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異世界に聖女召喚(失敗)されたおじさん 婚約破棄された悪役令嬢と一緒に世界を救う旅に出ます  作者: 世界


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香りに包まれて…

ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。

 ダイニングに取り残された天児は、ただただ呆然としていた。

 纏わりつくマリアロイゼの様子はおかしいし、退去しようにも玄関に鍵すら掛けられない。

 気にせず出て行ってしまってもいいのだが、いくらなんでも不用心だし、何よりこのまま立ち去ったとして、ニコラさんや商店の店主に何と言えばいいのだろう。もう少し様子を見た方がいいかもしれないと、天児は考えた。


 そうと決まれば、このままここにいても仕方がないので、マリアロイゼを抱き上げて、リビングへ移動することにした。


 高級そうなソファに腰かけ、膝の上にマリアロイゼを乗せておく。

 当のマリアロイゼは、幸せ一杯といったニヤけ顔をして、天児の首元や胸元に顔を近づけ、すんすんと匂いを嗅いでいる。


「僕、そんなに匂うのかな…アビーさんの御屋敷ではお風呂を頂いたんだけど」


 現代日本人である天児にとって、毎日の風呂というものは当たり前だが、さすがに竜車には風呂などついていない。よって旅に出るとなれば、毎日の入浴は厳しいものだ。持っていく水にも限りがあるし、その使い道は料理や飲料の方が優先になる。

 もう少し大きな街であれば、宿を取って入浴も可能だろうが、この村は農村である。旅人向けの宿はなさそうだった。


 若干精神的に落ち込みながら、改めてマリアロイゼの様子を見てみる。…が、やはりどうも様子がおかしい。先程からマリアロイゼは言葉を発さず、まるでマタタビを与えられた猫のように、グリグリと頭や喉を天児の身体に押し付け、笑っているばかりだ。実は頭を押し付けられると彼女の角が刺さって、割と痛いのだが…以前、角が敏感だと言っていたのに、押し付けても大丈夫なのか、少々心配でもある。

 普段から天児の事となると暴走しがちな彼女だが、それでもただ匂いを嗅いだだけでこんなになるものだろうか?

 

 それによくよく考えてみれば、ハンネスの様子もおかしかった。

 行き詰っていた事が、他人と話をすることでインスピレーションを得るというのはよくあることではあっても、さすがに急すぎる。

 ましてや、直前にした会話がマリアロイゼの性癖暴露みたいなものである。あれが参考になったとは考えにくいし、匂いの元にされた身としてはあまり考えたくないことだった。


「さて、どうしたものか…」


―何かお困りですか?


 突如聞こえた声に、思わず身体がビクっと反応する。タブレット(木板)から聞こえてきたのは、アクシスの声であった。

 

「ああ、アクシスさん。すみません、オケアノスに向かってる所なんですが、ちょっと事情がありまして…」


 天児は日本人らしく頭を下げながら、かいつまんで事情を説明した。アクシスにしてみれば、さっさとオケアノスに向かって欲しい所だろうから、油を売っていると怒られるかもしれないと考えていたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。


―解っています、補給の為に立ち寄った村でしょう。人の子なのですから、準備は必要です。

 それにしても、匂いですか…


 アクシスがそう呟くとタブレットの表面が輝き、画面に数字と、小さくディフォルメされたかわいいアクシスの姿が現れた。最初はカウントダウンかと思ったが、数字とパーセンテージが見えたので、違う物のようだ。

 しばらくすると、現代でよく見かける緑にレ点のチェックマークが表示され、画面は暗くなった。

 

 (どんどん凝った造りになっていくなぁ…)


 何をしたのかは解らないが、もはやオーバーテクノロジーの塊である事に、天児は驚かない。

 むしろ、先程のかわいいCGイラストのアクシスは誰が描いたのか、そちらの方が気になるほどである。

  

―解りました。その室内には集中力を高める成分の香が焚かれているようですね。

 中毒性は無いようです、恐らくその青年が自分で焚いたのでしょう。


「え?そんな事も解るんですか?じゃあ、ロゼさんのこの状態は…」


「で、出来たああああああ~~~っ!!」


 天児の言葉を遮るように、家の奥からハンネスの叫びが響き渡った。ハンネスがダイニングを飛び出していってからまだ小一時間ほどだが、本当に完成したのだろうか?

 声の方向を見ていると、ドタバタと慌ただしい音を立てながら、暗がりからハンネスが飛び出してきた。その手には、綺麗な水色の液体が入った、手のひらサイズの瓶が握られている。

 

「出来た!出来ましたよ!やっとシモーヌに合う理想の香水が出来たんです!テンジさん、マリアロイゼさん、お二人のお陰です、ありがとうございます!」


 さっきまでの鬱屈した表情とは打って変わって、ハンネスは晴れ晴れとした顔で、非常にハイテンションになっていた。七年越しの研究が実を結んだのだから、それも当然だろう。しかし、何故こんなにも急に進展したのかは疑問が残る。


「やったね!おめでとう、ハンネス君。でも、僕らは何か役に立ったのかな」


「お二人の会話がヒントになりましたよ。それに、あの時何か不思議な感覚が降りて来たんです。こうすればうまくいく!っていうような、言葉に出来ないけど、確信のようなものが…!」


「それは凄いな…まぁ、役に立ったのならいいんだけど。じゃあ、それを早速持っていかないとね」


「はい!でも、その前に、お二人にこれを試してもらえませんか?」


「僕らに…?構わないけど、僕らはシモーヌさんの事は全く知らないし、ロゼさんはこんな状態だから、アドバイスも出来そうにないよ。それはシモーヌさんだけにあげた方がいいんじゃないかな?」

 

 キラキラとした瞳で申し出るハンネスに対し、天児は抱えたマリアロイゼを見せて難色を示した。

 どんな香りなのか気にはなるが、それは世界でただ一人、シモーヌの為の香水なのだ。彼女より先に、天児達が試すというのは違うだろう。

 天児がそう答えると、ハンネスは少し考えて「それもそうですね!」と笑って、近くにあった布で瓶を包装し始めた。

 七年の間に、そう言った準備は出来ていたのだろう。鮮やかな手際である。


「どんな香りにしたのかは気になるけどね」


「簡単に言うと、嗅いだ人間の記憶に作用して、その人が最も好きだと思う香りを感じさせるものなんですよ!」


「え…?」


 にこやかに話すハンネスだが、天児の知る香水とは何か違う気がする。

 果たして、それは香水と読んでいいものだろうか。


「逆転の発想ですね!僕は彼女に似合う香りがどんなものか、ずっと考えて袋小路に陥っていました。でも、彼女が好む香りが解らないなら、彼女自身にそれを決めてもらえばいいんです!」

 

「いや、それって、薬剤なんじゃ…?」


「大丈夫です!合法的なものしか使ってませんし、元は自然由来の薬物ばかりですよ!」


 あっさり薬物だと自供しているが、麻薬的なものではないのだろう。そうに違いない。そうでないと困る。

 世の中の多くは自然由来である、なんなら危険な毒物もそうだ。どうにも安心できない返答に、天児は冷や汗を掻きつつ、黙ってそれが包装されるのを見ていることしか出来なかった。

 

「では、僕はこれをシモーヌに渡してきます!本当にありがとうございました!」


「ああ、うん…頑張ってね…」


 天児達は、ハンネスの家の前で丁寧に頭を下げるハンネスと別れた。

 外に出るとマリアロイゼの様子も落ち着いたようで、表情こそ紅潮しているが、奇行は収まっている。

 

「うまくいくといいですわね」


「本当ですね、こじれてたみたいですから」


 去って行くハンネスの背中は誇らしげで、明るい未来への希望が伝わってくる。

 天児は、出来上がったものが予想外だったことには目を瞑りつつ、二人の将来に幸せがあるようにと祈るのであった。



 後日、人々から何か美味しそうな匂いがすると噂され、犬や猫を沢山引き連れて歩くシモーヌの姿が、村で話題になったという…

お読みいただきありがとうございました。

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