旅の再開
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「それでは、私達はこれで。フィナ、アビー、二人共お元気で」
アビーの屋敷前でグラウンド・ドレイクの竜車に乗り込み、マリアロイゼは別れの挨拶を済ませた。
竜車とは、馬車のように複数のグラウンド・ドレイクが客車を引っ張って移動する乗り物である。
マリアロイゼが手配した客車はかなり広く、縦に長い四人掛けのソファが二つあり、その下に収納がある。ソファは広げるとベッドになるので長期間の移動にも耐える造りだ。現代日本でいうキャンピングカーのようなものだろう。
そもそも、グラウンド・ドレイクは馬と同じような扱いをされる生き物だ。
別名は地竜と呼ばれているが、その見た目は恐竜に近い。天児は子供の頃、恐竜好きな少年だったので、それだけでもかなりテンションが上がる。
客車に乗る前に体を触ってみると、冷たいような温かいような、不思議な感覚がした。また皮膚の触感は蛇に近い、やはり爬虫類のような生き物なのだろう。
ちなみにこの世界にも馬は存在するが、グラウンド・ドレイクと馬では能力が違いすぎるので、ほとんどの場合はこちらが使われている。
馬と同様に、一人一頭、それぞれ背中に乗って移動する事も出来るが乗りこなすにはちょっとしたコツが必要だ。その為、大半の場合は今回のように竜車として借りるのが一般的である。
「またなロゼ、おっさん。ああ、うちの領内で何か問題があったら、アタシの名前を出していいぜ。結構無茶が利くはずだ。それと…この先もし他の領に行くなら、ロゼ、アイツに気をつけろよ…?」
頼もしい言葉の最後に、不穏な一言が付け加えられ、アビーは神妙な面持ちで囁いた。
目的地であるオケアノスと呼ばれる海は、ウィリアム領の西端に位置する場所である。現状では他の領へいく予定はないが、旅の最終的な目的地はそこではないので、移動することもあるだろう。アビーはそれを心配しているようだった。
天児にはその言葉の意味が解らなかったが、マリアロイゼにはその真意が解るらしく、小さく溜め息を吐いていた。
「解っていますわ。出来れば、あの子には遭いたくありませんわね」
あの子、というからにはそれなりに親しい間柄のようだが、なぜ気をつけろと言うのだろう?天児は少し気になったものの、口を挟む気にはならずマリアロイゼが話してくれる時を待つことにした。
「またね、ロゼ。全部終わったらまた会おうね!おじさんも元気でね!」
ニコニコと笑いながら、フィナも二人に手を振っている。治療の為にずっと付いていてくれただけあって、フィナはすっかり天児に慣れていた。マリアロイゼは若干それが面白くなかったようだが、回復魔法による治療が出来るのは彼女だけだったので、仕方がなかったようだ。
「ええ、またですわ。それでは」
「お二人共ありがとうございました、お元気で」
最後に、天児と共にもう一度挨拶をした後、マリアロイゼはグラウンド・ドレイクに指示を出して、竜車は走り出した。
三頭のグラウンド・ドレイク達は勢いよく加速をし、こちらに向かって手を振るフィナとアビーの姿は、どんどんと遠くなり見えなくなっていった。
「良い人達でしたね、さすがロゼさんのお友達です」
「手のかかる子達で困りますわ。特にアビーはテンジ様に怪我までさせて…」
天児の言葉を受けて、マリアロイゼが少し怒ったように反応した。
天児が怪我をしたのは、前日の夜にディミーゴの手下をマリアロイゼが成敗したのが原因であり、さらにそれは天児が泥棒行為を止めた事に起因しているのでアビーが直接悪いわけではないのだが、アビーが天児に勝負を仕掛けていなければ済んだ話でもある。
結局、巡り合わせが悪かったのだ。
天児は苦笑しながら、頬を膨らませて怒るマリアロイゼの顔を眺めていた。治療の間にフィナから聞いたのだが、マリアロイゼは数年前の時代にはかなり冷酷で恐れられた存在だったらしい。幼い頃は快活な少女であったのが、厳しい王妃教育や貴族教育を受け、さらに学園に入学してからは王子の後始末を任され、いつしか心を凍らせたように硬い性格になってしまったという。
天児がマリアロイゼと初めて出会った牢の中では、そんな雰囲気は感じられなかったが、よく考えてみれば騎士と話していた時や、処刑の為に牢から出された時の表情には暗く沈んだものがあった。あれは処刑を前にしての憂いではなく、取り巻く環境によって閉じた心を表していたのかもしれない。
だが、今の彼女からはそんな姿など想像もつかない。フィナに礼を言われた時は謙遜していた天児だが、本当にマリアロイゼの力になれているのなら、悪くないなと天児は少し気分が軽くなった。
片方のソファに、マリアロイゼと天児は並んで座っている。向かい側のソファの肘掛にはフレスヴェルグが止まっていた。
ちなみに、竜車に馭者はいない。グラウンド・ドレイクは知能が高く、目的地を伝えれば、自分で考えて走ってくれるのだ。仮に不測の事態が起きると、鳴き声で教えてくれる。生物なので、時折休憩は入るが、それでも移動の時間は驚くほど短縮できるだろう。便利な乗り物である。
それにしても、窓から外を見る限り、かなり早いスピードで走っているはずなのに、まったく揺れを感じないのはこれが高級客車だかららしい。
マリアロイゼは相当な金額を支払ったようだが、詳しく聞くのは恐かったので、天児は触れないようにしている。
このスピードなら、三日もあればオケアノスに到着するという。途中で休憩も兼ねて街に立ち寄り、補給することも計画に入っている。
まだ完全に傷の癒えていない天児にはありがたい。後はオケアノスに着いてからの問題になるだろう。
―ああ、やっと声が届きましたね。二人共、無事でなによりです。
突然、タブレット(木板)からアクシスの声が聞こえてきた。バーツに入ってからは、全く声が届いていなかったが、何があったのだろうか。
天児とマリアロイゼは久しぶりにアクシスとの連絡が復活して、安心したように声をあげた。
「アクシスさん、よかった。何かあったのかと思って心配していたんですよ」
―どうも人間の多い場所では、私達の声が届けにくくなるようです。
バーソロミューという街は、私の本体から近かったので問題なかったのですが、慣れないものはむずかしいですね。
アクシスの説明を聞く限り、どうやら携帯の電波が悪かったようなものらしい。
かなり非常識な技術とはいえ、やはり限界はあるようだ。
そんなところまで再現しなくてもいいのになぁと、天児は思わず笑ってしまうのだった。
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