都合のいい結末
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
二人の殺気が混ざり合った強烈な気配が、庭から屋敷全体までを包んでいる。
既に身動きの取れないチンピラ達は、その気配にあてられて次々に意識を失い、バタバタと倒れ伏している。
それなりに鍛えられている屋敷の召使たちでさえ、あまりのプレッシャーに耐えきれず、座り込んだり壁にもたれ掛かったりしているようだ。
かろうじて、フィナは身動きが取れるものの、とても彼女達に割って入れる雰囲気ではなかった。彼女もそれなりに訓練を受け、学園の戦闘実技などでは高い成績を残しているが、マリアロイゼやアビーほどの腕前はない。ましてや、二人が得意とする肉弾戦のような格闘術は不得意な方である。
身体を動かす事自体は好きだし、今朝方マリアロイゼに会った時のように投げられても、受け身を取る位は出来るのだが、あれは遊びだから出来るのであって、本気のマリアロイゼが相手ならば、あんなことは出来るわけがなかった。
彼女が得意なのは魔法関係だが、マリアロイゼもアビーも、半端な魔法で止められる素人ではない。
しかも、今の二人は今までに見た事がない程に怒り、本気でやり合おうとしている。大怪我をさせるほどの覚悟でもなければ、止めるのは無理だろう。
そして、フィナはそれが出来るような精神の持ち主ではないのだ。
どうすればいいのかと悩む間に、マリアロイゼ達の間にはどんどんと、その圧が高まっていくのが感じられた。
一方、二人の圧にあてられて、身動きが取れなくなっているものがもう一人いた…ディミーゴである。
彼はその実力故か、他の手下達のように恐怖で気絶することも出来ず、かといって逃げ出せるほど体の自由も効かない…まさに生き地獄だ。
しかも、せめて黙ってみていればいいものを、彼は集団を統率するリーダーとしての見栄があるのか、マリアロイゼとアビーの睨み合いに口を挟んでしまった。
「お、おおお…お前ら、俺を差し置いてな、何をするツモリだ?アビー、テメェ俺をシカトするのか?」
口調とは正反対に、絞り出すような弱さで、ディミーゴが声をあげる。
その途端、マリアロイゼとアビーは、その殺気を一点に集中させて、ディミーゴを睨みつけた。
「うるせぇ!黙ってろ!」
「テンジ様に傷をつけた貴方だけは、何があっても許しませんので、死ぬまでそこで静かにしていて下さる?…ああ、やっぱり先に殺してしまおうかしら」
「ひ、ヒィィ…ッ!!」
二人からその一睨みを受けると、哀れなディミーゴは失禁して失神してしまった。それを見た二人は、邪魔が入ったとばかりに舌打ちをして、再度お互いに睨み合う形に戻っている。
そんな一触即発という空気の中、先に動いたのはアビーであった。
マリアロイゼの顔面を狙い、渾身の右ストレートを放つが、マリアロイゼはそれを見越していたかのように左腕でそれを外側へいなし、すかさず右手でアビーの襟を掴み、その腕力だけで彼女の身体を強引に自らの真後ろへ投げ落とした。
「ぐっ!?」
投げられて地面に叩きつけられたアビーの顔面へ、マリアロイゼの右足が打ち下ろされる。アビーはすぐさま身体を回転させてそれを躱したが、マリアロイゼの足は轟音をあげて地面に小さなクレーターを作っていた。あんなものをまともに受ければ、確実にあの世行きだ。
今更ながら、本気で自分を殺すつもりのマリアロイゼを見て、アビーはカッと熱くなり頭に血が上っていくのを感じた。
「ロゼ…マジなんだな?」
「…言ったはずですわ。私は何を相手にしても戦うと。それとも、貴女は私が冗談であんなことを言う人間だとでも?」
マリアロイゼの言葉は、アビーが自分を理解していると信頼しての言葉である。先程天児が言っていたように、マリアロイゼは間違いなくアビーを親友だと思っているのだ。そして、それでも譲れないものがあると、彼女は言っている。
「ああ、そうかよっ!!」
苦々しい思いを吐き出すように、アビーは更に気合を入れて、マリアロイゼに向かっていった。
アビーにはマリアロイゼを殺す気はなく、あくまで彼女を止めようとしているだけだが、元々の実力はマリアロイゼの方が一段上だ。その上で、マリアロイゼはアビーを殺す覚悟を持って戦っている。その差は大きく、わずか数分間の立ち合いによって、アビーはあっという間に追い詰められていた。
マリアロイゼがアビーに向かって拳を放つと、躱しきれないと判断したアビーは、咄嗟にそれを両手でガードしようとする。マリアロイゼはその両腕を掴み、翼を使って3m程の高さへ飛び上がった。
当然だが空中では、アビーは大地を踏みしめる事など出来ず、身体の自由も効かない。彼女はそのまま成す術もなく塀へ叩きつけられ、さらに地面へ投げ落とされた。
「ぐ、あぁっ!!」
全身の骨が軋み、アビーは呼吸すらままならないほどのダメージを受けている。倒れたままでは確実に殺されると解っている為に、彼女は必死に立ち上がろうとするが、すでに満身創痍の身体では、立ち上がった所で戦う力は残されていなかった。
(つ、強ぇ…)
それでも立ち上がりフラフラとその場に立つアビーは、地面に降りてゆっくりと近づくマリアロイゼを睨む事しかできなかった。
マリアロイゼは強かったが、ここまで差があるのは信じられないとアビーは驚愕していた。それもそのはず、マリアロイゼは天児同様、世界樹の雫とヘスペリデスの金のリンゴの恩恵を受けている。元々の実力差は、より圧倒的なまでに開いていたのだ。
「あああ…どうしよう、どうしたら…」
ここまでの戦いを見ていたフィナは、あまりの展開に声を詰まらせた。改めてマリアロイゼの力を目の当たりにして、もはやアビーが殺されるのは時間の問題だと彼女も痛感している。かといって、アビーがああも一方的にやられてしまう状況では、フィナが加勢した所で意味はない。
初めから彼女が魔法で援護していたとしても、結果は同じだろう。親友同士が殺し合うのを指を咥えて見ているしかない自分に腹が立つ中、どうすればいいのかもわからない。
絶望するフィナの肩に、フレスヴェルグが飛び乗った。
「えっ!?と、鳥さん、なに?」
フィナは、フレスヴェルグが世界樹の守護者であり、その遣いであることを知らない。
あえて話さなかったのではなく、その話をする前にアビーが天児にイチャモンを付け始め、話が中断されたからだが、それを知らない彼女にはフレスヴェルグがただ遊んでいるのだとしか思っていなかった。
そんなフィナの動揺など気にも留めず、フレスヴェルグは喉を鳴らし、彼女の両肩をしっかりと掴んで、マリアロイゼが飛び出していった窓に向かって、フィナを連れて勢いよく飛び出した。
「きゃあっ!?」
屋敷の二階から飛び出したフレスヴェルグは、フィナを天児の横に下ろし、嘴で天児を起こすように指示を出す。
少し離れた場所にいるマリアロイゼとアビーは、それに気付いていないようだ。
「こ、恐かった…と、鳥さん、このおじさんを起こせっていうの?」
フレスヴェルグが小さく頷くと、フィナはただの鳥がそんな事をするとは思わず、目を見開いて驚いてみせた。しかし、迷っている時間はない。
一刻も早くマリアロイゼを止めなければ、今度こそアビーは殺されてしまうだろう。天児を起こした所でどうなるかは解らないが、他に手がないフィナは回復の魔法を使いながら、天児の肩を揺さぶり、声をかけた。
「お、おじさん!起きて、アビーちゃんが…ううん、ロゼを、ロゼを止めて!」
フィナがそう叫んだ瞬間、空に暗雲が立ち込め、突如として落雷が起こった。雷は、アビーとマリアロイゼの間に落ち、二人はその衝撃と余波を受けて、その場から弾き飛ばされた。
「うわぁっ!!」
「くっ…!身体が…」
雷はアビーよりもマリアロイゼの近くに落ちた為に、アビーは倒れ込んだだけで済んだが、マリアロイゼはわずかに体に痺れが残って、その動きを停止させられていた。その間に、フレスヴェルグが元の巨大な姿に変わって二人の間に割って入り、マリアロイゼを静かに睨みつけている。
さすがのマリアロイゼも、フレスヴェルグが相手では迂闊な行動には出られず、新たな睨み合いは膠着状態となった。
「こんな、こんな偶然って…」
そしてフィナは、あまりにも都合よく起きた落雷に呆然としつつ、暗くどんよりとした空を見上げた。
確かに、遠くの空に黒い雨雲らしきものは見えていたが、これほど急激に発達するものだろうか?これが魔法による雷撃であったなら、マリアロイゼはそれを察知して避けるか、或いはアビーへの攻撃を速めていただろう。もしくは、フィナが新たな邪魔者として認知され、先に排除されていたかもしれない。
そうならなかったのは、これが偶然の産物…まごう事なき自然現象だったからだ。あの瞬間、フィナはマリアロイゼに止まって欲しいと願いはしたが、これを想定したわけではなかった。フィナの意志という事ではない、はずだ。
「このおじさん、が…?でも、意識はまだ戻ってないし…」
結果として最善の形にはなったが、腑に落ちない事が多すぎる。そもそも、あのフレスヴェルグが何者なのかも、フィナには解らない。
己の意志で身体のサイズを変える鳥など、彼女の知識にはないのだ。あまりにも常識外れな事が多すぎる。
それでもどうにか震える手で天児に呼びかけると、彼はようやく目を覚ました。
それに気付いたマリアロイゼが殺気も怒気も全て霧散させて、天児に飛びつき、事態はようやく終息をみるのであった。
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