西海の怪物
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
バータ村を出てから一日半、いよいよ西海・オケアノスまではあと僅かである。
やはり水の補給を考えなくてよくなったのは本当にありがたいもので、ここまでの道中はグラウンド・ドレイクの休憩を除いて、ほぼノンストップで移動できた。これだけの代物は、マリアロイゼのような高位貴族でも持っている者はそういないだろう。バータの人々には感謝してもしきれない。
この後は、一旦オケアノス付近にある海辺の街バーズタウンに立ち寄る予定だ。
時間的にはちょうど明け方頃なので、街の近くで休息を取り、改めて詳しい作戦を決めなければならない。
二人は少し早めに就寝をしていて、グラウンド・ドレイク達の走りに任せている。
ただ一羽、フレスヴェルグだけは起きて窓から見える景色を見つめているようだった。
窓から潮の匂いが漂い、グラウンド・ドレイク達の走る音に混じって波の音が聞こえてくる頃、遥か遠い水平線の向こうにかすかな陽光が見え始めた。
フレスヴェルグはそれを待っていたように、眠っている天児達の横に立ち、嘴で優しく身体を突いた。
「ん…フレスヴェルグ…?どうした?」
天児が目を覚ますと、フレスヴェルグは用を終えたとばかりに、窓際へ飛び、再び外を見つめている。その後ろから天児が外を眺めてみれば、雄大な海には今まさに登ろうとする太陽の光によって、その海上に一本の道が出来ているようだった。
「ああ、夜明け…そうか、着いたんだね。ありがとう、起こしてくれて」
天児がフレスヴェルグの頭から背中を撫でてやると、フレスヴェルグはクルル…と小さく鳴いて、気持ちよさそうに目を閉じている。本当に、表情の豊かな鳥だ。一昨日スネていた機嫌はすっかり良くなって、こうしているとなんとも愛らしい。
そうしている間に、窓から見える景色は段々とその速度を落とし始めた。グラウンド・ドレイク達も目的地に着いた事が解っているようだ。
完全に停止したのを確認してから、外に出て顔を洗う。海辺からはまだ距離があるというのに、竜車の外はもう潮の匂いで溢れていて、まだ早朝の潮風は冷たくて肌寒い。少し遠くから響く、ざあざあと引いては返す波の音を聞いていると、ここが異世界である事を忘れてしまいそうだ。
「こっちでも、海は一緒だな。景色は、見た事もない場所だけど」
そう呟きながら、いつも通り顔を洗って、歯を磨いた。まだ夜が明けたばかりの海や砂浜には人の姿はなく、これだけ波の音が聞こえてくるというのに、静寂ささえ感じられるようだ。天児の故郷は海のある街ではなかったが、母方の実家が漁師町だった為に、子供の頃は何度も海で遊んだ覚えがある。あの頃、夜や早朝の海は波の音が煩いのに静かだと、幼心に恐怖を覚えたものだが、今となってはそれが懐かしいと感じるのだから不思議なものである。
簡単に食事の支度をしつつ、マリアロイゼの起床を待った。すぐに起こしてもよかったのだが、どうせまだ街へいくには早すぎる時間だ。今はのんびりとしておくのも悪くはない。
どうしても保存のきく食糧をメインに扱うと、作れるものが限られてしまうが、マリアロイゼはなんでも美味しいと言って食べてくれるから作る側としてはとても嬉しい。
今朝は魚の干物を焼いたものとご飯、それにすまし汁と茹で野菜というメニューだ。本当は味噌汁がいいのだが、さすがに異世界に味噌はないようなので我慢するしかない。
それにしても、このオケアノスという海には、不思議な気配がある。
元の世界の海でも、その身に迫る雄大さを感じたものだが、ここはまるで何かに圧倒されるかのような、強いプレッシャーが感じられた。
それが何なのかは解らないが、胸騒ぎに似た、言い知れない不安がすぐ手の届く所に見えてるような、そんな感覚がした。
しばらくして、マリアロイゼが起きてきたので、彼女が身支度を整えるのを待ってから食事の時間になった。海を見ながらの朝食というのもなかなか乙な物だが、やはり何かが落ち着かない。ソワソワする意識を抑えて食事をしつつ、今後の予定を確認する。
「このあとどうしましょうか?」
「食事を終えたら、いい時間ですしバーズタウンに入る事に致しましょう。竜車を一旦預けて、宿を取りたい所ですわね。そこで改めて、アクシスさんと海底神殿へ向かう作戦を立てるのがよろしいかと思いますわ」
今日はフレスヴェルグが自分で食事をしているので、天児もゆっくり食べられている。時折、会話を楽しみながら食事が終盤に差し掛かる頃、それは起きた。
海からバーズタウンに向かって、巨大な波が押し寄せ、街の外壁にぶち当たった。ゆっくりと波が引いて行くと、外壁に何か奇妙な物体がいくつもへばりついているようだった。遠目には魚のようにも見えるが、うねうねとした触手のようなものが蠢いているのも見てとれる。
その奇妙なものに気を取られていると、街の中から悲鳴と煙が立ち上り始めた。どうやら、先程の波に乗って怪物が街に侵入していたらしい。
「なっ!?」
「あれは一体…?」
天児達はすぐに食事を切り上げて、片付けもそこそこにバーズタウンに向かって走った。グラウンド・ドレイク達が海に近づくのは危険なので、少し離れた森で待機するように命じると、彼らは大人しくそちらへ走っていってくれた。
「ロゼさん、あれはなんなんです?心当たりはありますか?」
「いえ、私もあんな魔物をみるのは初めてです。一応、学園では一通りの魔物について学んだはずなのですが…」
マリアロイゼも知らぬ未知の魔物とは、穏やかではない。もしかすると、浜辺に人気がなかったのは、あの怪物たちを警戒しての事だったのではないか?考えてみれば、漁師などは朝の早い生活をしているはずだが、海に漁船などが見当たらなかったのも妙だった。
天児はどんどんと強くなる胸騒ぎを振り払うように、マリアロイゼと並んで必死に走った。
二人が街に着くと、中は想像以上に悲惨な状態であった。無数の怪物たちは人間を次々に襲い、丸飲みにしたり、嚙み付いて引き千切ろうとしたり暴れ回っている。街を守る衛兵達は数が多くないので、手が足りずに苦戦しているようだ。
「なんてこと…っ!」
「ロゼさん、手分けして怪物を倒しましょう!僕はフレスヴェルグと一緒に行動しますから、ロゼさんは僕を気にせずに!」
天児の呼びかけに、マリアロイゼは頷いてすぐさまハルバードを手に持って、手近な怪物たちを攻撃し始めた。
天児も、フレスヴェルグのブレスと連携をして手甲に仕込まれた小剣を使い、怪物たちを倒しつつ逃げる人々を支援する。
数時間後、全ての怪物を撃退した後には、街は大きな傷跡が残り、被害を受けた人々の苦悶の声が響いていた。
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