新たな公爵令嬢
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
翌朝、天児は爽やかだが少し冷たい風を頬に受けて目を覚ました。
昨晩、きちんと窓は閉めたはずだったが、何故か開いており、そこから風が入ってきたようだ。
隣のベッドをみれば、マリアロイゼはまだ寝ていて、すやすやと寝息を立てている。
よく見ると、床の一部が不自然にピカピカだった。
つい今しがた、ここだけ掃除をしたように綺麗になっている。
なんだかおかしいなと思いつつ、天児は起きて着替えを済ませ、外の井戸へ顔を洗いに出かけた。
「なんだろう?騒がしいな」
井戸の水で顔を洗い、歯を磨いていると、宿の裏手の方で何かあったらしく、数人の男達が慌てて作業をしている様子が見えた。
「まだ息があるぞ!」という声が聞こえてきたので、酔っ払いか誰かが川に落ちたのかもしれない。
「まだ寒いのに、大変だなぁ…」
天児はそう呟きながら、酒で身を崩さないよう自分に言い聞かせた。
そもそもあまり酒を嗜む方ではなかったし、妻を亡くしてからは一滴も飲んではいないのだが。
気を付けるに越したことはないだろう。サラリーマンはいつ何時、会社から無理なアルハラを受けるか解らない。
天児が若い頃と違って、今はそんな風習もすっかり鳴りを潜めているが、会社によってはまだまだあるだろう。
異世界でもアルハラってあるのかな…と暢気な事を考えて、天児はその場を後にした。
その後、起きてきたマリアロイゼと共に朝食を済ませた後、二人とフレスヴェルグは、街の見物に出かける事になった。
昨日は結局、露店などを見て回る余裕がなかったが、今日は完全に何の予定もない。
一応、竜車を貸してくれるお店からは、都合がつき次第、魔法で連絡をくれることになっているというので、それまではこの街で待機するしかなさそうだ。天児はこの時とばかりに、娘に買って帰る土産物を探すことにした。
あまり大きなものは荷物になって嵩張るので困るが、小物ならば旅の間持ち歩いても問題ないだろう。
まだいつ帰れるのかは解らないが、これは元の世界へ戻る為の旅なのだし、モチベーションの維持にもなる。
そう考えて、二人でいくつかの露店を見て回っていた。そんな時である。
「おお~~~い!!」
「テンジ様、こちらなんていかがでしょうか?可愛らしいウィープルのアクセサリーですわ」
少し離れた所から、誰かを呼ぶ女性の声がする。
昨日の通りとは違って、この辺りは人通りがまばらで、声が良く通る場所だ。
「おお~~~~~い!!」
「あ、いいですね。美琴は動物が好きなので、それもいいかな」
それは段々と近づいてくるようで、天児はちらっと声のする方をみた。
声の主はやはり女性で、明らかにこちらを見て手を振りながら走ってきている。
「おお~~~~~い!ロゼェ~~~!!」
今、完全にマリアロイゼを呼んだ気がするが、肝心のマリアロイゼは一切そちらを見ようとしていない。
どうも意識してシカトしているようにも見えた。
「あの、ロゼさん。呼ばれてません?」
天児が恐る恐るそう聞くと、マリアロイゼは、ハァと大きく溜め息を吐いて渋々声のする方を向いた。
すると、女性もそれに気付いたようで、笑顔のまま一段と速度を上げて走り出すではないか。
「え、ちょ…!?凄い勢いで…わわっ!」
「ロッゼーーーーーーー!!!」
「せいっ!!」
猛烈な勢いで走り込み、飛び込んできた女性を、マリアロイゼは抱き留めると同時にその勢いを利用して回転し、そのまま路地の反対側へ投げ飛ばした。
投げ飛ばされた女性はまるで矢のようにすっ飛んでいったが、空中で見事に一回転して何事もなく着地してみせ、ケラケラと笑っている。
天児は慌てて伏せたので避けられたが、一歩間違えれば巻き込まれていただろう。
あまりの出来事に、天児が呆気に取られて呆然としていると、マリアロイゼは天児に手を差し伸べてくれた。
「テンジ様、驚かせてしまって申し訳ございません。お怪我はございませんか?」
「あ、え、ええ…大丈夫です、けど。今のは、一体…?」
「アハハハハ!ロゼったらさすがだね~~~!」
笑いながら近づいてくる女性はかなり小柄で、よく見ると頭の上に動物の耳のようなものが生えている。
その服装は少年のような出で立ちだが、一番目を引くのはブンブンと振り回している尻尾だった。
「おい!フィナ!テメェ勝手な事すんなって言っただろ!ぶん殴んぞ、コラ!」
それとは別に、荒々しい口調の女性がフィナと呼ばれた少女が走ってきた方向から歩いてきた。
こちらは少女とは対照的に大人びていて、マリアロイゼに負けず劣らずの体格とグラマラスなボディをした女性だ。
マリアロイゼは額に手を当てて溜息を吐くと、近づいてくる女性二人に殺気の籠った視線を投げ掛けている。
「あなた達は相変わらずですわね、いい加減になさい。ここは学園じゃありませんのよ?もし私の大事な大事なフィアンセを巻き込んで、かすり傷でもつけたらどうするおつもりでしたの?」
「おうワリ―ワリ―!フィナが言う事聞かなくてよ…って、フィアンセ?誰だよ、そのオッサンは。あのバカ王子はどこ行きやがったんだ?」
大人びた女性は、天児に向かって指を差し、怪訝な表情を向けている。
少女の方は状況がよく解っていないようで、マリアロイゼと天児を見比べては不思議そうな顔をしている。
「ハァ…まったく、あなた達ときたら…いいですか?この方は私の運命の人。新しい婚約者のクカミテンジ様です。…王子とは婚約破棄されたので、もう赤の他人ですわ」
「へ?」
今度は二人の女性が呆然とし、マリアロイゼを除いた全員が、混乱している。
そんな中、マリアロイゼだけが言ってやったとばかりに誇らしげに鼻を高くするのであった。
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