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異世界に聖女召喚(失敗)されたおじさん 婚約破棄された悪役令嬢と一緒に世界を救う旅に出ます  作者: 世界


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家族の形

ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。

 ハンネスの悩みを解決した翌朝。竜車の中で天児は目を覚ました。


 相変わらず、隣のベッドで寝たはずのマリアロイゼが抱き着いていて、朝から悩ましい気分にさせられたが、さすがに二度目ともなれば心の準備は出来ている。天児はうまく枕や布団を駆使してマリアロイゼの身体から逃れ、外で歯磨きと顔を洗う事にした。

 外でふと自分の身体をよく見ると、何か所かにキスマークのようなものがついているが、そこはあえて気にしない。気にしたら負けである。


 昨日、ハンネスの家を出た後、商店の店主に会いに行き事の顛末を報告すると、待っていた店主と客のニコラは大層喜んでくれた。

 しかし、そのおかげでサービスの嵐を受ける羽目になり、礼をするからと懇願されて、結局、丸一晩追加で逗留することになってしまった。


 ハンネスとシモーヌの結婚、その前祝の宴という触れ込みだったが、実際には本格的な祝いの席である。

 公爵令嬢であるマリアロイゼを賓客として宴に迎えることなど、本番でもありはしないだろうから、この機に乗じて本格的な式にしたかったのかもしれない。急遽、スピーチと二人の見届け人を頼まれたというのに、マリアロイゼは快く了承しまた堂々とそれをこなしてみせたのだから、さすがの一言に尽きる。

 もし仮に頼まれたのが天児だったなら、散々な結果になっていただろう。なにせ過去に同僚の結婚式で職場の代表を任された時は、胃に穴が開きかけたくらいだ。そういう目立つ事は大の苦手なのである。

 

 それにしても、お礼にと用意された水瓶はかなりの代物であった。その大きさもさることながら、保存を目的とした冷却効果の魔法が付与されており、通常よりも長期間水を貯めておくことができるらしい。これまでは精々一日~二日分の水しか持ち運べなかったが、これがあれば、一度の補給で一週間近い行動が可能になるだろう。予想外の収穫を得て、天児もマリアロイゼも大満足である。


 大きさ的に竜車が無いと持ち運ぶのは厳しいので、そこは考える必要があるものの、一々村や街に立ち寄る回数が減るので、旅程の短縮になるはずだ。

 

 眠い目を擦って歯を磨きながら、ぼーっと昨日の事を思い出す。


 ハンネスの悩みを解決することが出来たのが良かったが、気になっているのはその解決手段だ。

 別段、天児が何かをしたわけではないのだが、七年もの歳月を費やして解決しなかった彼の悩みはあんなに簡単に解決できるものだろうか?マリアロイゼの様子がおかしかった事といい、何かしら理由があるのではないかと考えているが、答えは見つからない。


「まぁ、ちゃんと解決出来たんだから、いいか…」


 水を口に含んで、ぐじゅぐじゅと口をゆすぎ、ペッと吐き出す、それを二回ほど繰り返して口の中がスッキリすると、その頃には頭も冴えてきたようだ。

 どういう形であれ、彼らの問題を解決したことで、旅の懸念だった水を気にしなくてもよくなった。それは今後も旅をする上では極めて重要なことである。解らない事を解らないままにしておくのは座りが悪いのだが、その大きな利点を手にした事を踏まえて、今は飲み込んでおく方がいいだろう。


 天児はそう結論付けて、朝食の支度に取り掛かった。


 そうこうしている内に、マリアロイゼが起きてきて、朝食の時間である。

 昨日の奇行は嘘のように、マリアロイゼは普通に戻っているが、困ったのはフレスヴェルグの方であった。


 昨日は買い出しだけのつもりだったので、フレスヴェルグを竜車に残していったのだが、予想外の事があって帰還が遅くなったせいで戻ってきた天児達を迎えたフレスヴェルグの態度は凄かった。

 まるで犬や猫が甘えてくるように、天児の肩に乗ってはグリグリと頭を押し付けたり、甘噛みをしたり、構えと言わんばかりの甘えっぷりである。

 それは一晩経った今も続いているようで、食事中にも天児の肩に乗ったまま、彼が差し出さねば食事を摂らない有り様だ。親鳥が子に餌を与えるような形になっていて、天児は自分の食事が中々進まない。


 「昼前には、頼んでおいた品が揃うらしいので、出発はその後になりますわね」


 忙しなくフレスヴェルグに給餌する天児を余所に、マリアロイゼは優雅に食事を終えて、食後のリャミー(コーヒー)を飲みながら予定を確認している。大量の水の確保と保存が出来るようになった今、この村を出た後はオケアノスへノンストップで向かえるだろう。

 次の目的地は、いよいよ西海オケアノスである。そこにあるという海底神殿に向かい、女神の魂…その行方を捜すのが本来の目的だ。

 そこには海龍リヴァイアサンがいるというし、一筋縄ではいかないだろうが、それを乗り越えなければ元の世界へは帰れず、最愛の娘に再会することも出来ない。天児は身震いしながらも、この先に待ち受けている過酷な旅に思いを馳せた。

 

「大丈夫です。テンジ様は私がお護り致しますわ。例えこの命に代えましても…」


 テーブルの上に置かれた、かすかに震える天児の手をそっと握り、マリアロイゼは誓いのようなその想いを吐露する。

 マリアロイゼは本気だ。ミッシェル王子の策略で処刑されると知ったあの時に、自分の命はもう終わったものと覚悟が出来ていた。本来ならば、母国の為、公爵家の為に命を失っていたはずが、天児と出会った事で救われ、運命が切り拓かれたのだ。それはもはや天啓と言うべき出会いであった。

 ならば、この拾った命をどう使うか?そう考えた時に、自分を救ってくれた天児を救いたい、そう思った。


 アビーに対しては口にしていた決意だが、今度は天児自身にはっきりとそれを伝える。

 天児はそれに驚いて、慌てて否定した。


「だ、ダメですよ、そんなの!?ロゼさんを犠牲にしてなんて、そんな事は絶対にダメです!」


 思った通りの発言に、マリアロイゼは微笑みをみせた。一般的なこの世界の男性ならば解る、彼らは女性を守ることを当たり前の価値観として持っていて、その為に強い身体を持ちそれを鍛えている。それは、この世界の常識であり、誰もが()()()()()()()()()()という、当たり前の価値観だ。だが、天児の場合は少し違う。彼はその優しさだけで、そう言うのだ。生まれ持った強さに裏打ちされた自信ではなく、その心の在り様だけでマリアロイゼを犠牲にすることを許さない。

 その違いが何よりも嬉しくて、マリアロイゼは天児にさらに惹かれていった。

 

(そう仰ると思っていました。けれど、これは私の決意なのです。どんなことがあっても、貴方を元の世界へ帰してみせます。そう、何があっても)


 マリアロイゼは改めてその覚悟を胸に秘め、天児の手を優しく、しっかりと握り締めた。

 そんな二人の世界が出来上がっているのが悔しいのか、フレスヴェルグは天児の頭を執拗につついている。


「痛い痛い…ちょ、強い!フレスヴェルグ!止めて、禿げちゃうから!?ねぇ、聞いてる?!イタタタタ!」


 マリアロイゼが悶える天児を助けようとした時、コンコンと竜車の扉を叩く音が聞こえた。

 店主が来る約束の時間にはまだ早いのだが、気になったマリアロイゼが外へ出て見ると、そこにいたのはハンネスとシモーヌの二人であった。


「あら、お二人とも、おはようございます。よい朝ですわね、二人でお散歩かしら?」


「マリアロイゼ様、おはようございます。いえ、どうしてもお渡ししておきたいものがあって参りました。朝のお忙しい時間にすみません」


 シモーヌが頭を下げ、ハンネスも後に続く。マリアロイゼもそれに倣って礼をすると、ハンネスが一歩前に出て抱えていた大きめの鞄を差し出した。

 渡したいものというのはこれだろうか?マリアロイゼはそれを受け取ってみると、ずしりとした重みを感じた。


「お二方、ご丁寧にありがとうございます。ところで、これはどういう?」


「まずは昨日、急なお願いまで聞いて頂き、本当にありがとうございました。聞けば主人が私への贈り物を作る際にも、ご相談に乗って頂けたとか…そこまでして頂いたというのに、ろくな御礼も出来ておりませんでしたので、せめてそちらを持参した次第です」

 

 シモーヌは深々とお辞儀をしながら、改めて礼を口にした。祝い事が済んだだけで、まだ席は入っていないはずだが、すでに二人は立派な夫婦になっている。マリアロイゼは自分と天児の未来を想像して、二人の姿が少し眩しく、羨ましいとさえ感じていた。


「そちらは僕が長年の研究で創りあげた、マジックアイテムの数々です。お二人はこれから大変な旅に出られるという事で、きっとお役に立てるものと思います。どうかお納めください」


「まぁ…!そんな大切なものを頂いてしまってよろしいのですか?」


「はい、もちろんでございます。それだけでは返しきれない御恩ではありますが、活用して頂ければ…またこの地へおいでの際には改めてお礼もさせて頂きますので。お二人共、どうか御無事で」


「そうでしたか、それではありがたく頂いておきますね。お心遣いに感謝いたしますわ」


 マリアロイゼも二人に向かって深く頭を下げる。その姿は、誰もがイメージする優雅な公爵令嬢そのままであった。

 一方、その背後で、天児の悲痛な叫びがこだまする。

 

「アイダダダ!た、助けてーっ!」


「…っ!フレスヴェルグ!いい加減になさい!それ以上の無法は許しませんわよ!」


 先程の優雅な公爵令嬢の姿はどこへやら、振り向いたマリアロイゼは子どもの悪戯を叱る母親のように青筋を立てて怒声をあげた。

 竜車の中を派手に暴れ回る二人と一羽は、自分達と変わらぬ幸せな家族そのもので、ハンネスとシモーヌは顔を見合わせて笑うのであった。

お読みいただきありがとうございました。

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