新たな才能?
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
バーツという街は、そこそこの大きさを持った活気のある街であった。
行き交う人々は、見慣れない服装をしている者も多く、バーソロミューやバーモント村とは明らかに雰囲気が違う。
天児がいかにもお上りさんという雰囲気で辺りを見回していると、隣に立っているマリアロイゼは、その様子を見てクスクスと笑っていた。
「テンジ様ったら、そんなにバーツが珍しかったのですか?ここは交易で栄えている街ですから、確かに色んな人達がいますけれど…あんまりキョロキョロしていると危ないですわ」
最後に小さく「可愛すぎて食べられちゃいます」と囁いたのは聞こえなかった事にする。
どういう意味ですか?なんて聞こうものなら、彼女自慢のパワーで物陰に引きずり込まれてもおかしくはない。
それでなくても、昨夜も寝袋で同衾を迫られたばかりだ。
フレスヴェルグに頼んでおいたお陰で昏倒させられたが、薄々彼女は何が起きたのかに気付いている。
あまり乱用すると、冗談抜きでフレスヴェルグを丸焼きにすると言いかねない。
事実、今朝マリアロイゼが目を覚ました時には、フレスヴェルグと睨み合って、一触即発の空気を醸し出していた。
天児としては、出来れば皆で仲良く旅をしたい所なので、それだけは避けたい結末である。
「あはは、娘に同じことを言ってた癖に、僕がこれじゃどうしようもないですね。気を付けます」
頭を掻きながら、マリアロイゼに頭を下げて、二人で人の波から少し外れる。
そのままマリアロイゼは一旦天児をそこに置いて、竜車を手配すべく離れていった。
そうして小さな露店の脇に立っていると、実に色々な人達が生活しているのが見えた。
(交易の街、か。シルクロードとかって、こんな感じだったのかな?)
ぼんやりと街を眺めていると、元の世界でも行った事のない異国の光景が脳裏に浮かぶ。
天児は海外旅行などした事もないし、しようとも思わない人間だったのに、今は海外どころか異世界にいるのだから人生は解らないものだ。普通、そんな経験をする人間などいないのだから、得難い体験と言えよう。
それにしても、と天児はあちこちの店が気になって仕方がなかった。元営業職の血が滾る。
ここで仕入れて現代日本で売ったらどうなるだろう?そもそも税金が問題かなと考えていた矢先、少し人の波が減ってきたような気がした。
するとその時、どこからか絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえてくる。
「泥棒!誰かー!泥棒よー!!」
咄嗟に声のする方を見ると、ガラの悪そうな男が、人を避けながらこちらへ走ってくるのが見えた。
その少し後ろを女性が追いかけているようだ。
「あの女の人、さっきすれ違ったな」
天児はそれに気づき、咄嗟にメートル・ゼロを使って、こちらへ近づいてくる男のバッグに狙いを定めた。
天児の右手がわずかに光ってぼやけた後、通り過ぎた男の手からバッグが消えていた。
そのまま、後を追ってきた女性を呼び止めて、バッグを返す。
「あのー、すみません、取り返しておきました。盗まれたのはこれで合ってますよね?」
「え…?あ、ありがとうございます!」
何度も頭を下げる女性を執り成して、男が戻ってくる前に逃げるよう伝えると、女性は慌てて人混みの中へ去って行った。
一安心しながら、元の露店の脇に戻ると、天児の口から大きな溜息が漏れる。
「今朝から、なんかおかしいと思ってたけど…やっぱりおかしいな」
そう呟く天児だが、今ので違和感の正体がはっきりと解った気がする。
眼だ。…眼が、異常に良くなっているのだ。
元々、天児は視力自体が悪いわけではないのだが、人間なので歳と共に少しずつその機能は衰えている。
もちろんまだまだ老眼というわけではなく、天児が弱ったと思っていたのは、特に動体視力であった。
普段であれば、これだけの人がごった返す街の中で、すれ違った人の持ち物などほとんど見えないし、覚えてもいられない。
だが、今日はどういうわけか、そんな人々の荷物や服装が、はっきりと認識できるのだ。
その為、先程街の様子を見回している時にすれ違った女性の事も覚えていたし、そのバッグもすぐに解った。
もしかすると、記憶力も良くなっているのかもしれない。
「しかし、思い当たることが…あ、もしかして」
いくら異世界でも、急に眼が良くなって、記憶力が上がる病気などというものはないだろう。
それを病気と言っていいのかは解らないが、それは違う気がする。
であれば、他に原因として思いつくのは、ヘスペリデスの木から貰った金のリンゴである。
そもそも世界樹の雫を飲んだだけでも、傷を癒し、身体的な能力が底上げされたのだ。
あのリンゴにも、何かの効果があってもおかしくはない。
「力がつくって、そういう…」
確かに、あの時ヘスペリデスの木はそう語っていたが、そんな恩恵があるとは露とも知らず、リンゴは普通にデザートとして食べてしまった。
決して悪い事ではないので、寧ろ感謝すべきなのだが、迂闊に彼女らがくれるものを口にすると、どんどん人間離れしていく気がして、少し天児は恐ろしさを覚えていた。
そんな天児の元へ、数人の男達が近づき、その内の一人が天児を指差して叫んだ。
「おい、見つけたぞ!コイツだ!」
「え?」
その男はさっきの泥棒で、どうやら仲間を引き連れて戻ってきたらしい。
大きな荷物を持った天児はかなり目立つのだろう。
男の仲間が、天児が女性にバッグを返すのを見ていたようで、邪魔をされた事に腹を立てているらしかった。
「このヤロウ、良くも邪魔してくれやがったな?!」
「ええええ…」
見るからに人相の悪い(天児より数段イケメンだが)男達は、殺気立っていて、今にも天児を殺しかねない勢いである。
当の天児は、ここまでの旅で鍛えられたのか、囲まれた事の恐ろしさよりも、肩にとまっているフレスヴェルグの殺気とマリアロイゼがこの状況を知ったらどうなるかの方を恐れているのだった。
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