とりあえず着替えを
ネトコン11応募作品、一日一回、17時更新を目指します。
「ふふ、可愛い姪に会えるのですから、その程度些末な事です。まぁ、本家が相手となれば、それでは済まないでしょうが」
よく見ると、その女性はマリアロイゼに雰囲気が良く似ている。
黒い翼に、二本の角。どちらも形は違うが、マリアロイゼのそれと同質のものだというのは、すぐに解るものだった。
マリアロイゼと違うのは、まず体格だ。この女性、マリアロイゼよりも二回りほど背が大きい。恐らく軽く2mは超えているだろう。
加えて、その筋肉質な腕はがっしりとして、鍛えこまれているのが手に取るように解る。逆にマリアロイゼが何故細腕で、あれだけの力を出せるのかが不思議なくらいだ。
(この方が、叔母様という人かな。…女性も十分鍛えられている気がするけど)
そんな事を考えつつ、天児はマリアロイゼに手招きをされて、静かにその横に立った。
「叔母様、実は私、あの粗大ゴミ…ミッシェル王子から婚約破棄をされました。ですが、そのお陰で、運命の出会いを果たす事が出来たのです。紹介致しますわ、こちらが、新しい私のフィアンセ、クカミテンジ様です」
「ど、どうも、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。九鬼天児と申します。…その、フィアンセというのは、マリアロイゼ…さんがそう言ってらっしゃるわけですが、まだその、ご両親にご挨拶もしていないので、正式なお話ではないというか…なんというか」
一瞬、ロゼと呼ぶべきか迷ったが、さすがに親族を前に愛称で呼ぶのは違うだろうと思い直し、マリアロイゼと呼んでおく。視界の端で、マリアロイゼの瞳が光ったような気もするが、そこは後で応相談だ。
亡き妻と結婚した時、既に妻の両親が他界していたこともあって、こういう挨拶をしたのは初めてだ。
天児は若干しどろもどろになりながらも、プレッシャーに負けないように営業スマイルで乗りきろうと考えた。
「テンジ様、こちら私の叔母でお母様の妹であられるジョゼフィーヌ・ドラグ様ですわ」
「ジョゼフィーヌ様…よろしくお願いします」
ジョゼフィーヌは、天児の爪先から頭の天辺までをじろりと見回して、どこからともなく取り出した扇子で口元を覆い隠した。その行動にどういう意図があるのか、天児にはよく解らないが、あまり快く思われては居なさそうだ。
「ジョゼフィーヌ・ドラグですわ。…失礼ですが、ずいぶんと斬新な服装をなさっておりますわね。どちらの田舎から出ていらっしゃったのかしら?」
「え?あ、ああ…申し訳ありません。その、これは一張羅と言いますか、他に持ち合わせが無いというか…」
よく考えてみれば、天児はこちらにきてから着の身着のままの恰好である。
ここに至るまで結構な目に遭っている事もあって、服装はボロボロだ。特に天児のスーツは自身の汗に加え、マリアロイゼの涙と鼻水、そしてフレスヴェルグの涎や胃液で、もはや取り返しがつきそうになかった。
片やマリアロイゼの方も、元の色のお陰で血汚れこそ目立っていないが、あちこち切れたり破れたりで、とても貴族の装いとは思えない有り様だ。
(マズいな、身嗜みは営業の基本だって、散々若い頃から言われて気を付けてきたのに…!)
そんな大失態に天児が肝を冷やしていると、マリアロイゼがそっとジョゼフィーヌに耳打ちをした。
ジョゼフィーヌは一瞬だけ目を見開いた後、扇子を畳み、目を伏せて溜息を吐く。
「どうやら深い事情があるようですね。そこは一先ず不問として、まず湯浴みをした方がよいでしょう。着替えはこちらで用意させて頂きます。よろしくて?」
「はい!ありがとうございます。過分な厚遇、痛み入ります」
「ふふ、元気があってよろしい。誰か!お客様を浴室へ案内なさい!」
ジョゼフィーヌが声を上げると、どこからともなく数名のメイドや執事のような人々が現れ、あれよあれよという間に天児は浴室へ連れて行かれた。
マリアロイゼは、それを満足そうに眺めた後、いそいそと自らも浴室へ向かうのだった。
一時間後、天児は風呂で身体を清めた後、用意された着替えに袖を通していた。
「用意されてたから着てみたけど。これ…どこかで見た事があるような…?」
子どもの頃、アニメで見た男装の麗人キャラクターが着ていた服によく似ている。これは軍服ではないだろうか?
蒼いジャケットの肩には銀色の肩章が着いていて、かなり豪華な装いだ。ちなみにズボンの色はブラックである。
ちなみに上下ともに身体にピッタリしているが、窮屈さは感じられない。現代日本には無いような、不思議な素材だ。
促されて向かった部屋には、既にマリアロイゼを含めた数名が待っていた。慌てて席に着くと、マリアロイゼが天児を見てうっとりとしている。
「まぁ!テンジ様、先程のお召し物も良かったですが、軍服もお似合いですわ…たまりませんわね!」
「サイズの合うものがそれしかなかったので心配していましたが…マリアロイゼの言う通り、なかなかお似合いですよ。元々来ておられた服は、綺麗に洗ってからお返ししますので」
「何から何まで、ありがとうございます」
隣に座っているマリアロイゼのテンションがかなりおかしいが、一旦無視する。ちなみに入浴の間、いつの間にかいなくなっていたフレスヴェルグは、ちゃっかり止まり木を用意して貰ってそこで休んでいたようだ。
元々着ていたものは吊るしのスーツなので特に惜しくは無いが、元の世界に帰る時には必要になるだろう。というか、軍服で帰るわけにはいかない、悪目立ちが過ぎる。
「待っている間に詳しい話はマリアロイゼから聞きました。なんでも異世界から召喚されたと…まったくあの出来損ないの王子はどうしようもありませんね」
「………」
ジョゼフィーヌの嘆きに、隣で座っていた男性も深く頷いた。さっきから一言も喋らないが、知らない男性だ。それとなくマリアロイゼに耳打ちすると、笑顔で教えてくれた。
彼の名はディオンといって、ジョゼフィーヌの夫だそうだ。大変無口な方なので、気になさらないで下さいね。とマリアロイゼは言った。
なるほど、と納得をして、目が合ったディオンに会釈をした。体格のいい強面の男性だが、ふっと表情を崩して会釈を返してくれたので、気のいい人なのかもしれない。
「まぁ、今日の所はゆっくり休むとよいでしょう。マリアロイゼ、貴女はお姉様に連絡を忘れないように」
ジョゼフィーヌがそう言うと、隣室からたくさんの食事が運ばれてきた。
天児は今日初めての食事に感激しながら、夜は更けていくのだった。
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