怒りのディミーゴ
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「オラ!どうしたァ!かかってこいよ!」
アビーは実に楽しそうに、チンピラ達をちぎっては投げ、ちぎっては投げと暴れ回っている。
連中が武器を持っていてもお構いなしに突撃し、大暴れするその様は、とても貴族の令嬢には見えない。
なんなら、武家の貴族令嬢であるマリアロイゼよりも戦う事を好み、楽しんでいるようだ。
彼女のあまりの強さに、チンピラ達は遠巻きに眺めるようになっていて、積極的に向かっていくことを恐れているようだった。
「うわわわっ!なっ、なんでこんなことにっ…!?」
一方、天児は多数のチンピラ達に追いかけ回されていた。いくら眼や身体能力が上がっても、多人数と戦うスキルなど天児は持っていない。
必然的に逃げる選択肢しかないのだが、悲劇なのはアビーが余りの強さをみせているせいで、天児の方を狙う輩がどんどん増えていることだ。
ただ、それでも逃げ続けられるのは大したもので、段々と追いかけるチンピラ達の方が疲れを見せ始めていた。
「な、なんなんだアイツは!?なんであんなに動けるんだ」
「やっぱりアイツ、ただのおっさんじゃないんじゃ…?」
追いかけても捕まらない所か、逆にスタミナ切れで潰されていく仲間達をみて、チンピラ達は次第に弱気になっていく。
彼らの中には、昨日天児とフレスヴェルグに倒された者達も混じっており、その動揺は徐々に全体へと広がっていった。
「チッ!だらしねぇ奴らだ!」
そしてそれが一番面白くないのは、リーダーであるディミーゴである。
この世界の人間からすれば、天児は群を抜いて情けない部類に入る人間といえるだろう。
鍛え抜いた身体を持つ訳でもない痩せて貧相な体つきに加え、なよなよとした雰囲気。他者に対する厳しさを感じさせない優し気な目つきは、常に強く男らしくを要求されるこの世界では、即矯正されるか、淘汰され殺されてもおかしくないのだ。
そんな天児をこれだけの人数で追っているにも関わらず、追い詰めることすら出来ないというのは、特に力だけで生きる彼らにとっては何よりの屈辱であった。
とはいえ、ディミーゴの目から見ても天児の身のこなしや、逃げ続けるスタミナに脅威を感じるのも事実である。
もし、天児にまともに戦う意思があったなら、半端な部下では太刀打ちできないであろう事を、ディミーゴは感じ取っていた。
「だあああああ!?」
しかし、ああして逃げ回る様は、強敵のそれとはまるでかけ離れている事が、余計腹立たしい。
アビーと決着をつけようと様子を伺っていたものの、こうなってしまっては自分が天児を倒す他ないだろうと、ディミーゴは重い腰を上げた。
「ハァハァ、き、キツイ…って、うわっ!?」
さすがの天児も逃げ続けるその走りに疲れが見え始めた時、彼の足元を狙うようにいくつかの矢が地面に突き刺さった。
咄嗟に避けようとしたものの、勢い余って足がもつれ、前に数回転がるようにして転んでしまった。
慌てて立ち上がったが、転んだ際に軽く足を挫いてしまったのか、鈍い痛みがする…しばらくは走れそうにない。
そんな天児の目の前には、笑顔なのに目が全く笑っていないディミーゴが立ち塞がっていた。
「よう、おっさん。やっと立ち止まってくれたな、もう逃がさねぇぜ」
「さ、最悪…」
天児は小さく悪態をつきながら、ディミーゴの様子を伺う。
さすがにチンピラ達を率いているだけあって、纏っている雰囲気は他の連中とは全く違っている。
横目でアビーの様子を見ると、彼女は完全に取り囲まれてしまっているようだが、逆に雑魚を相手に遊んでいるようだった。
「ちょこまかと逃げ回りやがって…だが、それもここまでだ。この不死鳥のディミーゴ様からは逃げられねぇと思いな」
不死鳥とはまた大仰な異名である。ただ、その見た目の雰囲気や仕草からは、不死鳥という感じはしない。となれば、きっと彼は耐久力に優れているのだろうと予測し、天児は思わず息を呑んだ。
すると、気圧される天児の様子に満足したのか、彼の横に立つ一人の部下が勝ち誇るように叫ぶ。
「へへっ!ビビってやがる!うちのボスはなぁ、アビーの奴に何度やられても立ち上がってきた不屈の精神の持ち主よ!テメェなんぞの攻撃なんか通用しねぇぞ!」
「ふふん!」
それに気を良くしたのか、ディミーゴも鼻を鳴らして得意気になっている。
だが、それを聞いた天児はふとある事に気付いてしまって、笑ってしまいそうになった。
(それってつまり、何度もアビーさんにやられてるってこと、だよな?)
不死鳥と呼ばれる程に何度も復活するということは、逆に言えばそれだけ倒された回数が多いということでもある。
何人もの強敵と戦ってきた歴戦の戦士ならともかく、特定の相手の名前を出してそれを名乗ると言う事は、少し意味合いが変わってくるだろう。
一人の相手に何度もやられたと吹聴するのは、とても誇らしいことだとは思えない。
「ぷ…っ!くくっ…」
それがツボに入ってしまったようで、天児は笑いが堪えきれなかった。笑ってはダメだと思えば思うほど、面白くてしょうがない。
隠すように顔を逸らし、手で顔を押さえてなんとか我慢しようとするが、我慢しきれない。
「ぶはっ!!…ゲーッホゲホゲホ!」
しまいには噴き出してしまった為に、激しく咳き込んで誤魔化してみる。しかし、当然そんな事では誤魔化しきれず、突然笑いだした天児にディミーゴは少し狼狽えた様子を見せた。
「な、なにがおかしいんだ!?テメェ!」
「いや…だ、だって、そんな何度もやられてるのに、恰好つけて、てっ…ぷっ、アハハハ!」
ついうっかり、天児は思っていた事を口にしてしまった。ディミーゴも、天児の言いたい事に気付いたのか顔を真っ赤にしてわなわなと震えている。隣にいた部下は天児につられて笑ってしまい、次の瞬間にはディミーゴに殴り飛ばされていた。
「この野郎っ…殺すっ!!」
「はーっ…はーっ…し、しまったっ!」
ようやく笑いが引いてきた天児に向かって、ディミーゴは突撃して殴りつけた。
天児はなんとか手甲でガードしたが、その威力はかなりのもので、手甲越しだというのに腕が痺れている。
呼吸を整える間もなく、ディミーゴは怒りに任せた連打を繰り出してくるので、とても避ける余裕はない。
むしろ、それらを全て手甲で受けきっていること自体、とてつもない反応といえる。
その様子を見守るマリアロイゼは、唇を噛んでいた。
今でこそ信じられないほどの反応で攻撃を防いでいる天児だが、それもあまり長くは続かないだろう。
何よりも先程転ばされた時に、天児は足を痛めている。それは一目でわかっていた。これでもし一発でもまともに喰らえば、ただではすまないだろう。
すぐにでも駆け寄って助けたいが、そんな事をすればアビーが何を言いだすか解らない。
そもそも天児にはこんな勝負など何のかかわりもないことなのだ。マリアロイゼは自分がアビーを焚きつけてしまった事を後悔していた。
「ロゼ…」
そんな彼女を見て、フィナもまた胸を痛めている。三人とも長い付き合いだが、特にフィナとマリアロイゼは仲が良かった。フィナの小さい頃は泣き虫で、令嬢としての躾や勉強が辛く泣いてばかりいたのだ。それを優しく慰めてくれていたのが、マリアロイゼであった。
フィナはマリアロイゼの横に立って、そっと肩に手を置いた。
「フィナ…?」
「あのおじさんの事、助けたいんでしょ?私も、まだあのおじさんのどこが良いのかよく解んないけど…ロゼがこの人って決めた人なら良い人なんだって思うよ。作ってくれたご飯も、美味しかったしね。アビーちゃんもきっと解ってくれるから、気にしないで助けに行ってあげて」
フィナの優しい笑顔が背中を押してくれた。そうだ、理不尽にこの世界へ連れて来られても、決してこの世界を嫌わず腐らずに尽力してくれようとする彼を必ず守ろうと誓ったのは、他ならぬマリアロイゼ自身なのだ。例え、誰にどう思われようと、天児自身にすら嫌われようとも彼を守ろう。それが、マリアロイゼの最初の想いであった。
「ああっ!?」
そう思った瞬間、ディミーゴの拳が天児の腹に直撃し天児はその場に崩れ落ちた。
それを目の当たりにして、マリアロイゼは窓を破って、天児の元へ飛び出していった。
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