料理するおじさん
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「料理対決か…何を作ろうかな」
天児の意志を無視して急遽決められた勝負内容だが、ここでゴネても無駄な労力にしかならないと判断して、天児は前向きに考えることにした。
昨夜の食事はマリアロイゼにとって、少々物足りないものだったようだし、どうせなら彼女の好きそうなものを作ろうという腹積もりだ。
正直、天児にとっては、殴り合いでないなら勝負は何でもよかったというのが本音である。
もちろん、勝たなければならないので、勝ち目のある勝負でなければ困るのだが。
そう言えば、何故この世界では煮込み料理がメインなのだろうか?焼き物も全くないわけではないようだが、ほとんど見かけないのは不思議でならない。火を使って調理する以上、焼くと言う調理方法は全ての基本であるはずだ。
ここまで数日間、一緒に旅をしてきて思ったのは、マリアロイゼはその焼き物料理が好きだと言う事だった。
基本的には、スープでも美味しい美味しいと幸せそうに食べてくれているが、リトルボアや魚の串焼きなどは、食べるスピードが桁違いである。
彼女にとっては珍しいから好きなだけなのかもしれないが、より美味しいと言ってくれるものを作りたいものだ。
「そう言えば久々にアレを食べたいけど、こっちには醤油がないからなぁ…酢コショウがいいって人もいたっけ」
天児が思いついたのは、彼手作りの餃子である。
彼は地元がご当地餃子を推す地域だったこともあってか、餃子が大好きで、よく自作していた。
だが、妻を亡くし、娘が病院に入院してからは、自分だけの為に作る気分にはならず、最近は全く作っていない。
そんな彼もこの世界に来て、少し気分が変わったのだろう。作ろうと思う気分になっただけ、前を向けた証拠である。
とはいえ、醤油がないのでは味気ない。
どうせ作るなら満足のいく味に仕上げたいし、この世界では誰も食べた事がない料理だろうから、半端で済ませたくはないものだ。
それを思いついてから完全に餃子の口になってしまった事で、初めは勝負などどうでもよかった天児も、段々とやる気が上がってきた。
「勝負って、ここの台所を借りていいんですか?少し拝見しても?」
天児がそう聞くと、アビーは心底嫌そうな顔をして部屋を出て行ってしまった。
何かマズいことでも言ったのだろうかと思っていると、舌打ちをしながらアビーは戻ってきた。
「うちのシェフは構わねぇって言ってる…クソ、その代わり後で綺麗に掃除しろってよ。アイツ、掃除しきれなかったらそれを理由に道具を一新するツモリだ、ハメられた…」
どうやら中々強かなシェフを雇っているようである。
悔しがるアビーを横目に、マリアロイゼは勝ち誇った笑顔で彼女を見つめていた。
台所を見ながら、食材や調味料なども一通り確認させてもらう。
さすが公爵家の別邸だけあって、在庫はかなり豊富だ。特に調味料の類いは凄かった。現代日本のスーパーではみかけないようなハーブやスパイスが山ほどある。期待以上の品揃えに興奮していると、何やら見覚えのある黒い液体が目に留まった。
「これは…あの、すみません。少し味見してみてもいいでしょうか?」
さすがにセキュリティ的に、見ず知らずの人間を一人で台所にはいれられないと、付いてきてくれた男性シェフのボガードに確認を取った。
何も言わず、黙ってその液体を差し出してくれるボガードの目は、これが何か解るはずがないと挑戦的な様子である。
天児は礼を言って、それを小皿に少量だけ出してみた。
すると、にわかに独特の香りがして、天児の胸に懐かしさが去来する。
「あ、これ醤油じゃないですか!?凄いな、こっちにもあったのか…!」
「それはセーユという調味料だが…知っているのか?」
「ええ、僕の故郷にも似たような調味料があったんです。大豆という豆から作るんですよね」
「ダイズというものは知らないが、豆から作るのは確かだ…これを知っている奴がいるとは…」
ボガードは信じられないといった表情で、天児の顔を覗き込んでいる。どうやら、セーユはかなり特別な調味料で、一般には知られていないものらしい。なんでもボガードの故郷付近でしか生産されておらず、流通量も少ないのだとか。
独特の風味と味付けが出来る事から、ボガードはよく隠し味に使っているらしい。
「こいつを使ったからこそ、俺はここのメインシェフになれたんだ。今じゃこの家では当たり前の調味料だけどな」
ボガードは天児がセーユを知っていた事がよほど嬉しかったのか、驚きの後はフレンドリーに話をしてくれるようになった。
歳が近い事もあって、二人は意気投合し、この後の料理対決でセーユを使う事も許してもらえた。
ついでに少し分けてもらえれば、旅の間も楽しめるなぁと天児はホクホク顔である。
足りなかった食材を街の露店で買い足して、天児は早速、餃子作りに取り掛かった。
当然だが、この世界に餃子の皮など存在しないので、皮から手作りだ。
まずは薄力粉と強力粉を合わせ、そこに塩を適量入れてよく混ぜる。そこに熱湯を入れてよく練り硬さを整え、少し寝かせれば生地は完成だ。
その生地を寝かせている間に、餡を作っていく。
天児は日本で餃子を作る時は、必ずキャベツと白菜の両方を使う。
この世界では名前が違って、キャベシとイサクというらしいが、概ね同じ野菜と言ってよさそうだ。
ターギネのように調理方法で味が変わる心配があったので、少量で試してみたが、問題はなかった。
ちなみに餃子にかかせないニラは、やっぱりニラという名前のようだ。
どうも食材のネーミングに違和感があるので、女神を見つける事が出来たら問い質したいと天児は密かに考えている。
ということで、キャベシとイサクを下茹でしていく。こうすることで芯まで柔らかくなるので、食感を損なうことなく無駄なく食べられるというのが、九鬼家に伝わる調理法であった。
下茹でしたその二つをよく絞り、細かく刻んでニラと共に挽肉に混ぜ、そこにセーユや鳥の出汁を少量ずつ加え、よく練る。
少し水気が多くなってしまったのが不満だが、餡を寝かせて浮いてきた水気を切る事でなんとかなった。
こうして出来た餡を、先程作った生地を伸ばして形を整えた皮に包み、浅い鍋を使って焼けば、焼き餃子の完成である。
酢コショウやセーユを小皿に出して、好きな方をつけて食べて貰う。
「あっ!?なにこれ、サクっとしてモチっとして…スッゴイ美味しい!!!」
「ぬぐぅ…う、旨い…っ!!」
フィナとアビーは、一口食べるなり感嘆の声をあげた。
焼き料理に慣れていない二人がどういう反応をするか不安だったが、どうやら口にあったらしい。
一方、これまた初めて餃子を口にしたマリアロイゼは、キッと天児を睨んで叫んだ。
「ああ…美味しい…美味しいですけれども…テンジ様ッ!!」
「え?な、なんでしょう?」
「次からこういう美味しい物を作る時は、まず初めに私だけに作って下さいまし!いいですわね?」
「え…」
「い・い・で・す・わ・ね?」
「アッハイ…スイマセン」
どうやらマリアロイゼも余程気に入ったらしく、今まで天児に向けた事がない程の圧力で約束させられた。
後に天児はこの時の事を思い出してこう言った。
『下手な事を言ったら殺されると思った』と…
相当な量を作ったはずだったが、あれよあれよという間に餃子は減っていき、結局、天児が一つも食べることなく、この日異世界に初めて誕生した餃子達は彼女らの胃袋へと消えていった。
ちなみに、アビーは料理を作ろうとしたが、何をしたのか大爆発を起こし、台所そのものを炭に変えた。
どちらが勝ったのかは、言うまでもないだろう。
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