女神のそっくりさん?
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
どうにかこうにかマリアロイゼの口撃を躱していると、その内に天児達が神殿内に入る順番が回ってきた。
「おお、凄いなぁ…」
外から見た通り、神殿の内部はかなり広く、まるでギリシャ神話に出てくるような石造りの建物だ。
柱と柱の間に設置された長椅子に座り、両手を顔の前で合わせてお祈りをするたくさん人達の姿も相まって、かなり壮観な光景だ。宗教というものに明るくない天児でも、これだけの人が静かに祈りを捧げる姿は、グッとくるものがあった。
都合よく二人分の席が空いたので、マリアロイゼと共に並んで座り、女神像を眺めてみた。
10mほどはあろうかという女神像は、二対四枚の天使の羽を思わせる翼を持ち、左手は杖のようなものを高く掲げて、右手に天秤を持っている。
女神像そのものも恐らく石で出来ているというのに、ローブのような服のしわや、杖を持つ手、胸の谷間など、細部が柔らかそうに作り込まれていて、作り手の技術力の高さとこだわりが感じられた。
(さすが女神様、大事にされてるんだなぁ)
周囲に人がいるので、声には出さず、見様見真似で祈りながら、天児はいたく感心した。
待っている間に聞いたこの世界の男女論に関しては、思う所はある。
何しろ天児は力というものに縁がない男であったから、仮にこの世界に産まれていれば、間違いなく生きていけないタイプだろう。所謂、現代の人権思想や、多様性というものに理解があればあるほど、生き辛さを感じるかもしれない。
ただ、一方で、男女間のパワーバランスに差がないのは評価出来る点であろう。
この世界では、男女はあくまで対等なのだ。現に女性は守られる存在とされながら、マリアロイゼのように自ら戦う公爵令嬢を好くものさえいる。はみ出されてしまう者はあれど、それは天児達の住む現代社会でも同じである。
女神エリクシアはある種、ガチガチにシステマチックな思想で、世界を設計したのかもしれない。
異世界というものの文化に触れて、天児は、自分の世界の事を改めて考える機会が出来たなと思った。
それにしても、祈りというのはどうすればいいのだろう?天児は普段から、正月に神社で初詣しかしない男である。
それも無病息災、家内安全程度の願い事をするくらいのもので、祈れと言われてもあまりピンとこない。
とりあえず、貴女は今どこにいるんですか?と己の内で問いかけてみるが、当たり前だが答えなどあるわけもなく、マリアロイゼに行きましょうかと声を掛けられるまで、ひたすらモヤモヤした時間を過ごすばかりであった。
「テンジ様、ずいぶん熱心にお祈りされてましたわね。何をお祈りなさっていたんですの?」
「え、えーと…た、旅の安全、とか?その、早く見つかるといいなぁ、みたいな…?」
ハッキリ言って何も考えていないが一番近いのだが、それはあまりに酷過ぎる答えだろう。
とりあえず、当たり障りのない事を言って誤魔化すしかない。
「そう言えば…あの女神像は、誰かモチーフとかいるんですかね?なんだかすごくどこかで見た事があるような気がしたんですけど」
「女神様は女神様では…?ふふふ、テンジ様は面白い事を仰いますわね」
「あー、そっか…そうですよね」
マリアロイゼの答えを聞いて、天児は自分の迂闊さを痛感した。当然のことだが現代日本の感覚が抜けていない。
神というものを信じるか否かは現代でも意見が分かれる所だろうが、少なくとも現代でその姿を完璧に目の当たりにした人物はいない。なので、天児としてはこの世界の女神像も、ある意味、想像の産物だと思い込んでいた。
しかし、この世界では違うのだ。
世界樹の化身アクシスのように、現実に女神と共に暮らしたものもいるのだから、その姿は明確に実在するものとして扱われ、伝わっているのだろう。モチーフどころか、あの女神像は写真のように極めて正確な実像という事になる。
ではなぜ、あの女神像に見覚えがあるのだろう。どうしても、あの顔の造形はどこかで見た覚えがある。
マリアロイゼに手を引かれながら、元来た道を歩いていると、擦れ違う人の中に先程の聖女神官が居た。
「あっ!!」
天児は思わず大声を上げて驚いた。マリアロイゼを含めた周囲の人々も驚いているが、一番びっくりしているのは、急に目の前で大声を出された聖女神官の方である。
「な、なに!?」
「て、テンジ様、どうかなさいまして?!」
驚いた二人は、慌てて天児の方を向く。一方の天児はこんな偶然があるのかと、放心しながら目の前の女性の顔を覗き込んでいた。それにつられてマリアロイゼもその聖女神官の顔を見ると、両手で口元を押さえて、まるで雷にでも打たれたかのように固まった。
「な、なんなんだよ、アンタら…」
引いた様子で後ずさる聖女神官の顔は、まさに今見てきた女神像に瓜二つであった。
「ああ、なんだそんな事か。突然大声出されてびっくりしたよ」
神殿の傍にある、憩いの庭(と呼ばれる公園)で、三人はベンチに座って話をしている。
先程の聖女神官はエレオノールという名で、現在23歳の独身女性だった。
当初、突如奇声を発し、奇行をするカップルなんかと話したくはないと言われたのだが、こちらにマリアロイゼがいると知ると、安心したのか、話を聞いてくれることになった。
「すみません、驚かせてしまって。これ、どうぞ」
「お、ファージオ。これ新作だろ?気になってたんだよ」
話を聞いてもらうお礼に、神殿前の露店で買った袋ジュースを手渡すと、エレオノールは喜んでくれたようだ。ちなみにファージオはこの世界のありがとうを砕けた表現にしたものらしい。
それにしても営業に手土産は大事である。いや、最近は許されない風潮もあるのだが、天児の営業時代はそれが普通であった。
ちなみにそのジュースが新作かどうか、天児は知らなかった。何しろどのジュースも未知の名前がついているので、そこから味が想像できないのだ。ちなみに今渡したものはグァ~バ~オという名前のジュースである。
「んで、アタシの顔が女神様に似てるって?んー、たまに言われるけどさ。自分じゃよく解んないんだよね。家族からは、ひいお祖母ちゃん似だってよく言われるんだけど…」
ジュースを一口飲んで、エレオノールはくぅ~と声を上げた。酒でも入っていただろうか?だとしたら彼女は勤務中なので、色々マズい気がする。
―しかし、彼女はエリクシアによく似ています。
ただ、力は何も感じないので、その曾祖母というものが気になりますね。
タブレットを通じて見ていたアクシスは、天児にだけ聞こえる音量でそう言った。
貴重な手掛かりになるかもしれないと、天児はもう少し詳しく聞いてみる事にした。
「その、曾お祖母さんは今どちらに?」
「え?アタシが生まれる前に死んじゃったよ。曾お祖母ちゃんだもん」
「で、ですよね…」
この世界の平均寿命が解らないが、確かにそういう事もあるだろう。結局、暗礁に乗り上げてしまった。
「では、ご出身はどちらですの?お母様やお祖母様はご健在かしら?」
マリアロイゼがそう言うと、エレオノールは赤面しながらあたふたしだした。
どうやら、彼女もマリアロイゼの熱烈なファンらしい。
「あ、あの山を一つ越えた所にある、バーモントって村です。凄く田舎で、何もないんですけど…!皆元気です!」
そう言って彼女が指差した先には、大きな山が見える。
あの先に行くのかと、山登りなどした事が無い天児は、内心で途方に暮れるのであった。
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