いざ、西海へ
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
リヴァイアサン…現代日本で生活してきた天児も、その名前には聞き覚えがあった。
子どもの頃はそれなりにゲームや漫画が好きだったので、よく聞いたことのある怪物の名前だ。
作品によっては竜だったり、物凄く大きな魚のような姿だったりしていた気がする。
とても今更だが、ファンタジーな世界にきたんだなと天児は内心テンションが上がっていた。
そう言えば、ドラゴンと言えば、マリアロイゼは竜人という種族だったはずだ。
何かしらの関係があるのだろうかと思い、マリアロイゼの方を見ると、彼女とバッチリ目が合った。
せっかく目が合ったので天児がにっこり微笑むと、マリアロイゼは更ににんまりとした笑顔になって「ああ、もうテンジ様ったらそんな…!好きっ!!!」と叫んで抱き着いてきた。
「ちょっ!?ロゼさんストップ!ステイステイ!!」
傍から見れば、完全にバカップルの所業である。
幸い、二人共やる事さえ決まれば、あとは例え危険であっても覚悟を決めやすい性格をしている。
天児はブラック気味だった社会人経験から、マリアロイゼは家庭の教育方針から、それぞれが踏ん切りの付きやすいタイプであった。
とはいえ、天児は元々平和な現代日本生まれの一般人だ、命の危険というものに耐性があるわけではない。
事実、先日ヘスペリデスの木を浄化しようとした時は、単なる悪臭であっても、死を感じさせるほどの危機であった。
それでも、愛娘の元に帰る為にはやるしかないとなれば、父親として二の足を踏んではいられないのだろう。
特に自分の命を賭ける事に関しては、抵抗が薄いようだった。
「それで、その西の海っていう所にはどうやっていけばいいんです?」
結局、抱き着いたマリアロイゼはそのままにして、天児は話を進める事にした。何度も言うが、天児はマリアロイゼにパワーでは勝てないのだ、引き剥がすのは無理がある。
まるで甘えん坊の大型犬にくっつかれているようだが、さすがにマリアロイゼは顔を舐めるようなことはしないし、迂闊に笑いかけた自分が悪いのだと思う事にした。
ただし天児は気付いていないが、マリアロイゼが天児を見るその瞳は、大型犬どころか捕食者のそれである。
油断して気を抜けば、あっさりと美味しく頂かれるという事実にいつ気付くのか、それは女神であっても解らないだろう。
「オケアノスというと、西方領ですから、歩いて行くとなると一か月くらいはかかりますわね」
「い、一か月…!?そんなにかかるんですね…」
現代社会に慣れている天児にとって、移動時間というものは軽く見られがちだが、車も電車も飛行機もない異世界において旅は長期的な日程を組んで行うものである。
予想外の答えを聞いて驚く天児を見て、マリアロイゼは慌てて言い直した。
「ああ、テンジ様申し訳ございません。あくまでそれは徒歩での場合ですわ。移動手段はたくさんありますから、ご安心くださいまし。まぁ、私が飛んでいければ、あっという間なんですけれども」
天児は王都からアクシスに出会うまでの空の旅を思い出し、顔を赤くした。
あれはとても気分が良かったが、さすがにマリアロイゼとの密着が過ぎる。
まぁ、今の時点で十分密着しているのだが、空の上では天児の方も彼女にしがみ付くしかないので、より近くなるだろう。
今更ではあるが、それはよろしくないと天児は考えていた。
もっとも、装備の関係上、そもそも今のマリアロイゼは天児を抱えて飛ぶことはできないのだが。
そんな天児の照れ顔を見て、マリアロイゼは思わず生唾を飲み込んだ。
(ああ~…テンジ様の照れたお顔、たまりませんわ…!なんであんなに可愛い表情が出来るんでしょう?きっと私が抱えて飛んだ時の事を思い返していらっしゃるのね。ああ、何と言ったかしら?お母様の蔵書で読んだ、こういう時の表現は…)
「白飯三杯はイケますわね」
「…え?」
「うふふ、なんでもございませんわ」
思わず心の声が漏れてしまったマリアロイゼは、優雅に笑って誤魔化す。
当の天児は「…お腹が空いたのかな?」と暢気に考えているが、違う意味で食べられそうになっているのは自分である。
それを隠すように、マリアロイゼはいくつかの案を提示した。
「移動で一番早いのは、ワイバーンを使った飛龍船ですわ。ただ、これはサイズが大きいので大都市間でしか運航されておりません。ここからだと王都が一番近い出発点になるでしょうか…王家から逃げている今の私達には厳しいですわね。次に早い乗り物はグラウンド・ドレイクの竜車です。こちらはお金をかけないと少々揺れますけど、早い上に個人で所有出来る位コンパクトで小回りが利きますわ。村や都市間の移動ならばこちらが一番でしょう。あとはワイルド・ギーという生き物の車もあるんですが…臭いので私はあまりおススメいたしません」
「へぇ~、色んな乗り物があるんですね。ドラゴンが多いのかな?」
「早い乗り物となると、やはりドラゴン種が一番ですわね。やっぱり生物としてのスペックが違い過ぎますもの。普通の馬車などもありますが、あれはお金と時間をかけずにのんびり移動する人向けです」
なるほど、と天児は頷いた。さすがは異世界である。未知の乗り物や生き物の話は聞いているだけでもなかなか楽しいものだ。
ただ、さすがにもう臭いのはこりごりなので、ワイルド・ギーは選択肢から外しておく。
「となると、グラウンド・ドレイクがいいのかな…それはどこに行けばいいんでしょう?」
「それでしたら、確かここから北に少し行った所に小さな街がありますわ。山を越える必要もありませんし、まずはそちらへ向かいましょう」
マリアロイゼの提案に乗り、次の目的地は決定した。
天児はすぐに村長のヘイラクに事情を話し、食糧などの補給を手配して旅の準備に取り掛かるのだった。
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