天児絶体絶命!?
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
パチパチと焚火の中で木が弾ける音がする。すでに陽は落ちて月が出ているせいか、少し肌寒い。
最近はご無沙汰だったが、BBQは会社のイベントで若い頃に散々やらされたせいか、天児はそれなりに手際がよい。
天児とマリアロイゼ、そしてフレスヴェルグは、山の中で見つけた沢のほとりでキャンプをすることにした。
スタンディングベアー3頭を倒した後、一行は水の流れる音を頼りにこの沢へ辿り着いたのだが、そこで日暮れを迎えてしまった為にここで夜を明かす事にしたのだ。
幸い、ジョゼフィーヌから預かったリュックの中には、簡単な調理器具一式と、この世界の寝袋が入っており、周囲の安全にさえ気を配れば凍えて眠るようなことはなさそうだ。
「そろそろ焼けたかな…?はい、ロゼさん。熱いので火傷しないように気を付けて下さい。ほら、フレスヴェルグも」
木串に刺した川魚が焼けたので、マリアロイゼに手渡す。見た目の色合いはやたらファンキーな色をした魚だが、タブレット越しにアクシスに聞いた所、食べられる魚だという、せっかくだからと焼いて食べることにした。何より携帯用の保存食量は貴重だ。
フレスヴェルグも器用に片足で串を持って、頭から嘴で啄んでいる、なかなか面白い光景だ。
「ありがとうございます!テンジ様の手料理…ああ、食べるのがもったいないですわね!」
釣った魚をただ串に刺して焼いただけなので、手料理というほどのものでもない気はするが、喜ばれて悪い気はしないものだ。
魚の他には、道中で倒したリトルボアも食べられるようだし、そちらも切り分けて焼いている。
ちなみに猪の解体方法もアクシスが動画付きで解りやすく教えてくれた。狩猟系配信者さながらである。
異世界に来たというのに、やっている事が現代日本と同じような感じで、天児は気が抜けてしまいそうだ。
「熱っ…でも、美味しいですわ!お魚を串に刺して焼いて食べるなんて…初めての経験です!」
さすがは公爵令嬢と言いたい所だが、考えてみれば、現代日本でもアウトドアが趣味でなければ、滅多に経験することでもない。
天児も基本的にインドア派な上、学生時代はぼっち気味だったので、会社のイベントがなければ未経験だっただろう。
強制参加で大変な思いをしてばかりだったが、この時だけは、面倒事を押し付けてきた部長に感謝しておく。
「そう言えば、会社は無断欠勤か…戻ってもクビ、かなぁ」
自分の分の焼き魚を口にしながら、天児はぼそりと呟いた。
特に愛着のある職場でもなかったし、年々酷くなる部長の小言と加齢臭に耐えかねていたので、いい機会と言えばいい機会なのだが、病気の娘を抱えたままで無収入は厳しすぎる。
妻の遺産は娘の治療費や将来の学費などに残しておきたいし、やはり早めに帰って職探しをせねばならない。
―無事、エリクシアを見つけて下されば、報酬はお約束しますよ?
彼女の羽をむしってでも工面させましょう。文句は言わせません。
天児の呟きを聞いていたのだろう、アクシスが力強く宣言した。
前から思っていたが、二人の力関係はどうなっているのだろうか?時折、女神よりも世界樹であるアクシスの方が、立場が上なのでは?と思う事がある。…どうも女神のキャラクターが掴めない。
「そうです!ドラグ家も支援は惜しみませんわ!失踪した女神様を見つけるなんて救世主ばりの英雄ですもの!」
「二人とも、ありがとうございます…!」
天児の手を握って、マリアロイゼも力説している。…手が魚の油でベタベタだ。
二人の心遣いは嬉しいが、この世界のものを持ち帰れるなら、金銭的なものよりも世界樹の雫が欲しいなと、天児は思っていた。
立ちどころに傷を癒し、体力や身体能力を向上させるあの雫があれば、娘美琴の難病も治せるかもしれないからだ。
そうであれば、この世界に呼ばれた事も意味があったと思えるだろう。
もちろん、マリアロイゼに出会えたことは、嬉しい事ではあるのだが。
娘の病気が治ったら、この世界へ連れてきたいと思う気持ちは段々強くなっていった。
食事も終わり、濡らした布で身体を拭いて、そろそろ寝ようかという頃合いになった。
どちらか一人が起きて火の番をするようかと思っていたが、フレスヴェルグは寝ながら警戒できるようなので、その心配もいらないそうだ。安心して眠れるというのはとても重要なことである。
リュックから寝袋を出すと、寝袋は一つしか見当たらない。キョロキョロと見回してもないものはないので、マリアロイゼに聞いてみることにした。
「あの、ところでロゼさん、僕の分の寝袋はどこでしょう?これ、一個しかないんですけど…」
「ああ、心配要りませんわ。この寝袋は夫婦寝袋と言って、二人用ですもの。…ささ、どうぞこちらに」
ちゃっかり先に寝袋に入っていたマリアロイゼが、寝袋の口を開いてポンポンとスペースを叩く。
ちょっと何を言っているのか解らない。
そんな風に冷静でいられるわけもなく、天児は猛抗議をした。
「な、何言ってるんですか!?ダメですよそんなの!だいたいジョゼフィーヌさんやディオンさんに申し訳が立たないでしょう!?」
「その点なら問題ありませんわ!叔母様からは許可を得ていますもの、決してテンジ様を逃すなと!さぁ、どうぞこちらへ!風邪をひいてしまいます!」
「いやいやいやいや、二人共何考えてるんですか!?っていうか出がけにコソコソ話してたのってまさかそれですか?!」
「ハァハァ!初心なネンネじゃあるまいし、テンジ様、観念なさいまし!大丈夫、天井のシミ…はないので、星を数えていれば終わりますわ!お母様の蔵書にもありましたもの!」
「それ言えばいいと思ってません!?」
完全にかかってしまったマリアロイゼの毒牙を逃れようとするも、パワーでマリアロイゼに勝てる訳がない。あっという間に寝袋に引きずり込まれ、天児は絶体絶命のピンチに襲われていた。
寝袋の中でギャーギャーと騒ぐ二人に苛ついたのか、フレスヴェルグは二人に向かって、衝撃波を込めたブレスを放った。
「ガァッ!!」
「うっ!?」
「あ…!?」
それは見事に二人の脳を揺らし、一瞬で眠り(気絶)に誘った。
静かになった二人に満足したのか、フレスヴェルグは悠々と眠りにつくのであった。
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