その頃のバカ王子
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「くそっ!なぜマリアロイゼが見つからない!?」
格好つけて買った円卓を思い切り叩いてぼやくこの男は、バーカスター王国の王子ミッシェル・バーカスター、年齢22歳である。
円卓とは、上座下座が無い為に、本来はその席につく者達が平等であるという事を示す為のものである。
にも関わらず、彼自身の我儘で部下が同席することを許さず、一度も他の人間と一緒に使った事がない。
同席する人間もいないのに大金を出して用意させた理由は「何か格好いいから」だった。
名は体を表すというが、彼ほどバカの文字が似合う人間はそうそういないだろう。
見た目は王子然として立派であるというのに、彼はすこぶる頭が悪かった。
優れた人は「他人がやりたくない事を率先してやる」ものだが
彼の場合は「人がやらなくてもいい・やらない方がいいと思う事を率先してやる」というタイプの人間であった。
万事において、悪手悪手を選んできた人生だが、それでもこの歳まで大きな失敗をせずに生きて来れたのは、彼の王子という立場に他人が配慮した事と、マリアロイゼが支えに回っていたからである。
例えば、こんなことがあった。
この世界には魔法や、スキルと言った特殊技能が当たり前に存在しており、皆大なり小なりそれらを活用して日々を生きている。
どんなスキルも一長一短、探せば活用方法が見つかるはず…しかし、彼は学生時代に持ち前の考えなさで、スキルに優劣をつけ始めた。
同級生に対し、アイツのスキルは使える、アイツは使えないと言い出し始めた挙句、その判断基準は時々で変わる実にいい加減なもの。結局、それをきっかけに学園内ではイジメが横行し、学生同士の対立が発生してしまった。
それを収めたのは、他ならぬマリアロイゼと公爵家の次期頭首となる学生達である。
他にも、王都でゴミ問題が発生した際に、ゴミを減らそうという話になった時には「ゴミを捨てる場所がなければ、ゴミも出まい!」などとのたまい、市街にあるゴミ箱を全撤去させ、ゴミ処理施設を強権で閉鎖させたこともあった。
それもマリアロイゼがうまく取りなして、短期間の一時的な措置で終わらせたのだが、とにかく彼は思いつきで行動し、またその結果の責任を取ろうとしないのである。
人の上に立つ者としては最悪なタイプだが、彼は王子という強大な権力を持つ星の元に生まれてしまった。
結果、苦労するのは周囲の人間と国民達という最悪の図式が構成されている。
「ええい!早くあの女を処刑せねば、民の心を掴めんというのに…!」
ミッシェルは、自分のやってきた事が間違いだったとは欠片も思っていないのだが、その癖、マリアロイゼが後始末をしてくれてきたのを、本能的に察していた。
今回の聖女召喚が失敗した事を、彼女の責任という事にしようというバーロ法王の策に乗ったのも、マリアロイゼに押し付ければ上手くいくという、これまでの悪しき経験則によるものなのである。
自身の浮気の不始末と、聖女召喚の失敗という、彼女には何ら関係のない失点も、マリアロイゼなら受け入れてやり過ごしてくれると信じているのだ。
そんなミッシェルにとって、今回マリアロイゼが処刑を拒み、自分の手元から脱走したというのは、彼にとっては信じられない裏切りであった。
「申し訳ございません。マリアロイゼ様があの中年男を連れて世界樹の森林の方へ飛び去ったのは、見たものがいるのですが…」
怒りと焦りで苛立つミッシェルの横で、命令を受けたであろう部下が冷や汗を掻いている。
ミッシェルにとって、他人というものはさして興味のない玩具のようなものである。
望めずともいくらでも手に入るし、要らないと思えば簡単に捨てられる。
周囲の人間はそれを痛い程解っているから、迂闊な事は言えない。
もし万が一怒りに触れれば、即座に処刑宣告されても不思議ではないのだ。
今まではマリアロイゼがそれを抑えてくれていたが、彼女はもうここにはいない。
そして、彼女の後釜になろうというドロア侯爵令嬢は、そんな事は考えもしないだろう。
普段の我儘ぶりからして、むしろ王子と一緒になって、人を使い潰すのが目に見えている。
王子の周囲にいる人間達は、戦々恐々としながら、日々を過ごしていた。
「ちっ!森に隠れ潜んでいるとでもいうのか…ええい、お前達では埒が明かん!俺が行く!」
「は?!お、お待ちください王子!いくらなんでも御身が出張るというのは…」
「ふん!お前達に任せた所でどうしようもあるまい。マリアロイゼの奴は、俺が声を掛ければあんな中年男など捨てて顔を出すに決まっている!どうせ俺へのあてつけで逃げ去ったのだろうからな!せっかくだ、一度くらい抱いてやれば、すんなり言う事を聞くだろう。まったく女というのは手間がかかるものだ…!」
ミッシェルは、マリアロイゼが天児と逃げたのは、自分が彼女を蔑ろにしたからだと考えているようだ。
彼は顔だけならば美男子の部類に入る為、少し甘い顔をすれば女性はなんでも自分の言う事を聞くものだと思い込んでいる。
特にマリアロイゼは、立場もあって彼に逆らう事はしなかった為に余計その思いが強かった。
『男は女性を守って並び立つ者』という基本的なこの世界の思想が、彼には欠落していた。
こうして、ミッシェルは供周りの者を従え、万全の準備を整えて世界樹の森林へ足を踏み入れた。
この後、彼は三週間ほど森を彷徨った挙句、森に潜むモンスター達に襲われて這う這うの体で王都へ逃げ帰る事になるのだが、それはまた別の話である。
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