異世界下着事情
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
楽し気な声と一緒に、遠くでリズミカルな笛や太鼓の音が聞こえる。
夢見心地にもう盆踊りの時期だったかなと思っていると、寝ぼけた頭が段々と覚醒し始めた。
「………はっ!?」
天児が慌てて飛び起きてみれば、そこは真っ暗な部屋の中だった。
遠くで笛の音や太鼓の音が鳴り響いているのは、夢ではなかったらしい。
床の上で一人ポツンと布団に寝かされていた天児は、そこでやっと自分の状態に気付く。
「な、なんで裸なんだ!?」
そう、天児はパンツ一丁の状態で寝かされていた。さすがに理由なくパンツ一丁では安心できない。
ヘスペリデスの木に向かってからの事はほとんど覚えていないが、まさか何か粗相でもしたのだろうか。
さすがにまだそんな歳ではないはずだが、以前、同い年の同僚が酔っぱらって盛大に漏らしたという話を聞いたことがある。
何やら嫌な予感がして、さあっと血の気が引いた。
ちなみに天児はボクサーパンツ派である。
今履いているのは、ジョゼフィーヌの屋敷で着替えを用意してもらった際、この世界の生地で作って貰った類似品だ。
この生地は通気性がよく、丈夫で肌触りも悪くないので気に入っている。
男性諸氏ならお解り頂けるだろうが、男も下着にはこだわりの派閥があるものだ。
それぞれブリーフ、トランクス、ボクサーパンツ、褌等…誰もがこれじゃなきゃ落ち着かないというものがある。
だが、当然、異世界であるこの世界に、ボクサーパンツなどというものはない。
その為、天児は恥を忍んで、ドラグ家の仕立て屋に頼んで似た物を作ってもらったのだった。
自分の状態を訝しみながら、布団から出て窓の外を眺めてみた。
どうやらここは村長の家の二階のようだ、大きなヘスペリデスの木の下で、大勢の人が集まって宴会のようなものを開いているのが見えた。
「まさか、あれで酔ってやらかしたのか…?」
あわあわと慌てふためいて、なんとか思い出そうとするが、一向に記憶は戻らない。
そんな事実はないので当たり前なのだが、覚えていない以上、何が真実かは自分では解らないものだ。
しゃがみ込んで頭を抱えていると、不意に部屋のドアが開き、伏し目がちに入ってきたマリアロイゼと目が合った。
「!…て、テンジ様!?お目覚めになったのですね!!」
「ろ、ロゼさん…?わっ!ちょっ?!ぐぇっ!!」
「良かった!良かったですわ~~~!」
わんわんと泣きながら、マリアロイゼが天児に抱き着く。
抱き着くというよりは、タックルに近い勢いだったので、しゃがんでいた天児はそのまま思い切り壁に激突した。
あまりの痛みに悶絶するも、それ以上に泣き喚くマリアロイゼの様子をみて、天児は何も言えなかった。
「え?あれから三日も経ったんですか!?」
ようやく泣き止んだマリアロイゼが、今度は裸の天児に興奮するという一悶着はあったものの、何とか事なきを得て話を聞いてみれば、天児は三日も眠り続けていたらしい。
―ええ、どうやら魔力と体力を使い果たしてしまったようです。
幸い、タブレット(木板)を通じて、世界樹の雫を送ることが出来たのでなんとかなりましたが…
まだマリアロイゼが話にならないので、アクシスが事情を説明してくれた。
相変わらずトンデモ技術を持ったタブレットだが、今回は冗談抜きで危険な状態だったようなので、一安心である。
物凄い悪臭に襲われ、凄く苦しかったのはうっすら覚えているが、まさかそんな危険な状態だったとは夢にも思っていなかった。
「それじゃ、僕がこんな格好なのは…?」
「テンジ様のお召し物は、ゲ…んん!お吐瀉物で汚れておりましたので、脱がさせて頂きましたわ。叔母様の用意して下さったお着替えもぴっちりしたものばかりでしたから、眠った状態で着せるのもどうかと…あ、下着までは汚れていませんでしたから、触れておりませんわ!…そろそろ替え時かなとは思っておりましたが」
天児にくっついたままの恰好でマリアロイゼが答える。耳元で囁かれるとなんともくすぐったい。
ほぼ裸であるということも手伝って怪しい気分になりそうだが、話の内容が内容だったので大丈夫だった。
しかし、マリアロイゼの甘え方がいつもより激しい気がする。
天児は覚えていないが、マリアロイゼは最後、寸での所で天児に助けられた事もあってさらに惚れ直した為なのだが、彼はそれを知る由もない。
それにしても、あのまま寝ていたら下着まで替えられていたのかと思うと、本当に目が覚めて良かったと天児は胸を撫で下ろした。
「そ、そうだったんですね…ありがとうございます」
思い返してみれば、なんとなくだが我慢できずに吐いたような気がする。
酔った上での粗相でなくて良かったが、マリアロイゼにゲロ塗れのおじさんの世話をさせてしまった事は心苦しかった。
とはいえ、無事にヘスペリデスの木を瘴気から解放出来たのは本当に良かった。
村の人々がどんちゃん騒ぎで宴会をしているのも当然だなと、天児はどことなく達成感のようなものを感じていた。
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