全方位巻き込まれ型
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「ああ?!婚約破棄に処刑だぁ!?…あんのクソバカ王子、ぶっ殺してやる!」
「ちょっと、アビーちゃん止めなよー!ねぇ、ロゼなんとかしてー?!」
血気盛んに怒りを露わにしているのは、アビー・ウィリアムという名前の女性だ。
その隣でアビーを食い止めているのが、フィナ・オルブライト。先程マリアロイゼが投げ飛ばした女性である。
二人共、マリアロイゼと同じ6大公爵家の公爵令嬢であり、マリアロイゼとは幼馴染の同級生なのだそうだ。
アビーはともかく、フィナの方はかなり身体が小さく、話し方も幼い印象を受けるので、彼女もマリアロイゼと同い年と聞いて天児は内心驚いた。
そんな四人は現在、アビーの公爵邸に招かれ、茶会を開いている。
天児は今まで知らなかったのだが、現在、天児達がいる街バーツを含めた領地一帯は、アビーの父、バーン・ウィリアム公爵が治める土地らしい。
今日はたまたま、アビーがフィナを連れて、このバーツにある公爵家別邸へ遊びに来ていた所だったそうだ。
それにしても友人達とお茶を飲む事を茶会と呼ぶ辺り、やはり彼女達は貴族なのだなぁと天児は妙に感心していた。
その割に、お嬢様であるアビーの口調はかなり荒っぽいが。
「だいたい、アタシは前からあのクソバカ王子が気に入らなかったんだよ!何だアイツ、普段から余計な事しかしない癖に偉そうに…!あー腹立つ!」
アビーが激怒しているのは、マリアロイゼがあのミッシェル王子に受けた処遇を説明したからであった。
三人は幼馴染ということもあって、昔から仲が良く、お互いを大事にしてきた親友なのだという。
そんなマリアロイゼが処刑寸前まで追い詰められたとあっては、アビーの怒りが収まらないのは当然だろう。
フィナの方が冷静なのも、アビーが横で怒りを見せているせいで、逆に落ち着かざるを得ないと言う所か。
第一印象は幼い少女のようだったが、意外とこの三人の中では貧乏くじを引くタイプというか、苦労性なのかもしれない。
「しかも、ロゼってものがありながら、あの成金のドロア嬢と浮気だと?!バカにすんのもいい加減にしやがれってんだ!」
アビーは怒りの余り、口調だけでなく行動も荒っぽくなっているようで、カップを持ってお茶を一息に飲み込んだ後、ガチャンと派手に音を立ててソーサーに戻した。フィナはその音に驚いて目を瞑り、身体を強張らせていた。
当のマリアロイゼは、優雅という言葉を体現しているかのように、目を伏せて静かにお茶を楽しんでいる。
実はフィナ同様、天児もこの空気にヒヤヒヤしているのだが、マリアロイゼは慣れっこなのか、全く気にしていないようだ。
「アビー、落ち着きなさい。…フィナとテンジ様が怖がっているじゃありませんの。フィナはともかく、テンジ様をこれ以上怯えさせたら、ただじゃおきませんわよ?」
「え!私は!?」
ともかく扱いをされて、フィナは目を丸くして驚いている。片や天児は、いたたまれなくなって小さくなるしかなかった。
「それだよ!アタシは認めないからな?なんでこんな見るからに弱そうで頼りなさそうで金もなさそうなザコみたいなおっさんが、お前の新しいフィアンセなんだよ、おかしいだろ!?」
そこまで言われるのもどうかと思う反面、実際の所、弱そうで頼りなさそうというのは間違いではないだろう。
今はジョゼフィーヌから貰った軍服で恰好がついているが、普段のスーツ姿だったら、輩に絡まれてもおかしくない風貌なのは、天児自身が自覚している。というか、実際に昔絡まれた事があった。脱兎のごとく逃げ出したので被害は無かったが。
そのアビーの言葉に、マリアロイゼが鋭く反応し、背に炎を纏わせて噛みついた。
「聞き捨てなりませんわね…!私のテンジ様が、弱そうで頼りなさそうで金もなさそうで臭そうなザコですって?!言っていい事と悪い事があるでしょう!」
「え…僕、臭そうなんですか?!」
天児は慌てて服や体の匂いを気にするが、体臭というのは自分ではなかなか解らないものだ。
今まで亡き妻にも言われた事は無かったが、もしかすると体臭がキツかったりするのだろうか?天児はすっかり不安そうな顔になってしまったが、おじさんはそういう悪口に敏感な生き物なのである。
なお、実際には天児はそこまで加齢臭がキツイタイプではない、悪しからず。
しかし、そんな天児の態度が、余計にアビーの神経を逆撫でしたらしい。
マリアロイゼの怒りを無視して、アビーは天児に矛先を向けた。
「おい、おっさん!テメェの事言われてんのに、なんだそのうじうじした態度は!?それでも男かよ!怒るぐらいするだろフツー!」
「ええええ…」
そう言われても、完全に蚊帳の外だったのだから、怒ろうにも怒れない。
もちろん、悪く言われて怒る男もいるだろうが、天児はどちらかというと、反省して改善しようとするタイプだ。
弱そうで頼りなさそうというのは間違いではないし、この世界ではお金など持っていない。
臭そうというのだけは否定したい所だが、見ず知らずの相手に捲し立てられた所で、概ね事実とあっては怒るほどの事ではなかった。
そもそも、アビーが怒っている気持ちもわかるのだ。
親友が婚約者に散々な目に遭わされた直後、舌の根も乾かぬ内に、欠点だらけに見える相手を新しい婚約者だと言ったら誰だって心配もするし、怒りたくもなるだろう。
今アビーが天児に対して怒っているという事は、それだけマリアロイゼを大切に思っているからこそなのである。
そう考えると、天児は自分がちょっと悪く言われた程度で怒るような気にはならないのだった。
「あー…まぁ、そんなに怒るようなことでもないかなと。臭いってのはちょっと否定したいですけど」
アハハと笑ってみせる天児の態度は、アビーには耐え難いものだったようだ。
或いは、ミッシェル王子に対する怒りを、天児にぶつけたかったのかもしれない。
「ああもう!イライラする!…おっさん!アタシと勝負しろ!アタシが勝ったら、ロゼとは別れてもらうからな!!」
そんなアビーによる決闘の申し出が、屋敷中に響き渡った。
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