おじさん禁断症状
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
天児は、やつれきっていた。
一睡もできなかったわけではないので、肉体的にはそうでもないが、精神的な疲れが酷い。
彼は元々淡白で、そっちの方向にはあまり欲が強くなかったはずなのに、こうまで疲弊したのは昨晩のアレが別格だったからだろう。
天児は以前にも考えていたが、マリアロイゼは非常に魅力的な女性だ。その見目は麗しく、天児に対してすこぶる献身的で、スタイルも申し分ない。
性格はやや重い所はあるが、何より一途さの証であり、高貴な生まれをひけらかすような真似もしない。
一般的な男性ならば、土下座をしてでも彼女と関係を持ちたいと言い出しても過言はない、そんな女性である。
欠点が無さすぎて面白味がないとか、一緒にいると劣等感を抱くような可能性はあるが、それは彼女の魅力故と言える。
彼女に言い寄られているだけでも普通ならば天にも昇る気持ちになる所を、同じベッドで、しかも薄着の彼女に抱き着かれていたのだ。
また恐ろしい事に、マリアロイゼは寝言に出るタイプであった。
天児が少しでも抜け出そうと動こうものなら、擦れた感触で艶めかしい声を出す…それも耳元でだ。
極上のシルクのように滑らかでハリのある温かい肌と、若くしなやかで柔らかい身体の膨らみ(どことは言わない)を感じて、意識しない人間はいないはずだ。そんなマリアロイゼに手を出さないよう我慢したのだから、精神的に疲弊するのも無理はないだろう。
合意の上なのだから、さっさと手を出してしまえばいいと思う人もいるだろうが、天児には元の世界に帰るという明確な目標がある。つまり、彼女に対して一切の責任が取れないのだ。亡き妻や娘の事を思うと無責任な行動をとることは出来ず、どうしても、彼女の望みに応える気にはなれなかった。
だが、そんな思いとはお構いなしに身体は反応するものだ。
天児の中の男性の部分が、マリアロイゼに魅力を感じ、それに反応してしまうのは自分の意思ではどうしようもないことでもあった。
そしてそれに耐えるのは、かなり強靭な精神を要する。
そんな誘惑に耐えきった天児の精神は、称賛されて然るべきことであろう。
「はぁ…ダメだな、僕は。本当に」
外で歯を磨き、顔を洗って、ようやく少し気分が落ち着いた。
マリアロイゼの魅惑に負けず、耐えようとしているのは天児なりのけじめである。
自分で決めた事なのだから、例えどんなに追い詰められようとも、少しは余裕も見せなければいい大人の態度とは言えないだろう。
せめて目覚めた彼女に、軽口の一つも利ければよかったのだが、天児はそういう性格をしていなかった。それどころか、今夜も同じことになったらどうしようと胃が痛むくらいだ。
「こういう所が、甲斐性なし…なんだよな。出雲」
ふと亡き妻の名を口にして、苦笑する。思えば付き合いたての頃は、妻にも散々怒られたものだ。
『もう!私は貴方が一番好きなの、嘘じゃないわ。…貴方はどうなの?私の事が好きじゃない?ハッキリして、私の事が好きだってもっと自信を持ってよ』
あの頃の天児は、妻が初めて付き合う女性だったこともあり、今よりずっと自分に自信が持てない人間であった。
照れ臭さから、本当に好きだと口に出して言えたのはごく僅かで、いつか気軽に言えるようになる。そう思っていた…妻と一緒に生きていけば、きっと。だが、現実には妻は若くして帰らぬ人となり、彼女に伝えるべきだった言葉は、宙ぶらりんになったままである。
いつか、もう一度それを言うべき相手が出来たら、その時は躊躇わず伝えたい。そう思いながら、天児は空を見上げていた。
「テ・ン・ジ・さ・ま!」
「どうわぁっ!?」
突然背後から声をかけられて、天児は驚いて飛びあがり、汲んであった水の入ったバケツに頭から突っ込んでしまった。
ずぶ濡れになった天児を見て、マリアロイゼは慌ててタオルで天児の身体を拭いて行く。
「も、申し訳ございませんっ!私そんなつもりじゃ」
「ああ、だ、大丈夫ですよ!まだ着替えありますし…!あ!すぐ食事の支度しますね」
「いえ、それなんですが、この近くに小さな村があるのです。そこへ物資の補給に立ち寄るついでに、お食事してはいかがでしょうかと…まだお身体の具合がよくなさそうですし」
そう言いながら、マリアロイゼは上目遣いに天児の身体をちらちらと見ている。
慌てて脱いでしまったが、今の天児は上半身が裸なのだ。幸い、昨日アクシスから世界樹の雫を送ってもらってそれを飲んだので、鳩尾の痣は消えているが、やはり半裸の天児はマリアロイゼには刺激が強いらしい。その証拠に、段々と頭から煙が出始めている。これはまるで、マリアロイゼがバーモント村で天児に抱き着いたまま発熱していた時のようだ。
こんな所で彼女が理性を失ったらマズいことになる。どこであってもマズいが、外は輪をかけてマズいだろう。
天児はあっという間に着替えを終えて、マリアロイゼのいう近隣の村へ向かう事にした。
その村は本当にすぐ近くにあり、よく見ると竜車を止めていた場所とは薄い雑木林を挟んで反対側にあった。
昨夜、客車の外から聞こえてきた声は、ここから聞こえてきたものだったのかもしれない。
「あ、あの…ロゼさん?」
「はぁはぁ…な、なんですの?」
「その、近いと言うか…なんというか」
マリアロイゼは天児にピタリと張り付き、まるで匂いを嗅ぐように息を荒くしていた。
もはや貞操の危機すら感じる状態だが、マリアロイゼは気にも留めていない。かなり危険な兆候である。
その内食われるんじゃないだろうかと思いつつ、二度とマリアロイゼの前では服を脱がないようにしようと、天児は心に決めるのであった。
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