お嬢様とおじさんの日常
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「さ、出来ましたよ、ロゼさん。温かい内に食べましょう」
焚き火の上でコトコトと煮込まれたスープが、食欲をそそる香りと共に湯気を立てている。
天児達は現在、バーモント村から北に行った先にある小さな街『バーツ』に向かって移動中だ。
距離はそこそこあるが、平地なので、バーモント村に行くときほど大変ではない。
陽が落ちた今、二人とフレスヴェルグは、川縁にテントを張って、ここで眠る予定である。
村を出発する際、村長のヘイラクから多くの野菜や保存食料などの物資をもらったこともあり、今夜の食事は野営にしては豪華に、具がたくさん入っている。
見た目にも美味しそうだが、栄養価も高そうで、マリアロイゼは目を輝かせていた。
マリアロイゼは令嬢だけあって料理をした事がなく、またあまり得意ではない事から、失敗して食材をダメにするのは勿体ないと、料理は専ら天児の役割になっていた。
元々天児は結婚するまでは独り暮らしで自炊をしていたし、調理に苦はない。
身体が細いので心配されがちだが、食事量も少なくはないし、食べる事自体は好きなのだ。
普段からあまり凝った料理はしないが、結婚してからも料理動画などを見て、美味しそうなものを見つけては、妻や娘に振る舞っていた。
そもそも共働きだったし、妻も天児の料理が好きだったからか、どちらかと言えば、天児が家事をする機会の方が多かったようだ。収入は亡き妻の方が圧倒的に多かったことも、それに拍車をかけていた理由かもしれない。
ただ、最近は加齢のせいか胃もたれが多く、食べる量や好みが変わっているのが天児の悩みの種であった。
それにしても異世界だけあって、食材は変わったものも多いのだが、中にはよく見知ったものもある。
ターギネという野菜は玉ねぎそのものだし、ポモロはトマトだった。
見た目は人参なのに、味は生姜のようにスパイシーなニンジャーという野菜だけは、間違えやすいので困りものである。
「ん~~~~~~ッ!美味しい、美味しいですわ~~~~!!」
マリアロイゼは一口食べる毎に顔を綻ばせて、満面の笑みで食べてくれる。
作る側としてはこんなに嬉しい事はないなと、天児もつい笑顔になっていた。
「お口に合って良かったです。…うん、我ながら上出来かな」
煮込んだターギネは現代日本で食べる玉ねぎよりも、甘みが強く、柔らかい気がする。
逆に、焼いて食べてみると少し辛味が出て、また全然違う味わいな所も面白い食材だ。
何日か暮してみて解った事だが、どうやらこの世界は煮込み料理が一般的らしい。
素焼きや揚げ物といった料理は、文化的にほとんどお目にかかれない。
バーモント村に着く前に、マリアロイゼが魚の塩焼きを初めて食べたというのも納得である。
品種改良もそこに重点を置かれているのだろう、焼いたターギネが辛くなるのもそういう理由かなと天児は思った。
それにしてもパンや米など、元の世界と変わらないものがあるのは少々驚きだった。
アクシス曰く、女神はこの世界を創る際、他の世界を参考にして創ったらしいが、同じように人間が生活して歴史を作っているのだから、同じようなものがあっても不思議ではないのかもしれない。
「ほら、フレスヴェルグはこっちが焼けたよ」
串に刺して焼いたリトルボアの肉を差し出すと、やはり器用に足で持って、丁寧に食べ始める。
小さく「クルル…」と喉を鳴らしているのは、美味しいと言っているのだろうか、天児は子供の頃に飼っていた文鳥を思い出し、その様子がなんだか可愛く見えていた。
ちなみに、天児達が寝込んでいた間、フレスヴェルグはずっとラアドンに付き纏われながら、ヘスペリデスの木に止まっていたらしい。止まり木として具合が良かったのかは解らないが、せっせと果物を運んでくるラアドンを睨みつつ、フレスヴェルグはそこを動かなかったようだ。
フレスヴェルグは大鷲なのだが、結構表情が豊かであり、不機嫌な時はあからさまに顔つきが変わる。
ラアドンに絡まれていた時は明らかにそんな顔をしていたが、ラアドンは気付いていないのか、とにかく甲斐甲斐しく傍にいたと聞いている。
どうやら、ラアドンはフレスヴェルグに負けて、立場を思い知ったようであった。
天児の目には、興味のない男から一方的に貢がれている女のように見えたのだが、種族が違い過ぎるので、本質は違うだろう。
「明日にはバーツに着けるはずですわ。昼前にはつくかしら」
「そうですか。この辺りはモンスターもいないみたいですし、移動が楽なのは助かりますね」
スープを食べながらそんな会話を楽しんでいると、タブレット(木板)から何やらゴソゴソという音がする。
何だろう?と思って見ていると、やがて画面から、金色のリンゴが転がり落ちた。
こうやって世界樹の雫が届いたのかと天児は驚きつつも、一人納得していた。
―あ、あのぉ~、私のリンゴも食べてみてください~
とっても甘くて美味しいですしぃ、力がつきますから~
タブレットから聞こえる間延びした声は、ヘスペリデスの木である。
わざわざこれを送ってくれたのはありがたいが、送る前に一言欲しい所だ。
タブレットは天児がボディバックに入れて体に提げているので、少し危ない。
今のも危うく、鍋に落ちて新しいスープの具になる所だった。
「ありがとうございます、後でデザートに頂きましょう」
―そう言えば、私の出した世界樹の実は食べていませんでしたね?
次はそれを食べて下さい、味でも負けないはずです。
続けてアクシスが声を上げる。どうやらこの植物の精達は張り合っているらしい。
負けず嫌いなんだなぁと思いつつ、楽しい食事を楽しむ二人であった。
翌日、マリアロイゼの言葉通り、昼前にはバーツに到着した。
ちなみに昨夜もマリアロイゼによって寝袋に引きずり込まれたのだが、天児は予めフレスヴェルグに頼んでおいたので、直後に二人して昏倒させられ、事なきを得ている。
この方法は健康にはあまりよろしくなさそうなので、早い所どうにかしたいと天児は思っているが、解決手段が見つからないのであった。
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