凶鳥と空飛ぶおじさん
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「お、お主、一体誰と話しておった…?お主は何者なのだ?」
事情を知らないパスカルは、酷く動揺しながら天児に問いかけた。その質問はもっともではあるが、今はそんな話をしている場合ではない。天児はパスカルに深々と頭を下げてみせた。
「すみません、詳しい話はあとで…ロゼさんをよろしくお願いします」
そう言い残し、残った世界樹の実の半分を齧りながら、天児は竜車を降りて大地に立つ。この世界にきてから、本当に一人で行動するのは久し振りの事だ。バーツでマリアロイゼが竜車を借り受けに行った時以来である。あの時もそう長い時間、彼女と別行動をしたわけでもない。その意味では、本当に単独行動をするのは初めてかもしれない。
たった一人で何が出来るというのかは解らない。だが、身を挺して自分を救ってくれたマリアロイゼを放っておくことなど出来ないし、そんな事は考えたくもない。娘の為に生きねばならないと思っていたが、今はそこにマリアロイゼの為に無駄死にするわけにはいかない思いが重なった。
そんな天児の肩に、フレスヴェルグがそっと乗り立つ。小さくクルル…と鳴いて、天児について行く気は満々のようだ。ただ一人と思っていたが、こんなにも心強い味方がいたのだと知って、天児は嬉しくなり、フレスヴェルグの頭を撫でた。
「ロゼさんをこのまま死なせたくないんだ…フレスヴェルグ、力を貸してくれ。頼むよ」
そう呟く天児の声に耳を傾けながら、フレスヴェルグは目を細めて天児の手に寄り添い頭を摺り寄せている。普段はマリアロイゼと仲が良いわけでもないのだが、彼女を助けたいと言う天児の気持ちは理解してくれているようだ。
残った実を歩きながら食べて、天児とフレスヴェルグは街から少し離れた浜辺に降りた。芯の部分は食べられないので捨てようかと思っていたが、フレスヴェルグが欲しがったので食べさせると、フレスヴェルグは旨そうにそれを食べ、大きく鳴いた。
「グルルルル…!ピュイイイイイ!」
すると次の瞬間、肩から降りたフレスヴェルグは、初めて世界樹の元で出会った時のような巨大な大鷲の姿に変身した。実は、バーモント村でラアドンを制圧した時と、アビーの屋敷でマリアロイゼの暴走を止める為に変化しているのだが、天児はどちらも気絶していたのでそれを見ていない。
フレスヴェルグがこの姿になったのを見るのは、天児にとっては最初の出会いで丸吞みにされた時以来なのだ。
「…っ!」
あまりの大きさと迫力に、思わず天児は息を呑む。あの時、助かったとはいえ飲み込まれた事は死を覚悟するものであった。それを思い出し、一瞬身体が強張ったが、あの時とは関係性が違う。フレスヴェルグとは共に旅をする中で、信頼関係も結べている。恐れる必要など何もない。そう思って、大きなその背中にそっと手を触れてみた。
「柔らかいな…それに凄く温かい。ありがとう、フレスヴェルグ。もう怖がったりしないよ」
そう、フレスヴェルグは気付いていたのだ。天児が自らの本来の姿に恐怖を覚えていることを。彼は一度、殺されかけたのだから、普通は恐れを持つのも当然である。これまでフレスヴェルグがあまり本来の姿に戻ろうとしなかったのは、いざという時の為に力を蓄えておく為と、もう一つは天児に気を使っての事であった。
フレスヴェルグは天児が落ち着いているのを確認すると、自らの背に乗るように指示を出した。どうやって海に出ようか考えていた所だったので、天児はその厚意に感謝して、大きな背をよじ登る。
ふかふかの毛並みに埋もれながら、後頚と上背の間に収まると、まるで誂えたようにピッタリと身体がハマる。そのまま、フレスヴェルグは大きく一鳴きして羽ばたき、海上の空へと飛び立った。
「うわっ!す、すごいな!」
勢いよく飛び立ったはずなのに、翼とフレスヴェルグの頭が風除けになって、ほとんど風を感じない。身体がぴったりはまっていることもあって、逆さに飛びでもしない限り、振り落とされる心配もなさそうだ。パスカルの話では、リヴァイアサンは沖合に姿を見せるものだったらしい。天児とフレスヴェルグは、沖合を上空から観察することにした。
それなりの高度を飛んでいるというのに、フレスヴェルグの毛に包まれているおかげなのか、天児は全く寒さを感じない。この高さからでは、普通ならば何も見えはしないはずだが、金のリンゴを食べて視力が格段によくなっている事で、天児は海上をしっかりと確認する事が出来ている。
そういえば、世界樹の実も食べたが、アレにはどんな効果があるのだろう?ふと疑問に思った時、タブレット(木板)からアクシスの声が聞こえてきた。
―よくぞ気付いてくださいました。私の齎す実は、あらゆる身体能力を底上げし、新たな力を獲得することが出来るのです。
もっともその効果は生涯に一度だけ、なのですがね。
あれは元々、力を求めて私の元に訪れた者が、私の課す試練の果てに与えられる褒美なのです。
「なるほど、じゃあ、あの毒に対抗するというのは、体力や治癒能力を底上げして耐えるってことなんですね」
―仰る通り、あの竜の娘は竜人だけあって、基礎体力が尋常ではありませんからね。
普通の人間であれば、あの毒では即死していてもおかしくありませんよ。
…ただし、それも長くはもたないでしょう。もってあと数時間という所です。
「数時間…」
思わぬタイムリミットを聞き、天児は再び息を呑んだ。恐らく、陽が沈むくらいまでの時間と考えるべきだろう。それまでにリヴァイアサンを見つけ出し、浄化して解毒の元を持ち帰らねばならない。
天児は手をかざし、太陽の方を向いた。上空を飛んでいる為に日を遮るものがなく、手をかざしてみたものの、かなり眩しい。それでも現在の時刻はある程度推測できる。おおよそ午後二時くらいだろう。つまり、あと四~五時間の内に決着を着けねばならないということだ。とても余裕のある時間とは言えない。だが、諦めると言う選択肢はなかった。
少し高度を落として、天児が再び海を見下ろした時、一瞬眩暈のような感覚があって、咄嗟に目を瞑った。すると、瞼の裏にとても鮮明な映像が浮かび上がる。それは突然赤く染まった海中から、途轍もなく巨大な何かが浮かび上がろうとしている姿であった。
「フレスヴェルグ!右に旋回!急いで!」
天児が大声で叫ぶと、フレスヴェルグはすぐさま指示通りに右へ飛んだ。すると同時に、海が真っ赤に染まり始め、巨大な何かが海中から天児達を狙ったように飛び出してきた。
「くぅ…!」
ぐっとフレスヴェルグの身体を掴み、振り落とされないように力を入れる。フレスヴェルグは一気に加速して、その巨大な何かの大顎を、辛くも回避してみせた。耳をつんざくほどの水音がしたかと思えば、巨大な何かが巻き上げた海水が、まるで嵐のように降り注いでくる。
「うわああああ!?」
思わず悲鳴を上げてしまったが、なんとか食われる事なく避け切った。大きく旋回して正面に捉えたその巨大な何かこそ、オケアノスの海を統べる海龍リヴァイアサンそのものの姿であった。
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