贈り物コンサルタント
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
その村の名は、バータという村であった。外から見た所、かなり大きな畑がいくつもあって、村全体が農作物で生計を立てているように見える。
村の規模は決して大きくないが、活気はありそうだし、客車の窓から見える住民達は皆笑顔だ、悪くない村だと思えた。
村の入口付近に竜車を停めて、天児が先に竜車を降りると、後をついてきたマリアロイゼは背筋を伸ばして、公爵令嬢としての表情に戻っていた。
つい先程までのマリアロイゼと言えば、竜車の中では天児にベッタリで、押し倒すつもりではないのかと思うほど息を荒くしてくっついていたというのに、いざ人前に出れば誰よりもシャンとしている。彼女のオンオフの切り替え方は見事の一言に尽きるだろう。天児は頼もしささえ覚えて、マリアロイゼの横顔を見つめていた。
「アビーの屋敷では、保存食ばかり仕入れてきましたから、ここでは生ものを追加したい所ですわね。後はお水かしら」
「そうですね。水はここで補充しておきたいですね。後は生もの…うーん、ここは農作物が豊かみたいですし、生野菜もいいですね」
しばらく街道沿いに川がないので、新鮮な水を補充する事は何よりも重要である。アビーの屋敷で分けてもらった分は瓶に入れてあるが、精々一日か二日分だ。それ以上となると水も傷むので、日程的にも新しい物を用意しなくてはならない。
そんな会話をしながら二人で村で唯一の商店に入る。マリアロイゼが店主に二日分ほどの水と生鮮食品を注文していると、通りの向かいから二人組の男女が歩いてくるのが見えた。
女は少し足早で肩を怒らせ、明らかに機嫌が悪いという印象を全面に押し出している。一方の男は、女の後ろからついて行くように歩いていて、どこか自信なさげな様子である。
何事か口にしているようで、少し離れた所からでも、声が聞こえてきた。
「待ってくれ、シモーヌ!お願いだ。もう少しだけ時間をくれないか?僕は君の事が何より大事なんだ!」
「もういいわ、ハンネス。貴方がどれだけ私を本気で思っているのか解らないもの…!」
どこかで聞いたような会話だ。つい今朝方、そんな思い出に浸ったような気がする。
ふと気づけば、天児は思わず意識をそちらに向けて聞き耳を立てていた。
「後少しなんだ、もう少しで君への想いを形に出来る!その為の時間が欲しいんだよ」
「そう言われて何年待ったと思っているの?貴方の後少しは十年単位なのかしら!?いくら待っても貴方はそれを見せてくれないじゃない、もういいのよ!」
話の内容から察するに、どうやら男が女にすがっている、所謂別れ話のもつれのようだ。そのまま二人はどこかへ歩いて行ってしまった。
どうにも他人事とは思えない話だが、見ず知らずの男女の間に口を挟むのはあまりにも野暮というものである。
そんな思いが顔に出ていたのか、いつの間にか店主と話を終えていたマリアロイゼが、天児の顔をじっと見つめていた。
「ロゼさん、どうかしました?」
「いえ、テンジ様こそ、何やら複雑な顔をしていらしゃるものですから。どうかなさいました?」
「ああいえ、今の二人が少し気になったもので」
「あの二人なぁ…困ったもんだよ」
その話を聞いていたのか、店の主人が商品を用意しながら会話に参加してきた。こちらは見ずに手元で作業をしながらだが、手際はとてもいい。
しかし、困ったとは一体何があったのだろう?
「お知り合いなんですか?」
「まぁ、小せぇ村だからな、皆親戚みたいなもんさ。それでもあの二人は、ちょうどあのくらいの歳の若いのがいなくてよ。村全体で特に大事に育ててきたんだが…ハンネスの方がなぁ」
「ハンネスさんというのは、男性の方ですわね。何か問題でも起こされましたの?」
「問題っつーほどでもないんだがね。この村じゃあ、男と女が結婚する時に男から女に贈り物をするもんなんだよ。それがアイツはなかなか用意できなくてなぁ…」
主人は溜息を吐きながら、次々に商品を包んでいく。段々とその動きは加速していって、まるで手がいくつもあるようだ。
「贈り物だなんて素敵ですけれど…男性から女性にだけ?女性は何も差し上げないのですか?」
天児は気にならなかったが、マリアロイゼは不思議そうに首を傾げている。この世界では男女は平等なので、むしろそれは当然なのだろう。
店主は手を停めずに頷いていて、その動きによって強い風が巻き起こっていた。
「もちろん女の方もやるよ。でも、それは男から贈り物を貰ってからだ。結婚の為の儀式みたいなもんだからな、物を贈って贈られて、それでお互いの心を確かめ合うんだよ」
店主の動きが凄すぎて話が頭に入ってこないが、恐らく婚約指輪のようなものだろう。世界が違っても、同じようなものはあるんだなと天児は妙に納得している。あと、少し寒いくらいに巻き起こる風が強かった。
「ぷ、プレゼントするものは決まってるんですか?例えば、指輪を贈るとか」
「指輪?そんな洒落たもんじゃなくていいんだよ、贈るもんはひとそれぞれだ。第一この村には宝石商なんていねぇしな」
店主の動きは、もはや異常なスピードに達していて、身体全体がブレて見えるほどになっていた。尋常でない速さである。
とても常人とは思えない動きに呆然としていると、一人の男性が店に入ってきた。
「いやぁ、参ったねぇ…どうも」
「おう、とっつぁんどうした?」
店主にとっつぁんと呼ばれた男性は、つるりと頭の禿げた初老に近い中年の男性であった。その頭は見事に磨き上げられていて、鏡のように光っている。
「シモーヌとハンネスの事さ。あの二人、どうにかならんかと思ってな」
「今ちょうどその話をしてた所さ、なんかあったのかい?」
「うーん、真昼間から外でああ喧嘩して歩かれちゃあな。あ、お客さんかい?…村の入口に停めてある車のか。こんなに若い娘さんと…親父さんだったとは」
「テンジ様は父親ではございません、私の婚約者です!」
どうやら傍目には、二人は親子に見えたらしい。天児は三十八歳、マリアロイゼは二十歳なので、年齢的にはそう見えてもおかしくはない。
天児は仕方ないと気にしていないが、マリアロイゼは少しムッとして訂正している。
とっつぁんと呼ばれた男性は、少し驚いた顔をして、二人の顔を交互に見比べた。
「そいつは悪かった…が、婚約者?歳の差だねぇ…ああ、そうだ。もしよかったらあの二人の相談に乗ってくれないか。婚約者ってことは、あんたらはこれから結婚なんだろう?娘さんの方は歳も近そうだし、参考になるかもしれない。頼むよ」
そう言って、とっつぁんは、禿げ頭を綺麗に下げてみせた。よく磨かれた頭が光を反射して、少し眩しい。
マリアロイゼと天児は、どうしたものかと顔を見合わせるのであった。
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