異世界の男と女
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「この街の女神神殿は大きいんですのよ。アクシスさんは、女神の力が色濃く残る街と仰ってましたけど、それは皆が女神様の事を愛して、大事に思っているからですわ。…私がテンジ様を想うのと同じくらいに」
そう言って、スキップをしながら、天児の横を軽やかに歩くマリアロイゼ。言うまでもなく二人は恋人繋ぎで歩いている。
満面の笑みを浮かべて天児を見つめるその瞳は、貴族令嬢というよりも、歳相応に恋する女の子といった様子だ。
ただ、天児が恥ずかしさの余り恋人繋ぎから逃れようとすると、彼女が万力のような力でギリギリと締め上げている点を気にしなければ、とても微笑ましい二人に見えるだろう。
よく見ていると、天児の手はうっ血して紫色になったり、赤くなったりを繰り返しているのだが。
ジョゼフィーヌの屋敷を出て十五分ほどで、二人は『女神・エクシリア』を祀った神殿に到着した。
現在の時刻は朝の9時を少し過ぎたくらいで、神殿の前には祈りを捧げにきた多くの人々が長蛇の列を作っている。
なんでもこの時間に祈りを捧げる事を『フォルミィ』と呼び、この世界に住む人々の大半は、その祈りを欠かさないのだそうだ。
それは女神エリクシアがこの世界を生み出した時間が、ちょうど朝の9時頃だったから、らしい。
その為、皆朝はフォルミィをしてから仕事を始めるのが習いである。なので、この世界の朝は遅い。
現代日本の生活では、朝6時に起きて仕事に向かっていた天児にとっては、信じられない時間の使い方ではあるが、それがこの世界の常識なのだと言われれば、なるほどと素直に頷くしかなかった。
「いやぁ、凄い数の人ですね…!まるでお祭りみたいだ」
天児は人だかりを見て、地元の神社で行われる年に一度の祭りを思い出していた。
子供の頃から通っていた祭りで、あまり有名でない故郷にも、近隣からたくさんの人達が参加していた割と規模の大きい祭りである。
沿道には多くの露店や屋台が立ち並び、それが道行く人を楽しませている光景は、この世界でも変わらない。
ただ、これが日常だというのだから、それが凄い。たった一日の祭りに参加しただけで疲れている天児にとっては、感嘆の声が漏れるのも当然だろう。
「ふふふ、この沿道で商いをなさっている方々だけは、朝が早いらしいですわ。勤勉ですわよね」
そんなマリアロイゼの説明を聞いて、天児はどこか親近感を覚えながら、そういう仕事もアリかなぁと暢気な事を考えていた。
とかく日本のサラリーマンは家族との時間が取り難いのである。
日本に戻ったら、もう少し娘との時間が取れる仕事にしたいなと思いつつ、その為にいち早く女神を探す手がかりが欲しいと、天児は周囲の様子に気を配っていた。
神殿への列に並んでしばらくすると、少し先の方で誰かが言い争っている様子が窺えた。
何か問題でもあったのかと思っていると、どうやら変わった服装の女が、人相の悪い男に食って掛かっているようだ。
女の余りの剣幕にたじろぐ男は、そのままどこかへ逃げて行った。
なんというか、元の世界では考えにくい光景に見える。
「この世界の女性は、強いですね」
「ああ、あれは聖女神官の方ですわね。神殿に仕える衛士のようなものですから、腕が立つのは当然ですわ。基本的に前線に出て戦うのは男性ですから、ああいうのは稀ですわよ」
「そういうものですか」
「ええ。と・こ・ろ・で、強い女がお好みなら、すぐ隣に私がおりますけど?余所見をしてはダメですわ。…そう言えば、昨日テンジ様は私の事を、マリアロイゼと呼びましたわよねぇ?」
「えっ!?あ、あれは呼んだというか、その…ジョゼフィーヌさんに説明をするためにそう言ったまでであって、べ、別にそんなツモリでは…!」
先程まで恋する乙女のようだったマリアロイゼの瞳は、一瞬の内に飢えた肉食獣を思わせる獰猛な瞳に変わっていた。
人前だろうがなんだろうが、彼女はやると言ったらやるタイプだ。いや、凄味ではなく本当にやるだろう。
さすがに朝っぱらのこんな人目の多い場所で、バカップルよろしくキスをする趣味は、天児には無い。
どうにかしてこの危機を乗り越えようと、天児の脳はフル回転で働き始めた。
「そ、そう言えば!聖女ってどうして聖女なんでしょうね。聖人じゃダメだったのかな?」
咄嗟に口をついて出たのは、初めから疑問に思っていた事だった。
そもそも天児は聖女召喚で呼び出された為に、問答無用で失敗扱いだったのだが、もしそれが仮に聖人召喚であったなら、話は違っていたのかもしれない。
そんな疑問に、マリアロイゼはすんなりと答える。それはこの世界にとって何よりも当然の事と言えるほどに。
「それはもちろん、この世界をお創りになったのが、女神様だったからですわ。女神様は同じ女性に聖なる属性を与え、男性にはその聖なるものを守護するという崇高な役割を持たせたのです」
なるほど、と天児は素直に感心した。
聖なる属性を持った女性と、それを守る役割を持った男性。その共通の認識を持っていれば、どちらが上でも下でもなく、大切な両輪として並び立てるという事か。
そうであれば、マリアロイゼの言う男性が脳筋ばかりであるというのも納得がいく。つまり、男は強く女性を守る存在であることが何より求められるからだ。
一方で、彼女のように強くたくましく、男性に守られるより男性を守りたいという保護欲の強い女性には厳しい世界であるとも言える。
マリアロイゼが枯れオジフェチになった理由はさておき、天児のような弱々しい男性は、やはり長生きできないのだろう。
この世界では、天児は色々な意味でレアな存在である。そんな彼を逃すまいとする彼女の気持ちも、少し理解できた気がした。
そんな雑談を交えながら、天児は通り過ぎる際、ちらりと横目で件の聖女神官を見た。
その横顔は何故か印象的で、天児の記憶の片隅に残り続けるのであった。
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