒いやつだが…あれは、我が妹だ。ずいぶんと前に命を落としていてな…よもや我らの魂まで瘴気と化してしまうとは思わなんだ。しかし、貴様に浄化された事で、あやつも再び輪廻の輪を潜りまた生まれてくるやもしれん。そうであれば、楽しみだがな」
瞳を伏せて、何かに想いを馳せるリヴァイアサン。その姿からは、瘴気に襲われていた時のような圧迫感は全く感じられない。まるで、凪いだ海のように穏やかな波音が聞こえてくるようだ。
「ところで、世界樹から聞いたが、貴様らは女神の行方を捜しておるらしいな?」
「あ、はい。そうなんです、本当の目的はそれで…その為に芳魂の神殿という所に、行きたいと思っているんですが…」
天児の話を遮るように、マリアロイゼが片手を上げた。突然の事に、リヴァイアサンも天児も呆気に取られて、マリアロイゼをじっと見つめている。マリアロイゼは畏まったように丁寧な礼をして、話し始めた。
「その前に一つ…リヴァイアサンさんにお願いしたい事がございます。私、今回の事でも、これまでの旅でもテンジ様に助けられてばかりでございました。本来、私にもっと力があれば、テンジ様を命の危機に晒すような事は無かったのです。…お願いしたい事というのは他でもございません。リヴァイアサンさん、私に『海龍の加護』を授けては頂けませんか?」
「ほう?」と興味深そうにリヴァイアサンはマリアロイゼを見つめている。一方の天児は、それがどういう事なのかも解らず、突然のマリアロイゼの提案に聞き入っていた。
「いかがでしょうか?」
「ふむ。加護か、加護なぁ…」
マリアロイゼの表情には、ほんの少しだけ焦りが見える。加護を得るということは、そんなにも大事なことなのだろうか?もしかすると危険な事なのかもしれない。そう思った天児は話に割って入ろうとするが、握られた手からその動きを察知されたらしく、マリアロイゼの強烈なプレッシャーを受け、押し黙ってしまった。
「まぁ、我は人の子の事は嫌いではないのでな。加護をくれてやるのは吝かではないが、貴様はそれでよいのか?人の子が過剰に力を得れば、生き辛い事になるのではないか?」
どうやら、リヴァイアサンはマリアロイゼを心配してくれているようだ。それにしても、加護というものはそんな心配をするほどに、強力なものなのだろうか。そう思った時、リヴァイアサンは自信満々に笑顔を浮かべて叫んだ。
「当然だ、我の加護だからな!」
「え…あの、思ったんですけど、さっきから僕の心読んでませんか?」
「ああ、貴様は我の血を海水ごとたんまり飲んだであろう。それで貴様と我には縁が繋がったのだ。心を読むくらい造作もない」
「ええっ…!?」
それはちょっと勘弁して欲しいと天児は思った。誓って読まれて困るような事は考えていないが、異世界に来てから、天児はどんどん人間離れしている。メートル・ゼロや聖女のスキルに加え、金のリンゴと世界樹の実や雫による各身体機能の強化…その上、今度はリヴァイアサンと縁が繋がったというのは、もはや常人ではありえないことだろう。そういえば、世界樹の実が与えてくれる能力というものが何なのかもよく解っていない。これ以上、変な力を得ると元の世界に帰った後が恐ろしい事になりそうだ。
モヤモヤとする天児を横目に、マリアロイゼは覚悟を決めたように一際強く声を上げた。
「上等ですわ!今回よーーーーーー…っく解りました。私がピンチになると、テンジ様はなりふり構わずご自分の身を投げ出そうとなされます。それはそれで、テンジ様からの愛を感じて大変喜ばしいですし、至福の幸せではありますが、それではテンジ様を護りきる事など出来ません。私の使命は、何が何でも無事にテンジ様を元の世界に帰すことなのですから、その為ならばどんな力であろうとも構いません。毒を飲めと言われれば、皿ごと所か、毒を盛ろうとする相手まで飲み込んでやりますわ!」
ムフーと鼻息を荒くして、マリアロイゼは力説する。確かに彼女の言う通り、天児は身の危険など省みずに行動するフシがある。天児にしてみれば、年長者として、まだうら若い乙女であるマリアロイゼの身を案じての行動なのだが、それが先程のように彼女を悲しませているのだと思うと、口を挟み辛い。
そんな彼女の言葉を聞いて、リヴァイアサンは少し考えてから言った。
「よかろう。永い事神殿の守護者としてのみ生きてきたが、人の子を見守るというのも面白そうだ。何より、女神の行方は我も気になるのでな。貴様ら二人、まとめて加護をくれてやろうではないか!」
「えっ!?」
「ありがとうございます」
こうして、天児はますます人間離れした力を得る事となり、マリアロイゼの方はといえば満足したように首を垂れるのであった。
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