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異世界に聖女召喚(失敗)されたおじさん 婚約破棄された悪役令嬢と一緒に世界を救う旅に出ます  作者: 世界


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海洋の決戦

ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。

 天児とフレスヴェルグの目の前に信じられないほどの巨体が顔を覗かせている。


 海龍リヴァイアサン。その体長は、数百メートル…いや、一㎞を優に超える巨大な竜であった。


 未だその身体の半分以上は海中にあるはずだが、今海上に出現している部分だけでも、十mを超えるフレスヴェルグが小さく感じられるほどだ。もし先程の大顎(おおあぎと)を避け切れなければ、飲み込まれて即死していただろう。避けられたのは本当に運が良かったと言える。


 天児は、改めて目の当たりにするリヴァイアサンの圧倒的な巨大さに愕然としていた。これだけ大きさが違うとなると、手甲に仕込まれた天児の小剣程度では、蚊が刺した程にも感じられないだろう。仮にマリアロイゼが万全の状態で、彼女のハルバードをもってしても、どこまでダメージを与えられるかは疑問である。

 もちろん、あくまでリヴァイアサンを倒すのではなく浄化する事が目的なのだが、これだけの巨体をスタンディングベアーのように触れただけで浄化できるとは思えない。上手く動きを止めてくれれば、背中に飛び乗る事くらいは容易だろう。しかし、それで決着がつかず、海底に沈まれたら一巻の終わりだ。

 海面に飛び出しただけで起こった海水のスコールからして、巻き込まれればフレスヴェルグとて危険である。やはり、ある程度抵抗を抑えるだけの戦闘が必要に思えた。


 天児とフレスヴェルグは、距離を取ってリヴァイアサンの周囲を飛んでいる。かたやリヴァイアサンはこちらを意識していないのか、じっと佇んで、バーズタウンの方向を見つめているようだ。そのまましばらく様子を伺っていると、リヴァイアサンの周囲にある赤黒く変色した海に、街を襲った怪物たちが蠢いているのが見えた。それらはリヴァイアサンの身体に取りつき、無数の触手を突き刺している。


「あいつらはさっきの…?一体、何を…」


 天児の視線の先で、次々に増えていく怪物たちがリヴァイアサンを蝕んでいた。さすがのリヴァイアサンもその数には堪らず、それらを引き剥がすように身じろぎをして海面にその身体を叩きつけた。すると、その勢いで大波が起き、引き剥がされた怪物達の一部は一斉にその波と共にバーズタウンへ流されていく…こうやって、先程の襲撃が行われていたのだ。

 そして、これで海が変色していた理由も解った。あの赤黒いものはリヴァイアサンの血液だ。あの怪物達が触手で取りついた際に傷ができて、そこからリヴァイアサンが出血しているのだろう。


「リヴァイアサンがあいつらを操っているんじゃないのか…?じゃあ、どうしてあいつらはリヴァイアサンの毒を持っているんだ?」


 初めは、瘴気に侵されたリヴァイアサンから怪物たちが生まれているのかと考えていたが、こうしてみるとそれは違うように思える。だが、こうして近くにいると、明らかにリヴァイアサンからは瘴気の影響が感じられた。それは聖女のスキルによるものか、或いは、別の力なのかは解らないが、今の天児には瘴気の存在を感知する力が備わっているようだ。

 そして、それにより、はるか海の底にもう一つ、恐るべき何かが存在する事を天児は感じ取っていた。


 この世界における瘴気とは、天寿を全うできなかった魂達が変異した存在である。


 それは天児の暮らしてきた日本風に言えば、成仏しきれなかった悪霊や怨霊と言い換えてもよいかもしれない。その内に澱み溜まっているのは生への執着、もしくは渇望…そして無惨にも命を散らした存在が抱く、生きとし生ける者への憎悪であり、悪意ある負の想念そのものと言っても過言ではないだろう。本来、魂そのものが持つ力は微々たるものだが、負の想念という無限に等しい悪性により、それはやがて凝り固まって無形の力となる。


 それこそが瘴気の正体であり、それが生ある者に憑りつき存在を侵す事で、醜悪な怪物へと変化させるのだ。


 リヴァイアサンを襲う怪物は、海で帰らぬ人となった者達の魂、その成れの果てであった。彼らは人を襲い、リヴァイアサンを襲うことで、新たな生贄と哀れな同胞を求めている。天児がそれに気付いたのは、すでに沖合から遠くに見えるバーズタウンより、怪物共に襲われて命を落とした人々の魂が瘴気の欠片となってこちらへ流れてくるのが見えたからだ。


「っ…!?」


 ホラーに弱い天児は、それを意識した瞬間、血の気が引く思いがした。ともすれば、恐怖の余り意識を失っていたかもしれない。だが、マリアロイゼの苦しむ顔が脳裏に浮かんで、寸での所で恐怖を御する事が出来た。今は、負けていられないのだ。もしあのままマリアロイゼを死なせてしまえば、彼女も悍ましい瘴気の仲間入りをしてしまうことになる。そんな事は、絶対にさせたくなかった。


 そんな天児の心は、背に乗せているフレスヴェルグにも伝わったようだ。フレスヴェルグは天児を心配するように頭を動かし、「グルル…」と小さく鳴いている。天児はフレスヴェルグだけでなく、自分にも言い聞かせるように、その背を撫でた。


「大丈夫…大丈夫だよ、フレスヴェルグ。心配してくれてありがとう。僕は負けない、今だけは、絶対に…!」


 そんな天児の決意を嘲笑うかのように、新たな犠牲を得た怪物共は、一つの蠢く肉塊へと変化していった。そしてその塊を覆い隠すように、海底からどす黒い水流が巻き上がり、それを飲み込んで巨大な姿を形成していく。それは、大量のリヴァイアサンの血を巻き込んで生まれた、もう一体のリヴァイアサンの姿であった。


 それが現れた瞬間、リヴァイアサンに絡みついていた瘴気の気配が消えた。その気配は、どす黒い水流によって形成されたリヴァイアサンへと移っていき、悍ましい気配が一気に膨れ上がる。リヴァイアサンに憑りつこうとしていた瘴気は、リヴァイアサンそのものを変異させる目論見であったに違いない。恐らく、リヴァイアサンは今まで必死に抵抗していたのだ。

 瘴気の怪物共は、リヴァイアサンを侵食する事を諦め、人を襲って瘴気となす一方で、大量の血液を奪い、それを依り代として、新たな形を得たのだろう。だが、それは今まで隠れていた真の敵が顕現した瞬間でもあった。

 

 気付けばいつの間にか、海は荒れ、嵐が巻き起こっていた。大量の海水を巻き上げた竜巻がいくつも立ち上り、フレスヴェルグも回避に集中している状況だ。

 もう一体の黒いリヴァイアサンが出現してから、元々いたリヴァイアサンはぐったりとして息も絶え絶えになっている。放っておけば、リヴァイアサンは死んでしまうだろう。そうなれば、今度こそ本当に取り込まれてしまうかもしれない。

 マリアロイゼの為にも、それだけは避けたい所だ。天児はフレスヴェルグの背からじっと観察をして、策を練った。


「あの怪物が集まって出来た塊…きっと、あれが核だ。見た所、あちこちから瘴気を吸い上げてる。あれを浄化出来れば…」


 天児の浄化スキルは、その手で触れない限り発動しない。バーモント村のヘスペリデスの木には、メートル・ゼロを発動させて浄化出来たが、そこまで射程距離が長いアビリティではないので、空中でそれほど近付くのは難しいだろう。ましてや、あの巨体である。頭の下、首元の奥にある核に外から触れるのは不可能と言っていい。


 黒いリヴァイアサンは、天児とフレスヴェルグを邪魔者だと認識しているようで、稲妻や竜巻を使い、こちらを墜とそうと攻撃を仕掛けてきている。いくらフレスヴェルグと言えど、嵐の中で天児を乗せたまま避け続けるのは無理があるに違いない。悠長に考えていては共倒れだ。


「やるしかない…!アクシスさん、世界樹の雫を、ありったけ下さい!フレスヴェルグ、アイツの背後に回ってくれ!」


 天児は覚悟を決めて、零れ落ちる世界樹の雫をその手に集めた。執拗に追いかけてくる稲妻を避けつつ、フレスヴェルグは天児の指示通りに黒いリヴァイアサンの背後を取ろうと飛び回った。しかし、敵もさるものというべきか、こちらの手を読んでいるかのように上手く頭を動かして、背後を取らせてはくれない。


 このままでは埒が明かないと思っていたその時、それまでぐったりを海面に横たわっていたリヴァイアサンは首をもたげて、黒いリヴァイアサンに向け強烈な火炎を吐きかけた。身体が海水で出来ている黒いリヴァイアサンにはほとんど効果は無かったものの、突然動き出したリヴァイアサンに気を取られ、その動きが止まる。


「今だ!!フレスヴェルグ、思い切り強い竜巻をあそこに!」


 天児は、マリアロイゼから聞いていた。初めての出会いで自分が飲み込まれたあと、何があったのか。マリアロイゼとフレスヴェルグがどう戦ったのかを聞き、覚えていたのだ。フレスヴェルグは黒いリヴァイアサンの背後に回り、核が見える後頭部の真上に着いた。そして、天児の指示に従い、全力の竜巻をその首に向かって撃ち放つ。


 竜巻は黒いリヴァイアサンの身体を形成する海水を一気に巻き上げる。当然、フレスヴェルグと天児はその竜巻に巻き込まれる形になった。天児はすぐにフレスヴェルグの口の中へ世界樹の雫を放り込むと、自分は竜巻の中心へ身を投げ出し、一直線に核目掛けて飛び降りた。 核に近づけば近づくほど竜巻は収束して、鋭い風の刃が天児の身体を切り裂いていく…その中を、身体を屈めて重要な部分を守りながら天児は落ちる。大きな傷を負ったなら、世界樹の雫を口に投げ込み傷を癒す。そんな無茶を数回繰り返し、天児は核に到着した。


「もう遅い!」


 突如現れた外敵を排除せんと、核から無数の触手が踊り出し、天児に纏わりついてくる。しかし、その目論見よりも早く天児のその手は核を形成する瘴気そのものに触れ、まばゆい光と共に浄化が発動した。全身の力が抜けるような感覚と共に、いくつもの層に重なり合った瘴気は解け、霧散する。永遠に思えるような時間が過ぎ、全ての瘴気を浄化し終わった時、天児は大きな波に飲まれ海中へ引きずり込まれていた。


「ごぼごぼ…!」


 たらふく海水を飲み込み、呼吸もままならない中で、天児は必死にもがく。彼の意識が遠退くその瞬間に見たものは、優しい眼差しでこちらを見つめる、リヴァイアサンの姿であった。


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